フギンとムニン・3

「ちょっと、待って……って、いうことは。気絶させることが出来れば、洗脳状態から解放できるの!?」



「例が一つしかないから、誰にでも通じる方法かどうか確実ではないけど……試してみる価値は、あるんじゃないかな。どう?」




 俺の回答に、「うーん」と悩む表情を見せるテン。

 さすがに、団長に手を上げることは躊躇ためらわれるのだろうか?命を奪うわけでもないので、良い方法だと思うのだけれど。




「団長自身は、一般人ぐらいの戦闘力なんだけど……持ってる“錬金兵装”が、厄介なんだよね」



「“錬金兵装”……?」



「団長のユニークスキル【錬金】は、並行世界から“未知の機械”を召喚することが出来るんだって。色々と条件はあるみたいなんだけど、呼び出せれば中位の秘宝アーティファクトクラスの性能を持つ兵器を、次々と生み出すことができる」



「だから、研究所とか言ってたのか……自分用の強力な兵器を生み出してたってこと?」




 中位の秘宝アーティファクトといったら、俺の光剣クラウ・ソラスぐらいなんだろうか?確かに、こんな武装を何個も所持してたら、本人が弱かろうが、それを補って余りあるだろう。

 手を上げるのを躊躇っていたわけではなく、そもそもなんだな。伊達に五大ギルドの団長じゃないってことだ。




「自分用の錬金兵装は、とっくに作成済み。詳しくは、今度また話すけど。そこで召喚していたのは、また別の兵器」



「別の兵器と、いうと?」




 しばらく俺たちの会話を黙って聞いてたナギが、アイスコーヒーを飲み干して、口を開いた。




「巨大な空中戦艦と……さっき言ってた、男性殲滅ウイルス。そのウイルスが完成するのが、五日後。すなわち、その日がテロ決行の日」



「く、空中戦艦!?空から、そのウイルスをばら撒く計画なの?」



「こちらが掴んでる情報ではね。つまり今、団長は空の上にいる。ニュースでやってなかった?巨大な未確認飛行物体」



「ああっ!あった!!あれ、その空中戦艦だったの!?」




 空中戦艦なんて、普段だったらロマンを感じてるところだったが、ウイルスを散布してくるとなると話は別だ。正直、まだ実感は湧かないが、実行されてしまったら首都は一瞬にして地獄絵図となるだろう。想像したら、恐ろしくなってきた。




「おそらく。今は光学迷彩ステルスで、船体を透明化させている。誰かに、発見されないようにね」



「それだけ巨大な船体が、光学迷彩ステルス付きかよ……さすが、オーバーテクノロジーの戦艦。並行世界って、そんなに技術が進歩してるのか」



「並行世界は無限に存在してるからね。それだけ、数多あまたの可能性を秘めている。まあ、あまりに遠すぎる並行世界には干渉できないから、想像の範疇を越えるようなモノは召喚できないとは聞いたけど」




 並行世界にも近い遠いとか、あるのか。

 いわゆるマルチバースってやつだろう、映画とかで見たことがある。まさか、本当に存在したとは。




「その戦艦は、光学迷彩ステルスだけじゃないよ。もちろん、砲撃類の外付け装備も一通り揃ってるけど……最も警戒すべきは、自動人形オートマタを召喚する機能を内部に搭載してること」




 俺の前にあったパンケーキを奪い取って、何食わぬ顔でパクパクしながら、テンが言う。とても、「おい!俺のパンケーキだろ!!」とは言えないような空気感を作り出している。やり手だ。


 自動人形オートマタ……聞いたことはある。

 機械式の絡繰人形からくりにんぎょうのことなのだろうが、ここで言うオートマタとは、アンドロイドのような意味合いの方が強そうだ。




「召喚機能って、それも並行世界から?」



「推測だけど、多分ね。だから、上手く空中戦艦に乗り込めたとしても、無数のオートマタ軍団が待ち構えているわけ。だから、どうしても『ヴァルキュリア』だけの戦力じゃ、不十分だった」



「でも、『ヴァルキュリア』みたいな大ギルドなら、末端の冒険者まで召集すれば、かなりの人数になりそうだけど」



「今回が、なら、それで十分な戦力だったんだよ」




 そうか。これは現実世界の作戦ミッション。怪我などは治らないし、最悪は死んでしまうことだってある。十分な戦力が見込めないと、連れて行けないって判断か。


 テンが、ちゃっかり俺のパンケーキを二口目に差し掛かって、ナギが説明を引き継ぐ。

 もう、いっそ皿ごと持っていけ。




「ウチにも一応、治癒役ヒーラーのできるサポーターはいるけど、そもそも回復系のユニーク持ちは希少だし、数えるほどしか在籍してないの。もし、目の前でバタバタと負傷者が出たら、治療がメインアタッカーまで手が回らなくなって、結果的に大幅な戦力ダウンとなってしまう。だから、話し合いの結果、戦艦に乗り込むメンバーは『ヴァルキュリア』の最大戦力・“九戦姫”だけで行くことになったってわけ」



「“九戦姫”……聞いたことある。えっ、二人もなの!?」



「私とテンは、最近になって昇格した末席。一応、最速出世らしいけど。ちなみに、ライアン先生も“九戦姫”なんだよ」



「マジ!?“姫”って、感じじゃないけど……」




 ぼそっと、俺が呟いた一言にテンが手を叩いて爆笑している。ツボに入ってくれたらしい。




「ハッハッハ!言うねぇ。あとで、ライアンに報告しとこ〜っと!!」



「ちょ!それは、やめて!!」




 笑いながら三口目に手を伸ばそうとする彼女に、俺はそっとパンケーキの皿を、そのまま差し出した。








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