第7章 ワルキューレの騎行

災厄の予兆・1

 ヴァルキュリア・ギルドホーム「地下格納庫」



 厳重なロックを解除して、一人の女性が真っ暗闇の広大な格納庫内を歩いていく。ここは元々、五大ギルド『ヴァルキュリア』の車輌しゃりょうなどを格納しておく為の場所だった。

 しかし、最近は団長である“黄河こうがシオリ”専用の研究所ラボとして使われるようになっていた。



“黄河シオリ”のユニークスキル【錬金】は、という、異質かつ希少なスキルである。


 そのスキルには、いくつかの条件が存在する。


 まずは、並行世界にも存在しないようなテクノロジーを使ったものは召喚できないということ。

 極端に言えば、“人類を一瞬で滅ぼせるような兵器が欲しい”と願っても、何も出てこないわけである。


 次に、召喚するには、それが高度な技術を必要とする物であればあるほど、ダウンロードの時間が長くなるということ。

 中には、日を跨ぐこともあり、その場合は召喚した場所から再び【錬金】を使用しなければならない。


 三つ目は、そもそも三ヶ月に一回しかスキルを使用することが出来ないということ。

 とはいえ一度、召喚した機械は半永久的に使用できる為、一年に四回は破格の回数とも取れるだろう。


 最後は、手に収まるサイズの物しか召喚できないということ。

 これが制約の中では、一番に厳しいものであるといえるのだが……。




 そんな格納庫に侵入者が照明を灯すと、そこに現れたのは……巨大な、空中戦艦であった。




「これは……」




 ブーン!




 すると、そんな彼女の周囲を無数の小型ドローンが取り囲み、内蔵された銃口を向けてきた。


 その兵器が、侵入者・黒宮ユウカも良く知る『ヴァルキュリア』団長の錬金兵装“騎兵槍姫ゲイルスコグル”だというのは、すぐに分かった。


 平常時は球状の集合体として一つになっているが、いざとなると分離して1000機の小型ドローンへと変化する、並行世界のオーバーテクノロジーであった。加えて言うなら小型ながらも、その一機一機が様々な能力を有する高性能マシーンである。




「ようこそ、私のラボラトリーへ。ここへは、どうやって入ったのかしら?ユウカ」




 振り向くと、つかつかと歩いてくる団長・黄河シオリの姿があった。いないことを確認して侵入したはずだったが、どうやら身を潜めて隠れていたらしい。

 しかし、そんな動揺を見せることなく、副団長・黒宮ユウカは答えた。




「鍵開けの秘宝を、使ったんです。ロックは、現代技術を使ったもので助かりました。あなたのスキルなら、秘宝でさえも無効化するような鍵を創り出すことも、不可能ではありませんから」



「確かに、そうか……そこまで、考えが及ばなかったわ。さすがは、ユウカ。どうも、私には想像力が欠けていて、このスキルを上手に使いこなせてないきらいがあるわね」




 腰まで伸びた綺麗な黒髪に、真っ白な肌の美女。

 白衣姿で、首元には派手な装飾が施されたペンダントが下げられている。




「レベル5の秘宝『エボリューション・キット』……使用したんですね?」




『エボリューション・キット』。ヴァルキュリアが攻略したレベル5のダンジョンで入手したカプセル状の秘宝。その効果は、飲んだ者のユニークスキルの潜在能力ポテンシャルを一度だけ限界突破させること。


 アバウトな説明だが、ユニークスキルの種類によって限界突破効果が変わっていく為、こういう曖昧な説明をしているのだろう。





「……その通りよ。期待通り、あの秘宝は、私の【錬金】にダウンロード時間短縮と、サイズ制限解除の効果をもたらしてくれた。そして、召喚したのが、この『空中戦艦レギンレイヴ』。素晴らしいでしょう?」



「レベル5のギルド級アイテムの使用は、私含む九戦姫による承認がなければ、禁止されていたはず。こんな話は、聞いてない……なぜ、黙って使用したのです!?」



「それは、決まってるじゃない。これを召喚した目的を話せば、絶対に反対されてたでしょう。だから、独断で使用したの」



「目的?どんな目的が、あるというのです!?」



「ネオトーキョーにいる約600万人の男どもを、抹殺する。『首都浄化計画』の決行……その為に、この空中戦艦レギンレイヴは、必要不可欠だったのよ」




 あまりに平然とした顔で言い放った団長に、一瞬だけ理解が追いつかなかった黒宮だったが、すぐに思考を取り戻すと、彼女の言動に驚愕した。




「あなた……自分で、何を言ってるのか分かっているんですか!?」



「ええ。至って、私は正常よ」




 長い付き合いで、共に創成期からギルドを立ち上げてきた副団長には、すぐに分かった。

 いいや、彼女は正常なんかではない。狂っている……いや、正確に言えば、何者かの手によって


 少なくとも自分が知っている彼女ならば、そんなことを言うはずもないのは分かっていた。




「あなたのしようとしてることは、ただの大量虐殺ジェノサイドです。本気で言ってるのだとしたら、私は貴女あなたを止めなければならない」







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