災厄の予兆・2

大量虐殺ジェノサイドね……確かに、そうかもしれないわ。でも、名だたる歴戦の英雄たちも、当時の視点から見れば、ただの大量虐殺者ジェノサイダーだったことでしょう。私のすることは、今は理解されなくても、後世で必ず賞賛されるはずよ」



「あなたが、男性に対して嫌悪感を抱いているのは分かります。ですが、そんなやり方では何も変わりません!女性だけのギルドで、相応の地位を得る為に『ヴァルキュリア』を立ち上げて、今まで頑張ってきたのではないのですか!?」



「そう。確かに、私は幼少期……義父から、性的暴行を受けて、それから男性に強い恨みを抱くようになった。しかし、その男は10年もしないうちに、処罰から解放されたわ。それもこれも、いまだにこの日本という国に男尊女卑の文化が根付いているから」



「それは……!」



「表向きには高い地位に女性を置いておいて、実質的には裏で権力を持つ男どもが国家を回している。そんな腐った現状を打破するには、男どもの数を間引きする必要があるのよ。ユウカ、あなたの頭脳は信頼してる……私の計画に、力を貸してちょうだい」




 ダメだ。原因は分からないが、今の彼女は話が通じないほどに、理性が失われている。その原因を突き止めて排除しない限り、言葉では団長を止めることは出来そうにない。




「そこまで言うなら、分かりました……ちなみに、その計画の決行はなのですか?」



「ふふっ、一週間後よ。今、男性ホルモンにだけ反応するナノウイルスを錬成していて、それを召喚するまでに一週間が掛かるの。当日、そのウイルスを空中戦艦レギンレイヴで首都上空から散布する……それが計画の、大まかな概要よ」



「……そうですか。それは、素晴らしい計画です」





 そんな言葉とは裏腹に、スッと隠し持っていた拳銃を構えると、黒宮ユウカは躊躇なく、その弾丸を団長に向かって発射した。




 キンッ




 しかし、その弾丸は彼女の前に現れた、七枚の光の壁によって遮断されてしまう。





「“七層盾姫ブリュンヒルデ”。私が召喚した、七層のバリアを生む絶対防御システム。理論上、侯爵級を一撃で殺すほどの威力の大技を、ほぼ同時に七回は撃ち込まないと、破ることは不可能。そんな弾丸では、一枚目の壁すら突破することは出来ない」




 胸元のペンダント型機構……“七層盾姫ブリュンヒルデ”を触りながら、余裕の笑みを浮かべる団長。その眼前で、光の壁によって潰された弾丸がコロンと床へと落ちていく。




「『ヴァルキュリア』副団長として、団長の愚行は必ず私が制止してみせます」



「あら、残念。昔から思っていたけど、あなた……頭の回転は早い割に、世渡りは下手よね。さようなら、黒宮ユウカ」





 黄河シオリが、黒宮を取り囲んでいた“騎兵槍姫ゲイルスコグル”に攻撃の合図を送ろうとすると、ふいに彼女の全身が金縛りにあったように動かなくなる。





「世渡りは下手ですが、危機管理は得意なんです。残念でしたね、団長」



「そう、か……【罰則】を、使っていたのね……くっ」





 黒宮ユウカのユニークスキル【罰則】は、限定したエリアの中で指定した罪に問われる行動を行った者に対し、天罰を与える。

 彼女は事前に最悪の事態を想定して、この地下格納庫に“黒宮ユウカへ攻撃を加えようとした者”を、天罰が襲うように【罰則】を仕掛けていたのだ。





「“セーブ・ポータル”……起動」




 その隙に、彼女が腕に着けていた秘宝アーティファクトを起動させる。

 レベル3の転移型アーティファクト“セーブ・ポータル”。セーブしたポイントへ、一日二回限定で瞬間移動できるという代物。『漆黒の鎌』が所有している『ブックマーク・ドア』の上位互換といえるものだった。


 出来るなら、ここで団長を捕縛しておきたいところだが、あの“七層盾姫ブリュンヒルデ”がある限り、自分一人では触れることすら敵わないだろう。

 無念ではあるものの、まだ猶予は一週間あるという情報は聞き出せた。黒宮は冷静に、一時退却の選択を決断したのである。




 シュンッ!!




 そして、姿を消す黒宮ユウカ。


 それと同時に、ようやく動けるようになった黄河シオリは、高らかに叫んだ。




「……空中戦艦レギンレイヴ、起動シーケンスを開始せよ!」




 予定を早めることにはなるが、この場にいたら、さすがにまずい。次に黒宮が、『ヴァルキュリア』最高戦力たる“九戦姫”を引き連れて来られては、さすがに自分一人では分が悪いだろう。


 彼女が今、一番に安全な場所は空の上……それも、最強のセキュリティーシステムを積んだ空中戦艦レギンレイヴの中にいることなのだった。




 ゴゴゴゴゴゴゴ……!!




 後日、太平洋沿岸にて、巨大な未確認飛行物体を多数の人々が目撃するというニュースが、各報道番組で取り上げられることになる。いずれ、それが首都を壊滅に陥れるかもしれない殺戮兵器となることを知るよしもなく……。










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