LV2「暗きものたちの墓場」・2
ロープウェイで島外へと出た俺たちは、そこから更に無人バスへと乗り込んで、目的地を目指す。
無人バスとは、その名の通り運転手のいない自動運転のバスである。便利な時代になったものだが、人間のドライバーさんたちが機械に変わっていくことを考えたら、なぜだか心が痛くなった。
そんなことなど全く考えてなさそうな三浦が、俺の隣の席に座って尋ねてきた。くそ、どうせなら女子と隣同士が良かったのに。
「で、目的のダンジョンがある場所は、どこなんだ?」
「都内の外れにある、小さな霊園」
俺の返答に、いち早くリアクションを見せたのは三浦ではなく、俺たちのすぐ後ろ最後部の座席に座った女性陣であった。
「れいえん?なにそれ!?」
キョトンとした顔で、朝日奈さんが聞いてくる。帰国子女だと、聞き馴染みがないのだろうか?ちなみに、さすがに怪しすぎると自覚したのか顔面のガスマスクだけは外していた。
その質問に答えてくれたのは、二人の女子の真ん中に挟まれた月森さんだ。
「いわゆる、墓地のことだね。お墓」
「えっ、お墓に行くの?今から!?」
「正確に言うと、お墓にあるゲートに行くんだけどね。まだ、そこまで暗くないし、そんなに怖いところじゃないと思うよ」
あからさまにイヤそうな顔を見せる朝日奈さん。分かりやすく顔に出てしまうタイプのようだ。まあ、墓地に行くとなって、テンションが上がる女子の方が何か嫌だし、仕方ないだろう。
「よし!さっさと秘宝を手に入れて、辺りが完全に暗くならないうちに帰ってこようね!!みんな」
「努力はするが、敵の強さ次第だな」
鼻息荒く、みんなを鼓舞する帰国子女に対して、あくまでドライな対応を見せる悪友。言ってることは正しいだけに、少しぐらい言い方に気を遣ってあげられないものか。
「月森さん。例のお友達の具合は、どんな感じなの?」
窓際で流れる景色を眺めていたアスカが、不意に月森さんに話しかける。一応、簡単な自己紹介はロープウェイ内で済ませてはいた。
「あっ、はい!両足が骨折してるみたいで、手術とリハビリ次第では普段通り歩けるようになるぐらいには回復するかもしれないって。でも、競技者として第一線で走ることは不可能に近いそうです……」
「そっか。結構、重症なんだ」
「はい。本人は思ったより、あっけらかんとしてますけど……内心は、ショックを受けてると思います。きっと」
そんな月森さんを、まじまじと見つめて、アスカは返した。
「でも、それは月森さんの想像でしょ?本当は、全く傷ついてない可能性だってある」
「そ、それは……そうですけど!でも、ナオは陸上に、走ることに全てを捧げてたんです!!ショックじゃないわけが、ないじゃないですか」
「人は弱者を見ると、勝手に“こうだろう”と決めつけてしまう傾向にある。可哀想に、とかね。でも、意外と本人は明るく前向きに生きてたりするんだよね。時には、普通に生きられてる私たちよりも」
「私の思い過ごしなんじゃないか……って、ことですか?」
何となく険悪なムードが二人の間に出来たことで、自然と俺たちも無言になってしまった。今は、黙って会話を盗み聞くことぐらいしか、することがない。
「相手の気持ちになってあげられるのは、良いことだと思うよ。ただ、時に善意だと思ってしたことも人を傷つけてしまうことがあることは、覚えておいた方がいい」
「ナオは……治ることを、望んでないと?」
「あくまで、その可能性もゼロではないという話。だから、もし秘宝を手に入れられたとして、渡す時は慎重にね?」
「……はい、わかりました」
アスカもアスカなりに色々と考えて、母親の治療薬を探しているのかもしれない。だからこそ、真剣に助言してあげてるのだと感じた。
「ごめんね。会ったばかりなのに、説教くさくなっちゃった。実は、私のお母さんも不治の病にかかっててさ?私も、同じように悩んだことあったから……つい」
「あ、いえ!七海さんの言うことは、正しいと思います!!言われてみれば、私は独りよがりな考え方だったなって、反省しました……」
「ううん、月森さんは月森さんなりに、友達のことを思ってのことだと思うから。誰が正しいとかじゃないよ。あ、あと……」
「はい?何でしょう!?」
規律正しい彼女の返事に、微笑みを浮かべながらアスカは答えた。
「その堅苦しい敬語は、やめて。同い年でしょ?」
「えっ、でも……七海さんは、冒険者としては先輩だし、ハイクラスでもあって……」
「関係ないから。
「わ、わかりま……わかった!七海さん」
ギリギリ修正した月森さんに向かって、アスカは「それでいい」とばかりに、うんうんと笑顔で頷いてみせた。
どうやら、丸く収まってくれたようで助かった。
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