ランチタイム・1

 その後、様々な種目が行われ、前半を終えての総合得点において、我ら青組は最下位だった。


 ロークラス連合軍なので、順当といえば順当な結果なのだが、どうせなら大番狂わせを起こしてみたい気持ちはある。ま、自分は微力も微力なのだが。




「いたいた!植村くん!!」




 ランチタイムに入り、とりあえず校舎の中に戻ろうとしているところを、月森さんに声を掛けられる。




「ん、どしたの?」



「今日、学食はお休みらしいんだけど……植村くん、お昼はどうするか決まってる?」



「えっ、そうなの!?じゃあ、どうしよ。購買は、やってるよね?パンでも、買うかな」



「えっと……良かったら、お弁当を作ってきたんだけど。一緒に、食べない?」




 つ、月森さんの手作り弁当だと!?女子の作ったお弁当を食べるなんて、恋愛ゲームの世界だけだと思っていたが、現実で起ころうとは!




「それって……俺のために、作ってきてくれたってこと?」



「えっ!?ち、違うよ!私とナオの分を作ろうと思ったんだけど、材料を買いすぎちゃって……もう一人分ぐらい出来そうだなって思ったら、作れちゃって。うん、そういうこと!!」




 なんだ、だったのか……いや!贅沢を言うな、植村ユウト!!であろうと、『月森さんのお弁当』ということに変わりはないのだからッ。




「ああ、そういうことか。じゃあ、お言葉に甘えて、いただこうかな。神坂さんも、一緒なんだよね?」



「それが、ナオは早めに終わらせて、最後の調整したいから、一人で食べてて……って。多分、私に気を遣ってくれたんだと思う」




 お昼時間にも最終調整か。それだけ、『ダンジョン・ラン』に賭けてくれてるということだろう。




「じ……じゃあ、二人で食べようか」




 いざ二人きりとなると、それはそれで緊張してきた。良い加減、こういうのに慣れてこなければいけない。俺は、彼女をグラウンドの反対側にあるテラスへとエスコートする。


 この学園にはカフェテラスのように、外にテーブルや椅子が設置されているスペースが存在している。ご丁寧に陽射しよけの傘付きだ。いちいち、オシャレである。




 緊張しつつ、二人で席に着くと彼女は青い生地の可愛らしい包みのお弁当を、俺へ差し出してきた。




「はい、これ。お口に合うかどうか、分かりませんが。二人三脚の勝利祝いと、いうことで」




 そうなのだ。俺と月森さんの参加した二人三脚は、見事に一位を獲得することが出来たのだった。

 ほとんど、彼女が率先して練習に誘ってくれたお陰ではあるのだけれど。




「それを言うなら、月森さんも祝われないとでしょ。でも、ありがとう。いただきます」




 包みを丁寧に開けて、お弁当箱の蓋を取ると、卵焼きに唐揚げ、タコさんウインナーなと王道な内容となっていた。


 こういうのでいいんだよ、こういうので。




「どうかな?定番のものばっかりだけど、苦手なものとかありそう!?」



「いや!全部、好きなものばっかりッス!!いただきまーす」




 まずは、卵焼きを一緒に渡された箸で口へと運ぶ。


 だし巻き卵だ、美味い。多少、料理をかじったことあるので分かるが、卵料理というのはシンプルが故に奥が深く難しいのだ。


 とか何とか偉そうに語っているが、素直に料理が出来たんだということに感動している。将来、良いお嫁さんになりそうである。




「ど、どうかな?」



「美味しいよ、すっごく!どこで、習ったの?」



「お母さんに、ちょっとね。簡単な家庭料理だけ、趣味程度に。せっかく、こういう機会だから、作ってみようかなって」



「いや〜、ありがとうございます!おかげで、良いランチに巡り会えました」




 その勢いのまま、俺が弁当をがっつき始めると、それを彼女が両手で頬杖を突きながら、見つめてくる。まるで、育ち盛りの息子を見守る母親のようだ。





「ふふっ、美味しそうに食べてくれるね〜。作った甲斐が、あったよ。うんうん」



「いや、月森さんも食べてよ〜。見られてると、恥ずかしいよ」



「あはっ、そうだよね。ごめん、ごめん」




 ようやく、彼女も自分のお弁当を食べ始める。


 なんか、めちゃくちゃ良かったな。今のやり取り。

 これが夢にまで見た、女子の手作りお弁当イベントか……くぅ〜!





「同席していいかな?他の席が、空いてなくてね」



「ふぇ?」




 目の前のご馳走に集中していると、美声が聞こえて顔を上げた。そこにいたのは、何と天馬カケル先輩と、七海アスカの二人であった。


 確かに見回すと、周囲の席は埋まっていた。学食が休みということもあるのだろう。ちなみに、ほとんどの生徒たちが、こちらに視線を向けている。




「は、はい!どうぞ、座ってください」




 唖然としている俺を他所目よそめに、月森さんが二人の同席を許可した。幸か不幸か、うちらの席の椅子はちょうど二つ余っていたのだ。




「ごめんね、月森さん。お邪魔だった?」



「ううん!全然、そういうんじゃないから!!ね?植村くん」




 アスカと月森さんが同時に俺を見てくる。


 天国のランチタイムが一転して、雲行きが怪しくなってきた。




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