個人レッスン(イブキ)
作戦会議を終えた俺は、姐さんの案内で客室に案内されていた。
「ここが、『ヴァルハラ』の客室。シャワーにトイレは、中に完備されてる。ちゃんとしたお風呂に入りたかったら、露天風呂までどうぞ。お客人も、自由に入れるようになってるから」
「あぁ、言ってましたね。ありがどうございます」
でも、ここ女の子しかいないんだよな?男風呂とか、あるのかな。いや、ライアン先生がいたか。
とりあえず、俺は持ってきたリュックを床に置いて、部屋の隅々を見回す。必要最低限の物しかないようだったが清潔感はあるし、ベッドも高級そうだ。ただ体を休めるだけなら、寮よりも快適かもしれない。
「しっかし、キミがテンやナギと知り合いだったとはね。冒険者の世界って、意外と狭いもんだね〜」
「ははっ、そうですね。自分も、姐さんと共闘することになるとは思ってもみませんでした」
「そうだね。でも、共闘するからには……それなりに、頼りになってもらわないと。ね」
「えっ?」
「時間が無いんでね。ユウトには、今日から私たちの個人レッスンを受けて、急造で本番までに仕上げてもらうことになったから」
ニッと笑って、俺の腕を引っ張る姐さん。客室を出て、どこかへ向かっているようだ。個人レッスン……響きは良いが、この場合は嫌な予感しかしない。
「私たちと、言いますと……?」
「九戦姫の上位陣。互いの親交を深める為にもね。ただ、コーチとして雇えば、それなりの金額は取れる冒険者たちからの無料指導だよ?良い機会だと思って、気合いを入れて取り組んだ方がいいよ〜」
「た、確かに……贅沢なことかも、しれませんけど。ちなみに、レッスンの内容は?」
「それは、各コーチに一任されてるから、始まってからのお楽しみ。あ、着いたよ」
到着したのは中庭の広場。しかし、人型のカカシが何体か立てられていたり、武器置き場があったりと、憩いの場というより訓練場のような雰囲気が漂っている。
「剣の訓練でも、するんですか?」
「私が教えられるのは、それぐらいしかないからね。キミには、そろそろ七星剣術の新しい型を覚えてもらおうかな〜と思ってね」
武器置き場から適当な剣を一本取り出して、ストレッチを始める姐さん。確かに、俺はまだ七星剣術の初歩の二つしか修得していない。
「それは、ありがたい話ですけど……師匠の承諾とかは、取らなくて大丈夫でしょうか?」
「北斗先生には、事前に伝えてある。キミはもう、“
「おぉ、そうなんですか!それで、新しく教えてくれる型は、どんな……?」
「……七星剣術、“第五の型”と“第六の型”」
あれ!?“第五”と“第六”?てっきり、順番的に“第三”あたりが来ると思ってたのだけれど。
「“第三”と“第四”は、すっ飛ばすんですか?」
「その二つは、『静』の
「そうか。この短期間じゃ、作戦本番までには修得できない……?」
「多分ね。でも、これから教える技は『動』の
そう言って、彼女は剣の柄を逆手に持つと、一体のカカシの前へと歩いて行った。
「百聞は一見にしかず。まずは、見てもらおうかな……まずは七星剣術・五つ星、“
「
キイイイイイイン
「七星剣術・五つ星……“
ゴウッ!!
逆手に持った彼女の剣の刃が、緑色に輝く。
そして、その刃を地面に叩きつけると、その反動で高くVの字の軌跡を描いて、目の前のカカシを真っ二つに分断させた。
「凄い威力……ってか、大丈夫ですか!?カカシ、壊れちゃいましたけど」
「そっちの心配かい!これは、ヒナノのユニークスキルで直せるから、大丈夫。それより、ちゃんと見てた!?今の」
「み、見てました!もしかして、単体用の技ですか?」
「そう。広範囲に渡る技が、ほとんどを占める七星剣術において、唯一の単体技。それだけあって、多少の装甲なら容易く貫通するだけの威力を秘めている。ただし、
なるほど。技を繋げてコンボを生み出す七星剣術のスタイル的にフィニッシュ技に該当するってわけか。基本技で敵を怯ませて、
「覚えたいです!コツとか、ありますか!?」
「“
「う〜ん……分かったような、分からないような」
「あー、もう!口で説明するのは、性に合わん!!とにかく、やってみろ。少年ッ」
結果、そうなるのか。まぁ、実際にやってみないことには感覚は掴めないもんな。習うより、慣れろ……だ。数をこなすとするか!
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