フギンとムニン・4

 結局、俺のパンケーキを自分のものとしてしまったテンは放っておいて、ナギが説明に戻ってくれる。




「そこで、各自が無所属の助っ人に声を掛けていくことになったんだけど……」



「あっ!だから、俺が呼ばれたってこと!?ギルドに入ってちゃ、ダメなの?」



「『ヴァルキュリア』としては内々で解決したい事案なんだよ。本当は、そんなこと言ってる場合じゃないってのは分かってるんだけど……それだけ、団長の存在も大切なの。私たちにとっては、ね」




 首都にいる男たち全てと釣り合うぐらいに、大切な存在……か。随分と、慕われているんだな。

 部外者から見れば、“何百万人”と“たった一人”、比べるまでもないだろうが、もしその“たった一人”が自分の大切な人だったら?

 存在の価値に違いは無いと言うが、やはり身近にいる人であればあるほど尊く感じるのが普通だ。よほど達観しているような者でもない限り。




「そうか。そうなると、他のギルドに知られるわけにはいかないもんね……」



「そう。だから、ギルドに所属してなくて、口が軽くない信用のおける人物。そして、十分に戦力としても数えられる……それら全てを満たしている冒険者は、ユウトぐらいしか思い浮かばなかったんだよ」



「ありがたいけど……俺、養成校に通ってる見習いだよ!?受け入れてもらえるかなぁ?」




 ギルドは立ち上げようとはしてるが、まだ正式には申請してないので無所属ということで大丈夫だろう。とはいえ、いきなり見習い冒険者が助っ人ヅラして現れるのも、驚かれそうなものだが。




「そこは、まぁ……私とテン、あとはライアン先生もユウトを推薦してるから。“九戦姫”三人分の紹介なら、納得してくれるでしょ。それに一応、テストもあるみたいだし」



「テスト!?なんの?」



「もし、男の助っ人を連れてきた場合のみ、実力を見るためにテストを実施するんだって。一応、女性だけのギルドだから、助っ人参戦といっても男の力を借りるのに難色を示してる人もいるんだよ。中にはさ」



「協力するっていうのに、テストされるのか……何だかなぁ」




 いっそ、ライアン先生みたいにオネエ口調で行けば、「心は女」枠でテスト免除されるのかな?


 いや、やめておこう。めちゃくちゃ、テンに笑われる未来が容易に想像できた、今。




「それは、そうだよね……ゴメン。その代わり、ちゃんと報酬は出るから!」



「報酬?」



「うん。特に決まってはないけど、『ヴァルキュリア』側が用意できる要望なら、何でも答えてくれるって。もちろん、許容できる範囲でだけど」




 ほう、こちらからリクエストできるのか!それは、良いかも。パッと思いつくのは、シンプルに金銭、所有している秘宝アーティファクト、錬金兵装ってのを作ってもらうのもアリだな。


 俺が早くも報酬で頭を悩ませていると、ついにはパンケーキを平らげたテンが会話に戻ってきて。




「てか、ユウト。そもそも、やってくれるの?これは、現実世界の作戦ミッション。もちろん、命の危険だってある……っていうか、めちゃくちゃ危険。団長が自我を失っている状態だとしたら、本気で私たちを排除しようとしてくるはずだから」



「それは……確かに、怖いけど。でも、二人は行くんだよね?」



「そりゃあ、私たちのギルドの問題だから。でも、ユウトには関係ない話でしょ?わざわざ、命を賭ける理由がない。誘っておいて、変なこと言ってるのは分かってるけど。嫌なら、断ってくれてもいい……てか、断って欲しいぐらい。私はまだ、ユウトを守ってあげられるほど強くなってないから」




 俺のことを本気で心配してくれてるんだというのは、ひしひしと伝わってきた。

 逆に、そのテンの言葉で決意は固まった。




「いや、俺も行く。友達が危険な目に遭ってるかもしれないのを、黙って見てるのなんてイヤだし。それに、首都にいる男性代表として、関係は大いにあると思うんだけど……どうかな?」



「ん〜……わかった、ありがとう。でも、来てもらうからには、それなりにアテにするけど大丈夫?あの山の中で、成長が止まってたりしないよね!?」




 山の中……俺たちが初めて会った、傭兵襲撃の時か。そういえば、戦うところを互いに見るのは、あの時以来になるわけか。そう考えると、今回スカウトしてくれたのは、それなりに成長してると期待されてのことなのだろうか?




「ふっふっふ、あの時ですら実力の半分も出してませんから。ご心配なく!そっちこそ、少しは強くなったのかな?」



「はぁ!?当然だし!団長から専用の錬金兵装も貰って、レベル3のダンジョンも攻略しちゃったんだから!!見たら、開いてしまった実力差に泣き崩れちゃうかもね〜?ユウトくん」



「ほーう。それは、楽しみだ。ただ、泣き崩れるのは、そっちになるだろうけどなぁ!」



「はぁ!?絶対、私の方が上だしぃ!」




 まるで子供の喧嘩を見守る母親のように、ナギがハァと溜息を吐くと、言い争う二人を制止した。




「ハイハイ、そこまでそこまで!じゃあ、ユウト。合意ってことで、また明日、同じところで待ち合わせね。ウチのギルドホームに案内するから」



「あっ、うん!了解。じゃあ、今日は解散?」



「いや!今日は急遽、今からユウトの服選びに行くことに決めた。ファッションセンスは、全く成長してないから……私たちが、見繕ってあげるよ」



「あはは……よ、よろしくお願いしま〜す」




 結構、気合い入れて着てきた服なのに……こればっかりは、良くなる気がしない。










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