LV2「暗きものたちの墓場」・1

 翌日、待ち合わせ通り、準備を済ませてロープウェイ広場へと到着した俺。まだ誰の姿も見えず、どうやら一番乗りのようだった。


『ダンジョン・サーチ』によれば、目的のゲートが出現するのは今夜の18時から。全ての授業が終えてきた夕暮れ時の今からでも、十分に間に合うことが出来るはずだ。



 そこへ、二番目に到着したメンバーが近寄ってくる。




「おいっす。早いね、ユウト」




 冒険者養成校ゲーティア指定の真っ白なジャージを身につけ、スポーツバックを肩に掛けている。

 部活帰りぐらいのラフさだ。まあ、俺も同じような身なりなんだけど。




「さすが、ダンジョン慣れしてるね。ずいぶん、リラックスされてらっしゃるようで」



「バカにしとんのか。まぁ、キミたちに比べたら、場慣れはしてる方だと思うけど。ユウトは、ちゃんとしたダンジョンは何回目?」



「えっと、2……いや、3回目だったかな。確か」




 しかも、どっちも特殊なダンジョンだったからな。試験迷宮が一番、まともだったまである。そう考えると、まだ俺も未経験のようなものかもしれないな。




「そっか。意外と、少ないんだ……まぁ、油断さえしなければ、大丈夫だと思うよ。あんまり、気合い入れ過ぎないようにね」



「うん、ありがとう」




 心なしか、彼女の反応が薄い気がする。もしかして、からかったことを怒ってるのだろうか?これから、ダンジョン攻略が待ってるわけだし、わだかまりがあるなら早めに解決しておいた方が良いだろう。




「えっと、アスカ……もしかして、何か怒ってる?」



「……怒ってる。何でだと思う?」



「えっ!?さっき、からかったから?」



「そんなことで、怒らんわ!ギルドを立ち上げるって決めたのが、これの交換条件だったってことに怒ってんの!!」




 マジか。昨日は、すんなり受け入れてくれてたから、そんなに怒ってたとは思わなかった。確かに、俺がギルドを立ち上げるって言った時は、凄く嬉しそうにしてくれてたもんな。




「ごめん!言われてみれば、デリカシーが無かったかもしれない。でも、この為に仕方なく決めたわけじゃないんだ。真剣に考えて、アスカとならやっていけると思ったんだけど……」




 俺の弁明に何も言わず、ただジッとこちらを睨みつけてくるアスカ。ヤバい、そこまで腹にえかねていたのか?もっと、誠意を伝えるしか……。


 次の言葉を模索してると、不意に彼女がニコッと笑って、口を開いた。




「ま!そこまで、言うなら許してあげる。理由はどうあれ、ギルドを立ち上げてくれることには感謝はしてたからね。この為にイヤイヤっていうわけじゃないなら、良しとしましょう」



「あ……ありがとうございます!やると決めたからには、真剣にギルドメンバーの勧誘も頑張っていくんで!!」



「うむ。期待しておるぞ、植村ユウト」




 二人で、謎のミニコントを繰り広げていると、三浦と朝日奈さん人物が一緒にやって来た……と言うのも、三浦の隣に歩いている人物が大仰おおぎょうなガスマスクで顔面を覆い、分厚い防弾チョッキをジャージの上から装着していたので、本人の確認が取れなかったからである。




「えっと……朝日奈さんで、合ってる?」



「ザッツ、ライト!レイだよ〜」




 グッと親指を力強く上げて、答えてくれる朝日奈さん。ゴツイ容貌から聞こえてくる声にしては、可愛すぎた。

 そんな彼女に、隣の三浦も呆れ顔でツッコむ。




「何でも良いから、身を守る装備を貸してくれと言うから、趣味のミリタリーグッズを貸してやったんだ。目立つから、やめておけと言ったんだが、本人がノリノリで止められなかった」



「だって、カッコイイじゃんねー?これ」




 三浦も三浦で、何でそんなものを寮に持ち込んでんだよ。そういえば、スタンガンとかも持ってたっけか。しかも、自分はジャージ姿だし。

 そんな彼女に、アスカが笑いを堪えながら声を掛ける。その姿がツボに入ったようだ。




「ぷっ……くく。まぁ、いいんじゃない?朝日奈さんは後衛だし、多少は動きづらくても身を守れる方が。目立つのは、本人が苦じゃないみたいだし」



「えっ、あんまり重装備は良くないんですか!?センセー!」



「誰が、センセーだ。まぁ、そうだね。基本的に、ダンジョン内では防御より回避が重要視されてるの。上位のクリーチャーになると、一撃を喰らっただけで致命傷になりかねないものばかりだから。生半可な装甲じゃ、すぐに溶かされる」



「ほぇー。だから、みんなジャージなんだ?てっきり、みんな甲冑かっちゅうでも着てくるもんだと思ってたよ〜」





 実際にダンジョンに入った経験が無いと、そういうことも分からないよな。俺は初手のダンジョン攻略から、手ぶらだったけど。そう考えてみたら、危機管理能力なさすぎだったのかも。




「ごめんなさーい!月森、遅れました!!」




 そこへ、最後のメンバー・月森さんが到着する。

 良かった、ジャージ姿だ。謎の装備は身につけていない。まぁ、甲冑姿も見たい気持ちはあったけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る