LV2「暗きものたちの墓場」・6

「うわああああっ!!」



 突然、発狂したかのように骸骨兵スケルトンに怯えて逃げ惑う……という演技を始める三浦。

 自分から言い出しただけあって、無駄に演技力は高かった。


 数分前に、彼がグループ通話越しに話してくれた言葉が思い出される。

「おそらく、奴は知能を有してる。自身への脅威を察知するのも、戦闘能力が低いと思われる後衛に奇襲を仕掛けるのも、高い知性による行動といえるだろう」

 だからこそ、



 その読みどおり、迫真の演技に釣られて、孤立した悪友の目の前に悪魔ビフロンスがテレポートしてきた。弱って追い詰められた相手へトドメを刺す為に。




「かかったな!?」




 先程の爪を伸ばす敵に、三浦がニヤリと笑うと、その場所に透明化をし、待機させておいた二機のドローンが互いに繋いだ光線状のワイヤーを、悪魔ビフロンスの周囲を高速回転させながら、その幽体に巻きつけていく。


 これが普通のワイヤーならば、すり抜けてしまうところだったが、レーザーワイヤーは見事に敵の不確かな身体を捉えることに成功していた。


 さしもの感知力の高いボスといえど、自ら飛び込んだ先で姿を消していた機械ドローンにまでは、注意が行き届かなかったようである。




「やった!つかまえた!!」




 歓喜する朝日奈さんに、捕縛された悪魔ビフロンスは、必死の抵抗で右手を微かに動かすと、持っていたベルが「チリン!」とだけ、音を発した。


 その音が鳴ると同時にベルの中から、おどろおどろしいゴーストの群れが生み出されて、一斉に目の前にいた三浦へと襲いかかる。




「か……かはっ!?」




 ゴースト群が、全て三浦の体内へと吸い込まれるように消えていくと、たちまち彼の顔が青白くなっていき、口から泡を吐き始めた。




「レイジ!!」




 この囮作戦おとりさくせんが危険なことは覚悟していた。でも、どこかで無事に成功してくれるだろうという慢心があった。俺は、ダンジョン内で初めて仲間が、それも付き合いの長い友達がクリーチャーによって命を奪われてしまう瞬間を目撃することになる。



 悪魔ビフロンス召喚器ベルを使って召喚できるクリーチャーは骸骨兵スケルトンだけではなかったのだ。さっき召喚した亡霊ゴーストは、人間の体内に入り込むことで、少しずつ生命維持機能を侵食していく能力があった。


 あれだけ、大量の亡霊ゴーストが一気に侵食してくれば、一瞬でその生命は絶たれてしまう。




「あの……鐘を……止め……るん……」




 絞り出すような声を最後に、三浦の身体は完全に消滅してしまった。あれが、このダンジョンでの“死”を表しているのか。

 例え、現実世界で蘇生されると分かっていても、実際に生きてるところを見るまでは、素直に安心は出来ない。想像していた以上に、俺は動揺していた。



 三浦を滅ぼし、悪魔ビフロンスの布のベールに隠された深淵の影からギョロリと禍々まがまがしい目玉が出現すると、その眼球がショックで棒立ちになっていた朝日奈さんを見据える。




 チリン!




 短く一回のベル音、再び“あの亡霊ゴースト”が召喚される合図。全身の自由を奪われようと、その指先さえ動かせれば、奴の脅威は続くのだ。




「……っ!?」




 あれだけリアクションの大きかった朝日奈さんが、ガクガクと震えて、一言も声を発さない。三浦の死も相まって、彼女の恐怖もまた極限状態にまで達していた。



 俺と月森さんが、周囲の骸骨兵スケルトンたちを蹴散らして助けに入ろうと駆け出すと、なぜか一匹だけ不思議な挙動をしている骸骨兵スケルトンが、ひょこひょこと悪魔ビフロンスの近くに歩いて行く。


 さすがに、自身が生み出したクリーチャーには警戒心を抱かないのか、亡霊群はそれを無視スルーして朝比奈さんのもとへと襲いかかった。



 あわや二人目の犠牲者かと思われた、その時……朝日奈さんの目の前で、亡霊たちは次々と消失していく。一体、何が起こったのだろうか?




 すると、さっきのはぐれ骸骨兵が、いつの間にか悪魔ビフロンスから召喚器ベルを奪い取って、その正体を表した。




「シルエット・ツー……“怪盗ファントム”の特殊技能『イミテーション』は、視認した生物に姿形すがたかたちだけ模倣できる変装能力。あなたの召喚器おたから頂戴ちょうだいしたわ」




 なんと、骸骨兵に化けて油断させ、召喚器ベルを盗み取ったというのか。変身マントのように完全に別人物に変身できるというわけではなさそうだが、悪魔をあざむくぐらいなら姿形を真似るだけでも効果は十分だろう。

 それにしても、一つ一つの変化が高性能すぎる。改めて、『七海アスカ』という冒険者の実力を痛感させられた。




「植村くん!今だよ……今度こそ、決めて!!」




 頭上でグルグルと回転させた大鎌を、その勢いのまま月森さんが横薙ぎに振り払うと、俺と悪魔ビフロンスとの間を遮っていた骸骨兵たちが一掃された。きっと、これが最後のチャンスだ。



 友人を倒された怒りを光剣クラウ・ソラスに込めると、今まで見たことないほどに漆黒の色をした刃が生み出された。これが、俺の中に眠っていた“殺意”なのだろうか?


 少し怖くもあったが俺は躊躇なく、その刃を標的に向かって振りかぶった。




【虚飾】が、【投擲】rank100に代わりました

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