LV2「暗きものたちの墓場」・5

 ブンッ



 切先きっさきが当たる瞬間、悪魔ビフロンスの姿が消失する。手応えは無かった……これは、“瞬間移動”か!?



「きゃーっ!!」



 それと同時に後方から聞こえた悲鳴に、慌てて振り向くと、朝日奈さんの目の前に奴が出現し、ベルを持つ右手ではなく左手の方の姿を見せると、指先の黒光りした爪を伸ばしていく。


 ここからじゃ、貪狼ドゥーべも届かない。アスカや月森さんも彼女の方へと駆け寄るが……。



 ズバアッ!



「朝日奈さん!!」



「し……死んだああああ!!」



 死んだ人間が絶対に言わないセリフを叫ぶ朝日奈さん。どうやら、切り裂かれたのは装着していた防弾チョッキだったらしい。


 しかし、その威力は凄まじく切り裂かれた爪跡は融解して、彼女の肌が見え隠れするほどに削られていた。生身で受けていたら、それこそゲームオーバーだったかもしれない。



「最新鋭の防弾チョッキを貸してやった俺に、感謝するんだな!朝日奈!!」



 そう言いながら、最も近くにいた三浦がテーザーガン悪魔ビフロンスに向かって撃ち込むが、その一発はスルリと敵の身体をすり抜けていく。

 だが、その先端が電気を放った時、バチバチと音をさせ、それを嫌がるかのようにしてボスは再び瞬間移動で、今度は全く別の遠方へと逃げていった。



「た……助かったああああ!!」



 ぶはっと息を吐き、倒れ込むように膝をつく朝日奈さん。九死に一生を得たとは、まさにこの事だろう。



「油断するな!まだ、完全には助かっとらんぞ」




 チリン、チリン



 そして、再び鳴らされるベルによって、地中から生まれ出てくる骸骨兵軍団。戦況は、あっさりと振り出しに戻された。

 とりあえず、仲間の危機を救った悪友にエールでも送っておこう。




「ナイスカバー!レイジ!!」



「物理は効かなくとも、電撃には何かしらの反応は見せてくれると思ってな。上手くいってくれて、助かった。一時凌ぎにしか、過ぎんが」




 みんなも一時的に集合する形となって、再び迫ってくる骸骨兵スケルトンたちを迎え討とうとするところ、月森さんが不安げに話し始める。




「レッドキャップの時より、厄介だね……当たり前だけど。あの瞬間移動を、どうにかしないと」



「戦略家としての知識もある三浦くん?何か良い案があるなら、今のうちにどうぞ」




 三浦のプレゼンを覚えていたアスカが、悪戯いたずらっぽく聞いた。まだ余裕はありそうだが、この状況が続けば、さすがの彼女でも苦戦をいられることだろう。




「電撃で動きを止めるか……いや、奴の動きを止めれるだけの出力があるようなモノは持ち合わせてない。考えろ、あと一歩のところまで来てるんだ」




 ぶつぶつと独り言のように呟く三浦。頭をフル回転させて、打開策を練っているようだ。戦略家としての知識というのも、ブラフではなく本当なのかもと思わせてくれる。




「電撃で、足止め……?それ、出来るかもよ!レイジ!!」



 ピンと真っ直ぐ挙手をして、名乗り出てきた朝日奈さんに、三浦も何かを察したようで。




「朝日奈のドローンか!何か、あるのか?奴を、捕縛できるような機能が!?」



「ある!アルファとベータを、光線状のワイヤーで繋げて、目標をぐるぐる巻きにして動けなくさせれる機能……“レーザー・バインド”!!」



「そんな機能があるなら、さっさとやらんか!」




「忘れてたんだよ!!」と怒りながら、彼女は三体のドローンを起動させると、透明化ステルス状態にして、悪魔ビフロンスのもとへと飛ばしてみせた。




「植村!成功したら、敵の動きが止まるはずだ……その時を狙い、光剣を奴に向かって投げ飛ばせ!!」



「了解!」




 が、しかし……ドローンが近寄った瞬間、奴は瞬間移動をして、全く別の場所へとワープしてしまった。まさか、光学迷彩ステルスの機械まで感知したというのか?




「ダメだ!ちょっと動きを止めてくれないと、捕縛できないよー!!」



「動きを止めるために、動きを止めるなぞ、本末転倒だろうが!くそっ、敵の知覚が優秀すぎる!!これでは、こちらから近付くことすら……」




 こうしてる間にも、前線では三人のスイーパーが骸骨兵軍団を食い止めていた。体力や気力も無限ではない。消耗戦になれば、人間が圧倒的不利となるだろう。




「七星剣術・二つ星……“巨門メラク”!!」




 地面に突き刺し、拡散させた気で周囲の骸骨兵たちを吹き飛ばすと、耳元から悪友の声が響く。

 ここに来る途中のバスの中で、このメンバーでグループ通話が出来るようにフレンド登録を各自で済ませておいた。もちろん、ダンジョン内でのコミュニケーションを円滑にするための手段として。




「作戦を思いついた。少々危険は伴うが、これしか手はない……みんな、協力してくれ」




 俺含む前線の三人は、いまだ出現し続ける骸骨兵を駆逐しながら、三浦による作戦案の説明に耳だけ傾けた。


 確かに危ない橋だったが、このまま戦闘を継続したところで、状況は悪化するばかりだ。

 俺たちは全員、その危ない橋を渡ることを決めた。


 そして、決意を込めて三浦が口を開いた。



「決まりだな。では、これより……作戦名コードネーム“ミッドウェイ”を決行する!」



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