ダンジョン・ラン
いよいよ、体育祭・最後の種目「ダンジョン・ラン」が始まった。
ダンジョンメーカーの作った200メートルのコースを一対一で、トーナメントを行うルール。
二年も含めた各クラスの代表が
一人は、下馬評通りの優勝候補・ロークラスB代表の“速水シホ”。
そして、もう一人は我がロークラスA代表の“神坂ナオ”……そう、見事に彼女は決勝まで勝ち進んだのだった。もちろん、ミドルクラスやハイクラスのランナーたちも遅かったわけじゃない。
この二人が、別格だっただけなのだ。
ダンジョン内の様子は直に見ることは出来ないが、ダンジョンメーカーの画面共有を、グラウンド中心に投影させた巨大な
今、スクリーンには決勝進出した二人がダンジョンの中へと入って行く様子が映し出されていた。
そんな映像に釘付けになっていると、アスカから通話が掛かってきて、俺は慌てて人の少ない場所へと移動する。
「もしもし。どうしたの?」
「うん、大したことじゃないんだけどね。お昼のとき、ごめんね?カケルが、変なこと聞いて」
「あ〜、いや。全然、気にしてないから」
天馬先輩の質問に、あの答えを返したあと、彼はニッコリと微笑むと、思いっきりアスカに怒られていた。力関係は、彼女の方が上らしい。
しかし、あの微笑みが何を意味していたのかは分からないままだ。大人しく引き下がってくれるといいのだが……。
「でも……ちょっと、嬉しかったかも」
「え?何が!?」
「私のこと、必要って言ってくれたこと。そんな風に思ってくれてたなんて、知らなかったからさ」
「あ、あぁ……うん。そ、そっか」
確かに今考えたら、めちゃくちゃ恥ずかしいことを言ってしまったような気がする。改めて言われると、照れくさくなってきた。
「えっと……まぁ、それだけ!決勝、出るんだよね?神坂さん。ウチの代表は負けちゃったし、応援してあげとくから。それじゃ!!」
通話は切れてしまった。
なんか結果的に天馬先輩へ宣戦布告したみたいになった気もするが、アスカも喜んでくれたっぽいし、良しとしておくか。
それより、まずは俺も応援に集中せねば!
一方、ダンジョンの扉前で、最後のストレッチを行う神坂に、速水が近付いていく。
「来ると思ってた」
「……速水さん」
「聞いたよ。このレースを最後にするつもりだって」
「正確に言えば、負けたら冒険者としても引退……って、感じかな。陸上選手には、もう復帰するつもりはない」
神坂の答えに、少し寂しそうな表情を浮かべて速水は言った。
「そう。残念だけど……手加減する気は無いから。覚悟しておいてね」
「望むところ。本気の速水さんに勝たないと、意味ないから」
「ふふっ。久しぶりね、あなたのその本気の眼。今日は、良い勝負が出来そうだわ」
準備の出来た二人が扉を開くと、そこは真っ直ぐに伸びた石橋があった。その下は、何も見えないほどの真っ暗闇が広がる奈落だ。
そこは、
しかし、それは先頭を走る者より一秒以上、離されると奈落に落とされるというものらしく、神坂さんサイドから見ると想定しうる最悪の部類のものだったのだ。
この
それすなわち、速水シホの独壇場ということだ。
今まで彼女と対戦してきたランナーたちも、ことごとく奈落に落とされている。一秒以上、離されたということである。
『さぁ、泣いても笑っても、これが本日の体育祭を締め括る最後のレースとなりました!どちらとも、ロークラスということで青組の加点は確定しましたが、この組み合わせは誰もが待ちわびた一戦といえるでしょう!!』
本格的な実況が、場内に響く。放送部の生徒らしいが、ノリノリである。
『まずは、陸上界の絶対女王!ロークラスB代表・速水シホ!!今までのレースは全て、相手を奈落に落としての完全勝利。この【神速】に勝てる者は、現れるのか!?』
まるで、プロのカメラマンが撮影しているかのように、速水シホの全身がアップで映像に映し出されて、
『その女王を討つべく、最強の刺客が決勝の舞台にやって来た!速水シホ最大最速のライバル、ロークラスA代表・神坂ナオ!!』
神坂さん……頑張れ。奇跡を起こしてくれ!
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