神坂ナオ・6
「ねぇ。あれ、神坂さんじゃない?」
放課後、
学園自体が高台の上に設置されている為、グラウンドの端の方にいくと下の土地や海が見下ろせる仕組みとなっていた為である。
「あ、ホントだ。隣で走ってるのって、彼氏かなぁ?」
「いやぁ、どうだろ?彼氏と一緒に、ランニングとかする!?フツー」
「お互い、走るのが好きならするんじゃない?てか、ちゃんと走れてるよね。事故で、選手には戻れないとか言ってたのに」
噂というのは広まるのが早いもので、“神坂ナオ”が退部届を出したことで、部内では勝手な臆測を繰り広げては盛り上がっていた。
「やっぱ、逃げたんだよ。速水さんから。そりゃ、彼女に次いで、ずっと二位だと悪目立ちしちゃうもん。気持ちは分かるけど、まさか、男を作ってたとはね〜。やることは、やってたんだねぇ」
「なんか、幻滅しちゃったな。裏で遊んでたから、速水さんに勝てなかったんじゃない?きっと」
「かもね〜。ま!遊んでなくても、勝ててないだろうけど……アハハッ」
そこへ、練習を一区切りした速水シホが、スポーツドリンクで喉を潤しながら、歩いて来る。
「随分、楽しそうね?」
「あっ、速水さん。聞いて、聞いて!さっき、神坂さんが男と楽しそうにランニングしてるとこ、見ちゃってさ〜!!どう、思う!?」
「……情けない」
「だよね!いくら、速水さんに勝てないからって、男に逃げるとか……マジ、情けない。見損なっちゃったよ〜」
その言葉に、彼女らに聞こえるぐらいの溜め息をハァッと吐きながら、速水は怒気をはらんだ声で言った。
「情けないのは、あなたたちのことよ。勝手な想像で、他人を卑下して……そんなことしてる暇があったら、さっさと練習に戻ったら?」
「え、あ、いや……私たちは、ただ……」
「少なくとも、知ってるランナーの中で、私と同じぐらいの練習量をこなしてたのは、神坂さんだけだった。そんな彼女を、私は今でも尊敬してるわ」
鋭い眼光で言い放った速水さんの圧力に屈して、バツが悪そうに無言で立ち去っていく女部員たち。
その姿を見送ると、彼女は下を覗き込み、もう遠くなった神坂の後ろ姿を視界に捉えると、ふっと笑顔を見せた。
そんなことが起きてるなど
「何、これ……今時、紙のメモ?アナログなんだね。植村くんって」
「そっちの方が慣れてるんだよ。それは、過去にあったアスレチックミッションのトラップ一覧表。攻略した冒険者たちの文献とかを漁ってきて、判明してるやつだけ、まとめてきた」
「トラップ一覧表……それを、何で私に?」
「ダンジョン・メーカーは過去のダンジョンのデータからコースを再現するはずだ。つまり、その中のどれかが本番でも使われることになる」
『ダンジョン・ラン』の最大の特徴は、アスレチックなトラップが出現することだ。ただの短距離走では、単純にスピードだけがモノを言うが、どちらかというと障害物走の方に近いのかもしれない。
「まさか、私を勝たせようとしてる!?相手は、【神速】の速水シホだよ、知ってる?」
「知ってるよ。一応、彼女のレース動画とか見てみたし……確かに、尋常じゃないぐらいに速かった」
「でしょ?全力は尽くすとは言ったけど、このレースは思い出作りみたいなもの。今更、本気で勝てるなんて、私だって思ってない」
「戦う前から、あきらめちゃダメだよ!勝負の世界は、何が起こるか分からない。奇跡が起こる可能性だって、ゼロじゃないんだ!!」
とか、偉そうに言ってるけど、勝負の世界に生きた経験なんて無いんだけど。ほとんど、スポーツ漫画で得た受け売りの言葉だったりして。
「現実は、そんなに甘くないよ。ずっと負けっぱなしだったのに、引退を決めて頑張ってみたら勝てました?そうなれば、最高のドラマなんだろうけど。相手に何かトラブルでも起きない限りは、無理。そうなったところで、勝てたとしても嬉しくないし」
「それは、普通の短距離走での話でしょ?でも、今回は『ダンジョン・ラン』だ。陸上選手としてじゃなく、
「それは……そうだけど。トラップ対策を付け焼き刃で身につけたところで、どうにかなる相手じゃないから」
「それだけじゃないよ。神坂さん、知ってる?ユニークスキルの中には、ダンジョン内では通常時より特別な効力を発揮するものが存在するってことを!」
そうなのだ。ダンジョン内では、俺の
もし、神坂さんのスキルが、ダンジョン内で第二段階へと進化することがあれば……!
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