棒倒し

 棒倒し

 一年男子ロークラスA VS 一年男子ハイクラスA



 そして、始まる『棒倒し』。


 攻撃部隊と守備部隊に分かれて、自陣にある棒を倒し合うというシンプルかつ奥が深いゲームだ。

 肉体同士が激しく衝突するので怪我なども多く、コンプライアンス的に消え去っている種目かと思っていたが、冒険者養成校ゲーティアの校風なら逆に向いているのかもしれない。




「おりゃあああああ!!!」




 真っ先に敵陣に突っ込んで、迫り来る相手チームの面々をパワーで薙ぎ倒していくのは、山田ジュウゾウくんだった。


 敵対すると厄介な存在だが、仲間となると途端に頼もしくなる。このまま、棒まで行って倒してもらいたいものだが……。




「イキの良い奴が、おるじゃあないか!ワシが、相手になってやろう!!」




 そんなイケイケの彼の前に立ち塞がったのは、緑色の髪が印象的な、先輩と言われても気付かないほどに貫禄のあるマッチョマン。その筋肉隆々な身体は、あの山田くんが小さく見えるほどだった。




「どけ、オラアアアアッ!!」




 豪快なタックルを決める山田くんを真正面から受け止めると、そのまま彼の身体を持ち上げて、地面へと叩き落とす緑頭の男。




「残念だったのう!パワー勝負じゃ、ワシは負けんぞい!!ガッハッハッハ」




 トーナメント制で行われるクラス対抗の『棒倒し』。抽選で、俺たちが当たった一回戦の相手は運悪く一年ハイクラスAの強豪だった。

 二年生と当たるよりはマシかと思っていたが、さすがはハイクラスだ。ウチのエースを、いとも簡単に組み伏せるとは。




「植村ユウトくん!お手合わせ、願おうか!!」




 すると、俺の前にも一人の生徒が迫ってきた。その金髪の美青年が一挙一動する度に、女生徒からの黄色い歓声が聞こえてくる。

 そんな王子様みたいな人が、なぜに俺の名前を知っているのか疑問だったが、勝負は一瞬だった。




 ズザアアアアッ!!



「きゃあああああああ!!!」




 響いたのは落胆の悲鳴ではなく、歓喜の歓声。

 華麗なタックルで、あっさりと俺を倒してみせた王子様に場外がいた。


 この体育祭での棒倒しでは、ユニークスキルの使用は禁止されていた。つまり、今の俺は正真正銘のモブキャラのようなものだ。剣の稽古などを積んで、基礎体力は向上してきているものの、見習い冒険者たちの中で言えば良くて中の下、下の上……その程度のレベルでしかなかった。




「あれ?お嬢からの話で、期待してたんだけど……意外と、大したことないね。それとも、僕が強すぎただけかな」




“お嬢”って、誰やねん。とにかく、性格までイケメンということは無さそうで、逆に安心した。



 そんな戦況を、自陣の棒前で注意深く観察していたのは、青い長髪を後ろで一つに結んだハイAの作戦参謀・鳴海ソーマだった。




「両翼展開!」




 その号令で守備部隊が左右に散開すると、右にいた三浦の攻撃部隊と、左にいた霧隠くんの攻撃部隊が次々と制圧されていく。





「中央の攻撃部隊が派手に突っ込んでくることで、注意を引き付け、その間に左右から奇襲部隊が挟撃する……か。なかなか、良くできた作戦だったよ。ただ一つ、私の前でやったことだけが誤算だったね」




 ハイAの生徒に取り押さえられながら、三浦が悔しそうに呟いた。




「ちっ。圧倒的戦力差を覆すには戦略しかないと思ったが……作戦でも、上回られるとはな」




 中央突破を図った主力の三部隊も、植村部隊が、“一角ツバサ”に。山田部隊が、“牛久ダイゴ”に。上泉部隊が、“烏丸クロウ”によって、それぞれ制圧されていた。


 そして、ローA陣地の棒が、あっさりと倒される。


 超攻撃的布陣で最短決着を狙ったが、それを見越した敵は超守備的布陣で全ての攻撃を無力化してから、余裕で反撃へと移っていったのだ。



 下剋上と息巻いていたが、見事な完敗。


 ロークラスとハイクラスの差を、まざまざと見せつけられた結果となってしまった。




 敗北して、トボトボと出場ゲートをくぐると、腕を組んでドヤ顔を浮かべる少女が待ち受けていた。




「どう?ウチのクラスは、強かったでしょ」



「アスカ?そういえば、アスカのクラスだったか。ハイクラスA」



「そうだよん。まぁ、ドンマイ!クセの強い連中だけど、全員がギルドに所属しているエース級の冒険者だから。ユニーク無しじゃ、勝ち目は無いかもね」




 分かってはいるけど、悔しい。例え、勝つことが出来なくても、もう少し善戦できるぐらいには鍛えておきたい。例え、ユニークを使わなくとも。


 そこへ、勝利の凱旋を女生徒達にアピールしながら、俺を倒した金髪美青年が戻ってくる。




「おっ、お嬢。勝利の女神が、自らお出迎えかな?」



「誰が、勝利の女神だ!でも、まあ……一応、おめでとうとは言っとく」



「はははっ!素直じゃないね。そこが、良いんだけど」




“お嬢”って、アスカのことかい!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る