LV2「暗きものたちの墓場」・7

 ズドンッ!!!



 投射された光剣が、ついに悪魔ビフロンスへ命中すると、漆黒の刃に奴の纏っていた紫のベールが巻き取られていき、その姿は完全に消滅した。




 ミッション クリア




 そして、墓場の中心に出現する青の宝箱。


 それを見て、ようやく安堵したのか、アスカはふっと肩の力を抜いて、言った。




「みんな、お疲れ様!今回の功労賞は、三浦くんね。帰ったら、みんなで褒めてあげて」




 ダンジョンで仲間がやられるのは慣れているのか、俺たちよりは平然とした様子だった。

 あまり、“仲間の死”というものに慣れたくもないが、これから上位のダンジョンに挑んでいく未来を見据えると、そこで動揺してしまうようでは攻略していけないということか。




「月森さん。宝箱を」




 しばし呆然としていた月森さんを、宝箱へとうながす。その言葉に、彼女もハッとして近くに出現したへ近寄って行く。


 蓋に手をかけ、仲間に目配せする月森さん。俺たちがコクリと頷いて返すと、意を決して宝箱を開けた。




 ギイイイイイ……




 中に入っていたのは、ただの真っ白な包帯が一巻きだけであった。




活性包帯かっせいほうたいDX』

 この包帯を巻くと、巻いた部位の自然治癒力が格段に活性化し、あらゆる外傷を完治させる。巻けば巻くほど回復するまでの時間が短縮されるが、再利用は出来ない。




 説明のテキストを読んで、まじまじと包帯を見つめながら、月森さんはつぶやいた。




「どう見ても、普通の包帯っぽいけど……そんなに、凄いモノなんだ。これ」




 そこへ近寄ってきたアスカが、彼女の肩にポンと手を置きながら、持っていた包帯を覗き込む。




秘宝アーティファクトって、こういうの多いよ。見た目は、どこにでもあるような道具なのに実は……的な、ね。こっちの方が、持ち運びしやすいし、使う時も目立たなくて良いからラクなんだよ」



「なるほど……確かに、目立つようなモノだと、人前で持ち歩くのも、怪しまれちゃうもんね」



「くれぐれも、普通の包帯と一緒にはしないように。分かんなくなっちゃったら、目も当てられないから」



「ふふっ、そうだね。うん、気をつける」




 軽いジョークに、思わずクスッとなる月森さん。アスカなりに、彼女を元気付けてあげたのかもしれない。バスの時から、何かと気にかけてあげている。




「ねぇ、終わったなら帰ろ!レイジが、ちゃんと生き返ってるか確認しなくちゃ!!」




 なんだかんだ、朝日奈さんはアイツと仲良くしていたからな。ただ、その気持ちは俺も一緒だった。




「うん!帰りのゲートも出現してる。帰ろう、現実世界へ!!」




 無事に目的の秘宝アーティファクトを入手した俺たちが出口をくぐると、そこには……。




「あ、お前ら!なるほど、そういうことか……」




 寝起きのような表情で、俺らを迎え入れたのは、五体満足な姿で立っていた“三浦レイジ”であった。

 その姿を確認するなり、大喜びで朝日奈さんが彼の両肩をバンバンと叩く。




「よかった、よかった!生きてたねー!!」



「やはり、俺はダンジョン内で死んだのか。目覚めた時は何も分からず、目の前のゲートに入ろうとしたら、扉が開かなかった。そこで、悟った。一度、やられたからこそ入れないのでは、とな」




 そうか。死んで現実世界に戻されると、ダンジョン内の記憶が失われる設定だったな。ゲートにロックが掛かってることで、自分がドロップアウトしたことを自覚するようになっていたんだ。


 そんな悪友に対して、アスカが笑顔を見せる。




「そうだけど、あなたのおかげで番人クリーチャーに勝つことが出来た。良い死にっぷりだったよ?三浦くん」



「何も覚えてないけどな。死にっぷりを褒められるのは、複雑な気分だが……まぁ、良い経験にはなった。そっちも、例の秘宝は手に入れられたんだろ?」



「えぇ。ちなみに、こんな戦利品もあるけど」




 そう言いながら、彼女が取り出したのは、見覚えのある小さなベル。


 悪魔ビフロンスが所有していた召喚器だった。


 それに、真っ先に気付いた月森さんは驚きの声をあげる。




「それ、骸骨兵を召喚していたベルだよね!?持ち帰ってこれるんだ……?」



「私も驚いてる。秘宝は分かるけど、悪魔の所有物まで持って帰れるなんて、聞いたことないケースだから」




 すると突然、アスカは持っていたベルを「チリン、チリン」と鳴らしてみせると、俺たちは揃って周囲を慌てて見回す。もちろん、骸骨兵が這い出して来ないかどうかを確認する為に。


 しかし、何も変わらない景色に、ホッと胸を撫で下ろして朝日奈さんが声を張り上げる。




「も〜……アスカちゃん!?急に、ビビらせないでよ!あいつら、出てくるかと思ったじゃん!!」



「ははっ、ゴメンゴメン!でも、やっぱり何も起きなかったわ。現実世界じゃ、効果が発揮されないみたい」




 三浦がベルを受け取ると、まじまじと見つめて、その機構をチェックしていく。




「そもそも、ダンジョン内でも俺たちが使って、骸骨兵が呼び出せるモノなのか?呼び出せたとして、クリーチャーとなって出現したら、自ら危機的状況を作り出すだけだぞ」



「じゃあ、どうするんだ?それ」



「とりあえず、持ち帰る。分解したら、何か新しい発見もあるかもしれんしな」




 分解って、大丈夫か?まぁ、機械には強そうだし、意外と良い情報を持ってきてくれるかもな。



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