ヴァルハラ

「首都浄化計画」まで、あと4日



 サガミハラ某所



「さ、着いたよ」



 次の日、『ヴァルキュリア』の無人送迎車で、ナギ、テンの二人と彼女たちのギルドホームへと案内された。周囲が、森林で囲まれた避暑地。

 そこには、まるで博物館のように荘厳な建物があった。



「ここが……『ヴァルキュリア』のギルドホーム?」



「そう、通称“ヴァルハラ”。神殿をイメージして作られた建物で、中には温泉とかサウナまであるんだよ」



「すごっ、高級別荘じゃん」




 昨日とは打って変わって、白のワンピースに麦わら帽子という夏っぽい清楚な衣装に身を包んだナギが、説明してくれる。

『漆黒の鎌』のギルドホームは、都会のオフィスビルのような様相だったが、ギルドによって色々な形があるんだな。




「ユウト。言われた通り、宿泊セットは持ってきた?」



「ああ、うん。リュックの中に、入れてきたけど……ここに、泊まるの?」



「その予定。テストに、合格したらね」




 こっちはキャップに、袖をまくったシャツを着たフェス帰りのようなテン。

 宿泊の準備をしてきてと言われたが、合宿とかあるんだろうか?とりあえず、施設は良好そうだが。


 それより、まずはテストに合格しないとだけど。

 どんな内容なのかが、気になるところだ。




 無人の送迎車が“ヴァルハラ”の格納庫へと勝手に帰って行くのを横目に、俺たちも建物の中に入って行く。簡単な生体認証はしていたが、旧“サイズ・ビル”に比べるとセキュリティーは甘く感じた。

 そもそも、人が寄りつかない場所だからだろう。



 中の造りも中世的で、立派な美術館を歩いているようだった。いくつか扉があるうちの一つを、先頭を歩いていたナギが開けると、そこには……。




「これで、全員かい?」



「いえ。もう一人、ナギたちが推薦した方が……あ!ちょうど、来たようですね」




 中にいたのは筋肉隆々でタンクトップと迷彩柄のボトムスを履いた大柄の人物で、手には巨大な剣を携えている。その周囲には、しかばねのように倒れ込んだ男たちが見えた。




「……さーて、お邪魔しましたっと」




 何となく嫌な予感がして、きびすを返そうとする俺の襟首を、すかさずテンが掴んで制止してきた。




「ちょっと、待て。協力してくれるんだよね?」



「したいけど!開けて、最初の光景がはエグすぎるって!!誰、あの人!?」



「あの人は……『九戦姫』第一席・蓮見はすみエリザ先輩。二つ名は、“戦車”のエリザ。純粋な戦闘力だけでいえば、ウチのギルドのトップだよ」




 二つ名から、物騒すぎる。しかも、女の人だったのか……“心が女性”パターンかと思っていたが、あそこまでの肉体、よく磨き上げたものだ。




る前から、逃げ腰かい?そんな臆病者は、テストするまでもないね。さっさと、帰んな!ボウヤ」




 完全に俺をロックオンして、怒声を放つ蓮見さん。正直、本当に帰りたい。


 そんな彼女をたしなめるように、そばで立っていた眼鏡を掛けた知的な女性が話し出す。

 思い出した。確か、あの人は『ヴァルキュリア』の副団長さんだ!少しだけ、話したことがある。




「エリザさん。やはり、今回のテストは少し厳しすぎると思います。仮にも、このギルドで一番の強さを誇る貴女あなたに、を浴びせることが出来れば合格だなんて」



「そうかい?何も、“私を倒せ”とまでは言ってないんだ。これでも、優しい難易度にしてあげた方だと思うけどね」



「全然、優しくありません。実際、今まで全ての挑戦者が、たった一発で気を失ってしまっています。せっかくの協力者に名乗りを上げてくれた方々だというのに……」



「気絶で済んで、良かったじゃないか。これが、本番だったら死んでるってことだろ?コイツらは。数だけいたって、戦力にならなきゃ意味が無いんだよ。いるだけでいいような助っ人なら、うちらの団員たちを連れて行った方が、よっぽど役に立つってもんさ」




“蓮見エリザ”もまた、団長と同じく男性を毛嫌いしているメンバーの一人であった。だからこそ、女性だけのギルドに入団したのに、肝心なところでというのは、彼女のプライドが許さなかった。

 だからこそ半ば強引に、このテストを直訴したのだ。




 って、随分と曖昧な表現だな。クリーンヒットしても、蓮見さんが納得しなければ合格にはならないってことだろ?

 もしかして、そもそも合格させる気がないんじゃないだろうか。




「ユウト、大丈夫?本当に嫌だったら、やらなくても……」




 不安そうに聞いてきたナギの顔を見て、俺は覚悟を決めた。あれだけ、協力するって息巻いておいて、試験逃亡はカッコ悪すぎる。やるしか、ない。




「いいや。ここまで、来たんだ……やらせてもらうよ。合格できなかったら、ゴメンってことで」




 俺は、宿泊セットの入ったリュックをナギに預かってもらうと、鋭い眼光で睨みつけてくる最強の戦乙女ヴァルキリーのもとへと歩み寄っていった。

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