ランチタイム・2

 結局、謎の四人でランチを共にすることになった。周囲の視線は、もう気にしないことにしよう。


 二人は、小さなバスケットを取り出すと、中には手作りと思わしき、色とりどりのサンドイッチが入っていた。

 それに気付いた月森さんが、質問する。




「美味しそう!七海さんが、作ったの?」



「まさか。リンゴの皮も剥けないのに」



 つい、心の中のツッコミが口から出てしまい、ハッとすると案の定、アスカ様がこちらを凄い目で睨んでいた。




「おい。何で、お前が答えるんだよ」



「はい。すみません」




 そんな俺たちのやり取りを見て、天馬先輩が微笑みながら言った。




「アハハッ!これは、僕が作ったんだ。良かったら、どうぞ」




 そう言って、彼が差し出してきたサンドイッチを良く見ると、よくあるハムやトマトのような簡単なものではなく、ローストビーフなど贅沢かつ珍しい具材がふんだんに挟んであった。


 この容姿で、簡単な料理まで出来るんかい。


 月森さんと目を合わせて、先輩にペコリと頭を下げながら俺たちは、お言葉に甘えてサンドイッチをいただくことに。




「「いただきます」」




 う……うめえ。


 コンビニのサンドイッチというよりは、ちょっとした高級ホテルのビュッフェに出てきそうな奥深い味がする。具材だけでなく、調味料にも凝ってそうだ。




「ムカつくでしょ?それが、コイツのユニーク【勇者】の特性・其の一。“万能の加護”」



「万能の加護?」



「全ての基本スキルを、エキスパートクラスまでは常人の10倍のスピードで上げることが出来るという加護。その加護の恩恵を受けて、カケルの基本スキルは、ほぼ全てがrank80以上なの。だから、料理も出来るわけ」




 マジかよ……聞く限り、最低ラインが80ってことは、得意なスキルは90以上あるとみていいだろう。その名の通り、万能ってわけか。


 俺の【虚飾】は、rank100にすることが出来るが、一つだけしか発動できない。【回避】や【ヒプノーシス】など、効果時間が継続されるような例外を除いては、基本的に単体でしか効果を発揮しないのだ。


 しかし、彼のように満遍まんべんなくrankが高ければ、複数のスキル効果が重複して、相互作用を引き起こし、rank以上の効果も発揮できる。

 つまり、様々なスキルを重ね合わせれば、俺のrank 100をも凌駕するかもしれない……と、いうことだ。


 いやいや、何を考えてるんだ。どうせ、戦うことなんて無いんだから、そんな心配は杞憂だろう。




「おいおい、失礼だな。それなりに努力はしたからこその結果なんだ。ユニークだけの男みたいに、言わないで欲しいね」



「はいはい。そういうことに、しときましょ」




 軽妙なトークを繰り広げる二人に、サンドイッチを頬張りながら、月森さんが尋ねた。




「お二人って、どういうご関係なんですか?」



「どういう関係に見えるかな?」



「えっ!?そ、それは……」




 ニコッと質問返しする先輩の回答に悩む月森さんへ、素早くアスカがフォローを入れた。




「答えなくていいよ〜。ただの幼馴染だから」



「あ、幼馴染だったんだ」




 凄い幼馴染だな。美男美女で共にエース級の冒険者になるなんて。


 すると、今度は天馬先輩が俺の目を見て、問いかけてきた。




「そっちは、どういう関係なんだい?付き合ってたりするのかな」



「思ってても、聞くな!そんなこと。ノンデリめ」



「いいじゃないか、別に。アスカも、気になるだろ?」



「別に、気になんないし」




 どういう関係……付き合ってます!とか、ふざけて言ってみようか。いや、やめておこう。嫌な未来しか見えない。


 そんなことを考えてると、俺より先に月森さんが質問に答えてくれた。




「本当はもう一人、女友達を誘うつもりだったんですけど来れなくなっちゃって。だから、二人で食べてただけです。普通に、仲の良い友達ですよ」




 仲の良い友達か……それは、それで嬉しいけど。




「そうだったんだね。そういえば……植村くんは、アスカとギルドを立ち上げるそうだけど」



「えっ!?はい、まぁ……その予定ですけど」




 急な話の展開に、動揺を隠せない俺。別に、後ろめたいことはないのだが、なぜか緊張感が走る。




「凄い!植村くん、ギルドを立ち上げるの!?」




 初聞きだった月森さんも、驚きの表情でこちらを見つめてくる。それに、俺も無言で頷き返した。




「実は、俺もアスカをウチのギルドにスカウトしたいと思っててね。キミが軽い気持ちで、彼女とギルドを立ち上げようとしているなら、こちらにも考えがあるんだが……そこらへんは、どう考えているのかな?」




 ずっと、にこやかだった先輩の顔が途端に真剣なものへと変わった。どことなく感じていたが、やはり天馬先輩はアスカに好意を寄せているようだ。


 チラリと当の彼女の顔を見ると、どことなく心配そうな視線を俺に送っていた。

 そこで、俺の回答は決まった。





「俺も……軽い気持ちなんかじゃ、ありません。真剣に、そのギルドでトップになりたいと思ってます。その為に、アスカさんの力は絶対に必要なんです」









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