体育祭・1
こうして、神坂さんとの特訓を繰り返し、迎えた
登校し、教室でジャージに着替えるローAの男性陣。窓の外を見ると、絶好のスポーツ日和であった。少し視線を下に移すと、グラウンドにゾロゾロと人が集まってきているのが見える。
そんな俺に、情報通の悪友が声を掛けてきた。
「普段は関係者以外の立ち入りは禁止されてるが、こうした大型イベントの時に限っては、島自体が一般開放されるらしい。もちろん、厳重な身体検査はあるみたいだがな」
「そうだよな〜。やっぱ、
「お前のところの母親は、見に来るのか?」
「一応、連絡はしといたけど……どうだろ?行けたら行く、みたいなことは言ってた」
正直、俺としては来て欲しくは無い。あまり、良い所も見せられる気がしないし、何より冒険者界隈では有名人の母親である。身バレして、身内が騒がれることほど恥ずかしいことはない。
「ふーん、なるほどな。上泉のところは、誰か来るのか?」
「ふぇっ!?」
急に三浦から話を振られて、教室の隅で着替えていたマコトが素っ頓狂な声を上げて、こちらを向いた。その姿を見て、俺はふと気付く。
「マコト、制服の下に着てきたんだ?体操着。意外と、めんどくさがりなんだな。ははっ」
「あはは……ま、まぁね。ちなみに、ウチは両親がいないから来ないかな」
「あぁ……そっか。ま、そっちの方が気楽で良いよな!」
まさか、両親が共にいなかったとは。深くは聞けなかったが、ここで深刻なリアクションをしても、マコトに気を遣わせてしまうだろう。俺は、つとめて明るい感じで彼に返した。
「中には、ギルドに雇われたスカウト連中も偵察に来ているという噂だ。アピールするチャンスだな」
「スカウト!?マジか。そんな高校野球みたいなシステム、あるんだ?」
「主に優秀なランナーの卵を目当てに来てるという話だから、俺たちには関係の無いっちゃ、無い話ではある」
「どっちなんだよ!でも、まぁ……夢のある話だな」
もしかしたら、神坂さんもスカウトされたりとか?そうすれば、
そうなると、ますます『ダンジョン・ラン』では良い成績を残さないといけないわけだが。
「そういえば、ユウト。ずっと、神坂さんと秘密特訓してたんだよね!?良い感じに、仕上がった?」
いち早くジャージに着替え終わって、青色のハチマキを頭に巻きながら、マコトが尋ねてくる。
ロークラスは青組、ミドルクラスは緑組、ハイクラスは赤組として、クラスごとに組み分けされており、俺たちは二年のローA・B、一年のローA・Bで青組所属となっている。
しかし、中にはクラス対抗の種目もあったりなので、同じ学年のローBとは敵であり味方でもある……と、いった感じだろうか。
一応補足だが、この学園は創立二年目なので三年生は存在しない。
「俺は、ともかく……神坂さんは、仕上がってると思う。『ダンジョン・ラン』、期待してて良いかも」
「そうなんだ!絶対、応援しようっと!!」
もちろん、俺だってマコトに負けじと応援するつもりだ。何もしてあげられなかったが、気分だけはコーチのような感情にまでなっている自分がいた。大変、お恥ずかしながら。
ルームメイト同士で盛り上がっていると、イヤイヤそうにハチマキを巻いている三浦が水を差す。
「それより、自分の心配をしたらどうだ。午前の部は、何の種目に出るんだ?」
「えっと〜。俺は二人三脚と、男子全員参加の棒倒し……だけかな、確か」
「二人三脚は、誰とペアになったんだ?」
「月森さん」
そうなのだ。なんと二人三脚は男女混合で行われて、しかも厳正なクジ引きの結果、俺は月森さんと組むこととなった。こんな恋愛シュミレーションみたいな展開が本当に起ころうとは。
もしかしたら、そういう運気が上がってきているのかもしれない。
「植村くんっ」
噂をすれば、何とやら。月森さんが教室の扉を少し開けて、ひょっこり顔を出してきて、俺のことを手招きしている。かわいい。
もちろんだが、女子は別に用意された更衣室で着替えていた。そして、俺は招かれるまま、彼女のもとへと歩いていく。
「どしたの?月森さん」
「着替え終わった?」
「うん。ちょうど」
「じゃあ、ちょっと屋上で最後の練習しておかない?二人三脚の!開会式まで、まだ時間ありそうだし」
さすが、真面目だ。二人三脚であっても、最後までベストを尽くそうとしている。いや、彼女もまたアスリートだということを忘れていた。
「OK。全然、良いよ!行こうか」
これが三浦からの誘いだったら、今から頑張ったところで何も変わらんわ!とか言って、一蹴していたところだが、相手が月森さんなら話が違う。
男というのは、どこまでいっても愚かな生き物である。
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