フギンとムニン・2
そして、やって来たのはテンが探してくれた昔ながらの喫茶店。若者の街にも探せばあるもので、客も良い感じに少なく、居心地の良い雰囲気だ。
「それで……二人の仲は、どれだけ進んでいるのか?だっけ。議題内容は」
俺とナギの二人に睨みを効かせながら、頼んだクリームソーダのストローに口をつけるテン。
そんな友人に、呆れ顔で答える彼女は大人っぽくアイスコーヒーを頼んでいた。
「そんな議題じゃないでしょ、まったく。それとも……そんなに気になるのかな?ユウトの恋愛事情が」
ちょうど隣に座っていたナギは、テンに見せつけるように俺の腕を組んできて、からかってみせる。
「はぁ!?べ、別に気になってなんかないし!てゆーか、密着しすぎだから!!え、なに、やっぱ、そういう関係なんですかッ?」
思惑通り、いや、それ以上に動揺している
「普通に、趣味友達だから。それより、俺を呼び出した理由は?まさか、そんな話をする為じゃないでしょ」
「あ、あぁ……そうだった。単刀直入に言うと、ユウトに協力して欲しいって話なんだけど。危険な
「危険な
尋ねると、テンはキョロキョロと周囲を見回してから、対面に座っていた俺に顔を近づけて、小声で言った。
「五日後……この
「ウイル……むぐぐっ!?」
あまりの内容に、つい大声が出そうになる俺の口を、隣にいたナギが冷静に手で塞いだ。
「声が、大きい!誰かに聞かれたら、どうすんの!?」
彼女の注意に、俺がコクコクと頷くと、ナギは静かに塞いでいた手を離してくれて、テンに話の続きを促した。
「首謀者は、黄河シオリ……『ヴァルキュリア』、うちのギルドの団長」
「ど、どういうこと!?なんで、そんなことを?」
「詳しい理由は、私達にも分からない。幼少期のトラウマから男性に嫌悪感を抱いていて、それで女性だけのギルドを立ち上げたっていう経緯は聞いてたけど。そんな大量虐殺を実行に移そうとするような人じゃないんだよ!優しくて、思いやりがあって……」
人には、誰しも裏の顔がある。表向きの人物像だけでは、その人間の本質は計れないだろう。もしかしたら、サイコパスな一面を隠して生きてきていたのかもしれない。
しかし、俺はこれと良く似たケースを知っていた。
「何か、団長さんに変わったことはあった?突然、性格が変わった……みたいな」
「私たちは普段、あまり接する機会が無いから、詳しくは分からないけど……格納庫として使っていた区域を、自身の研究所に勝手に変えて、引きこもるようになってた。って」
「うーん。それだけだと、何とも言えないけど……もしかしたら、団長さんは何者かによって洗脳されてるかもしれない」
「洗脳……?どういうこと!?」
そこへ、頼んでいたパンケーキが運ばれて、その時だけ、あたかも雑談してるかのように振る舞う俺たち。そして、店員が去って行ったのを確認すると、再び話を続けた。
「『漆黒の鎌』事件は、知ってるよね?二人とも」
「もちろん。黒岩団長が汚職をしていて、石火矢副団長が粛清した……って、ヤツでしょ?ざっくり、言うと」
「まぁ、ざっくり言うと、そんな感じ。黒岩団長も、元来はそんなことをするような人間じゃなかったんだ。それが突然、人が変わったように悪事に手を染め始めていったらしい」
「それも……誰かの“洗脳”が、原因だと?」
ジッと見て聞いてくるナギに、俺はコクリと首を縦に振った。
「実際、“
「そんな話、聞いたことないけど。ちゃんとした
「いや、信用できる情報だよ。だって、その場にいたからね。俺自身が」
「は!?なんで、ユウトが……もしかして、『漆黒の鎌』に入団してたの?」
一から説明すると、長くなりそうなんだよなぁ。
ここは簡潔に、納得してもらうか。
「ま、まぁ、ちょっとした知り合いが出来て、俺も力を貸してたんだよ。これは、ホント」
「ユウトって、謎に人脈が広いんだね……その話が本当だとして、“その事件”と“この事件”の首謀者が同じだとしたら、どちらも五大ギルドの団長を狙って洗脳したってこと!?」
「そうなるね。とても、偶然とは思えないんだ」
五大ギルドの団長たちを失墜させて、パワーバランスを変えようとしてる者の犯行か……何にせよ、こんなことを続けられたら、危険すぎる。
人の潜在意識に眠っている欲望を表面化させて、精神暴走させているのだろうか?そんなことを出来るユニークスキル使いがいるというのなら、それは恐ろしい存在だといえるだろう。
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