体育祭・3

「宣誓!我々、選手一同はスポーツマンシップに乗っ取り……」




 開会式に何とか間に合い、とどこおりなく進行して現在は朝礼台の上に立った二人の男女が、選手宣誓を行なっている。


 生徒代表として選ばれたのは二年男子の“天馬カケル”先輩と、一年女子の“速水シホ”さんだ。

 その二人が宣誓を始めると、目の前にたむろしていたカメラマン達が、一斉にシャッター音を切った。


 選手宣誓は前世から存在している伝統的なものだったが、あんな人たちは初めて見る。見るからにプロっぽい機材を持っている感じで、明らかに親御さんたちではないだろう。


 ちょうど隣に立っていた事情通に話を聞こうとすると、向こうの方から丁寧に説明を始めた。




「ウチの体育祭は、メディアの取材を許可してるそうだ。何せ、新設の学園だからな。良い宣伝をしてもらって、入学希望者を増やしていこうとしてるんだろう」



「なるほどね。だから、“あの二人”が選ばれたわけか。どっちも、すでに知名度抜群だもんな」




 に、しても……相変わらず、どこから情報を仕入れてくるんだ?この三浦という男は。色んな人の弱みとか握ってそうだな、偏見だけど。




「俺たちも、どさくさで映り込むかもしれんな。もう少し、キメてくれば良かった」



「安心しろ。俺たちモブキャラが映ったところで、背景となるか、ぼかし処理されるかのどちらかだ」




 考えれば、こういう思いを神坂さんは何度も味わってきたんだろうな。それは、自暴自棄にもなるかもしれない。同じ世界にいる同世代のスター……天馬カケル、アスカと一緒にいた【勇者】様か。




「やれやれ、ロマンの無い奴だ。ん……それより、見てみろ。あからさまに怪しい奴が、観客席にいるぞ」




 俺のことを肘で小突いて、悪友が観客席の一部を指差す。その指先を目で追うと、そこにいたのはキャメルのロングコートにサングラス、派手なスカーフを頭に覆った明らかに不審な人物だった。

 風貌を隠しすぎて、もはや男か女かすら判別不能なレベルだ。




「何あの、中東の女スパイみたいな人……よく、入島審査に通ったな」



「島に入ってから、着替えたのかもしれん。何にせよ、怪しいことには変わりない。お前のユニークで、相手の素性を確認できないのか?」



「出来ないことは、ないけど。いくら、怪しいからってなぁ……」



「何かあってからじゃ、遅いんだぞ?奴が何かしらの犯罪を計画していたとしたら、捕まえられればモブキャラ卒業!明日のニュースは、天馬に代わって、我々が主役となるのだ!!」




 結局、目立ちたいだけかよ……まぁ、不安の種は取り除いておくに越したことはない。新人狩りみたいな傭兵部隊もいたからな。念の為だ。




【虚飾】が、【鑑定】rank100に代わりました





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 植村うえむらミツキ

 38歳(女)日本出身

 元「アルス・ノヴァ」所属 S級冒険者

 身体能力 A


 スキル

【射撃(拳銃)】rank90

【近接戦闘(システマ)】rank90

【制作(料理)】rank82

【サバイバル】rank80

【爆破】rank77

【コンピューター】rank75


 ユニークスキル【軍神】rank ー


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 思いっきり、身内でした。

 しかも、軒並みスキルがエゲツない。




「えっと……あの人は、大丈夫だ。うん」



「この距離から、鑑定できたのか!?相変わらず、何でも出来るスキルだな。それで、何が大丈夫だと分かったんだ?」



「……あれは、俺の母親だ」



「にゃ、にゃんだと〜!?」




 驚きすぎて猫になってしまった悪友が、再び怪しいコートの人物に目をやると、俺の存在に気がついた母さんが、ぶんぶんと手を振ってきた。


 一応、自分が有名人であるという自覚があってのなのだろうが、逆に目立っている。もっと、良い変装のしようがあっただろ。




「はぁ〜。もしかしたら、俺がダサいのって、あの人の遺伝か?」



「おい。お前の母親、警備員に話しかけられてるぞ。大丈夫そうか?」



「えっ!?」




 俺らと同じく警戒した警備員によって、どこかへと連れ去られていく女スパイ。可哀想だが、一般客にバレるよりは良かったかもしれない。

 一生、お前の母親があの時……みたいに、同級生からイジり倒される未来だけは回避できた。


 まぁ、正体を明かせば、すぐに誤解は解けるだろう。母さんにさちあれ。




「これにて、開会式を終了します。休憩を挟みまして、『第一種目・クラス対抗の棒倒し』を行います。出場する生徒は、入場ゲートに集まってください」




 放送部のアナウンスが響き、いつの間にか開会式が終わっていたことを知る。しかも、いきなり俺の出場種目だ。気合いを入れ直さなければ。








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