フギンとムニン・1
「首都浄化計画」まで、あと5日
ネオ・シブヤ
『待望の美少女冒険者ユニット“フギン・ムニン”、待望のデビュー曲「ふぎむに」!各ストリーミングサービスで絶賛配信中!!』
スクランブル交差点から見える巨大モニターに映る二人のアイドル。それぞれが白一色のふりふりな衣装、黒一色のゴシックな衣装と、対照的なコスチュームを身に纏い、配信中のデビュー曲の一部を歌い踊っていた。
ふと、手前で信号を待つ男性二人組が、そのCMを見て、感想を語り合っているのが聞こえてくる。
「あ、あのダンス!おすすめ動画で流れてきたわ。この歌だったんか」
「お前、知らねーのかよ!?“フギン・ムニン”。あの可愛い二人組、ああ見えて五大ギルドに所属してる冒険者なんだってよ?モデルとしても有名だったみたいだけど、次は歌も出すらしい。しかも、それが神曲でよ〜」
「どうでもいいけど……やたら、詳しいな。さては、ファンだろ?お前」
「なぜ、バレた!?ちなみに、黒い衣装のナギちゃん推し。一週間後にあるミニライブにも行く予定!お前も、一緒に行く?」
昨今のギルドは、ああした冒険者の芸能活動や配信活動などを容認するところも多いという。
ギルド自体の宣伝効果も上がるし、マネジメントも請け負うことで、活動資金を稼ぐことが出来るからだ。もちろん、冒険者にとってもギルド探索だけでは安定した収入には繋がりづらいので、ありがたい副業だといえる。
とはいえ、それなりの容姿や愛嬌、冒険者としての強さなんかは必要不可欠なのだろうけど。
交差点を渡った待ち合わせ場所に到着すると、キャップを深く被ったサングラスの少女が、やや大人びたオシャレコーデを着こなして立っている。
「えっと……テン、だよね?」
「あっ、ごめんなさい!今、プライベート……って、なんだ。ユウトかーい!!」
俺を呼び出したのは、『ヴァルキュリア』に所属している冒険者・忍頂寺テン。最近は忙しかったようで、こうして会うのは久しぶりだった。
「なに、そのサングラス?一瞬、誰だか分からなかったよ」
「何って、変装に決まってんじゃん。私のSNSの総フォロワー数、知ってます?ユウトさん」
「ハイハイ。多いことは、知ってますよ。さっきも、そこで大々的に宣伝してたし……“フギン・ムニン”さん。あの衣装、可愛いよね」
「ん、衣装……だけ?私は!?」
急にぐいっと俺と顔を接近させると、わざわざサングラスを少し上げて、睨みつけてくる彼女。
いや、いまや“フギン・ムニン”としてデビューなさった新人歌手と呼ぶべきか。
ただ、距離感が近いのは、いまだに健在のご様子。
「て……テンも、もちろん可愛かったよ!ちゃんと、ダウンロードもしたし。『ふぎむに』」
「おっ、マジ!?あれ、良い曲だよねー。今度、ミニライブやるから、ユウトも来てよ」
まさか、知り合いから歌手が生まれるとはな。友達が出演してるライブに行くって感じ、一度は味わってみたかったんだよな〜。アイドル好きでもあった前世の血が疼いてきたぜ。
「ごめん、ごめん。遅れた〜!もう、来てたんだ?二人とも」
そんな中、遅れてやってきたのは“フギン・ムニン”のもう一人の方・那須原ナギ。こっちはバケットハットに普通のメガネで、オシャレなお姉さんのような服装だ。
どちらもモデルをしてるだけあって、良い意味で大人びて見えた。いや、どちらも最初に会った頃と比べると、やはり見た目的にも成長している気がする。
「ちょっと、ナギ。そんな格好じゃ、すぐバレるって!もうちょっと、自分が有名人だっていう自覚をもたんか!!」
「言うほど、そこまで知名度ないから私たち。サングラスとかしてる方が逆に目立つよ?変なオーラ、出まくり」
「いやいやいや!サングラスは、古来から伝わる変装道具であってだな……」
変装道具ではない、陽射し避けだ。
中身は相変わらずそうで、安心した。
「とにかく、どこかのカフェにでも場所を移そう?ここで騒いでたら、それこそ目立つよ」
「へっ!?あ、あぁ……それは、そうだ。ここらへんって、良いカフェあったっけ?チェーン店とかだと、混んでそうだから〜」
脳内にあるMAPアプリで、慌てて検索を始めるテン。
ナギは、彼女の扱いを良く分かっている。
「おいっす。先週ぶり」
「うん。おはよ」
そんな俺とナギの何気ない会話に、テンが耳ざとく反応してきた。
「ちょっと、待った。なに、先週ぶりって!?二人とも、会ってたの?」
「うん。ちょくちょく一緒に遊んでるよ。ユウトとは」
「はぁ!?どどど……どういうこと?」
「アニメショップ巡りとか、そういうイベント関係。テンは興味ないでしょ?だから、ユウトを誘ってただけだけど」
そう、いわゆるオタク仲間というやつだ。
はじめの方こそ緊張していたが、いまやすっかりアニメやゲームの話で盛り上がり、ナギとは女友達というよりは男友達のような関係になっていた。
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