露天風呂・3

「え、あの〜……まだ、いていいんですかね?俺」



「うん。だって、入ったばっかりでしょ?まだ」



「そ、そうなんだけどさ……」




 目と鼻の先で座っているテンが答える。ナギと共に長い髪を上でまとめていて、露わになったうなじが妙に色っぽい。これが、温泉効果か!


 しかし、思春期であろう女子が恥ずかしくないのだろうか。俺のそばで、ゆったりと湯にかっている二人。まさか、初めての露天風呂で混浴することになろうとは。




「嬉しいでしょ?こんな可愛い子たちと、混浴できて」



「そういうの、自分から言うもんじゃないと思うぞ。まぁ、嬉しいけど……」




 なるべく、目線を向けないようにしていたのだが、会話をすると、ついテンの姿が目に入ってしまい、それに気付いたのか彼女がオーバー気味にリアクションを取ってくる。




「あっ!また、見た?エロいな〜」



「こんな距離にいたら、多少は見るだろ!てか、水着なのに、なんでタオルで隠してんの?」



「いやぁ……見られてもいいと思って、着てきたんだけどね〜。温泉だと、何か恥ずかしくなってきちゃって。しかも、ユウトがジロジロと見してくるから」



「いやいやいや!さっきのは、冗談ですって。本気で、ガン見する勇気はないから」




 まぁ、俺としてはタオルを巻いてくれてた方が助かる。水着姿だと露出が多すぎて、直視できないからな。


 すると、しばらく黙っていたナギが会話に加わってきて……。




「ユウトも、思ったより良い身体してるね。もっと、だらしない体型かと思ってたけど」



「そんな風に、思われてたんかい。普段から、そこそこトレーニングはしてるからね」




 ふぅ、危ない。こういう時の為に幼い頃から筋トレしていたようなものだからな。ムキムキとまではいかないけど、運動部の男子ぐらいの肉体は維持していて良かった。しかし、男でも上半身だけとはいえ、裸を見られるのは恥ずかしいものだ。




「ふーん。結構、厳しいとこなの?冒険者養成校ゲーティアは」



「ん?あぁ、厳しいとこもあるけど、楽しいことのほうが多いかな。やっぱり」



「へぇ、そうなんだ。私とテンも、来年はユウトの後輩になるわけだから。その時は、よろしく頼むね」



「そっか、そっか!了解。その時までには、良い先輩になれるよう、努力しておきます」




 冒険者としては先輩だが、年齢的には一個下の二人。冒険者養成校ゲーティアでは後輩として入学予定なのか。同じ学園生活を送れると思うと、今から楽しみだな。


 トントンと肩を叩かれ、テンから質問を受ける。




「気が早いかもだけど、卒業後の進路とか決めてるの?もちろん、冒険者になるんだろうけど。どこのギルドに行きたい!とか」



「あ〜、そういえば、俺……自分で、立ち上げることにしたんだよね。新しいギルド」



「えっ!マジ?普通、どっかのギルドで、ある程度の経験を積んでから独立っていうパターンは多いけど……今から、作るの!?」



「えっ、そうなの!?結構、無謀な挑戦だったりする?もしかして」




 その質問を、先に答えてくれてのはナギだった。




「あんまり、聞いたことないけど……ユウトなら、いけるかも。多分、強さは申し分ないだろうし。あとは、仲間次第かもね」



「仲間か……まだ、正式なメンバーが三人ぐらいしか決まってなくて。だから、申請も出来てない状態」



「そっか。確か、規定では10名から……だっけ?先の見えないギルドにスカウトするとなると、相当な良い関係性を築かないと難しいか〜」




 そこなんだよなぁ。スカウトしたい人材は、めちゃくちゃいるのだが、いきなり学生の立ち上げたギルドに誘って、入ってくれる人なんていないだろうし。地道に、人間関係を構築していくしかないのかもしれない。


「はい!」と小さく挙手するテンに、俺が視線を合わせると。




「えっ、じゃあ……入ってあげようか?私」



「ちょ!テン!?本気で、言ってる?」




 先にツッコミを入れたのは、俺じゃなくナギの方だった。俺的には嬉しい立候補だったが、さすがに驚くのは無理もない。




「結構、本気。だって、楽しそうじゃない?ユウトと一緒に冒険するの」



「楽しそうだけど、『ヴァルキュリア』には育ててもらった恩があるでしょ。それに、“九戦姫”にまで登り詰めたばっかりだってのに。そもそも、そんな簡単に退団させてもらえないから」



「えぇ……ナギの言ってることも、わかるけど。でも、自分の人生だよ?別に、好きなように生きたって良くない!?」



「それは……まぁ、そうなんだけど。そりゃ、私だって、テンとユウトがいるなら入りたいよ。でも、色々あるでしょ?私たち、プロの冒険者なんだから」




 何か不穏な空気になってきた。俺のギルドのせいで、揉めてほしくはない。何とか、しなくては。




「とりあえず!まずは、今度の作戦に集中しよう!!その作戦が失敗すれば、そもそも『ヴァルキュリア』の存続自体が危うくなるんだから」



「そ……そっか、そうだよね。うん」



「あ、でも……二人が入りたいって言ってくれたのは、嬉しかったよ。すっごく!ありがとう!!」




 素直に気持ちを伝えて頭を下げると、テンとナギは一瞬だけ互いに目を合わせると、俺に向かって気恥ずかしそうに微笑んでくれたのだった。


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