交換条件・3

 なんだかんだ決まった変なパーティーでダンジョンに挑むこととなった俺たち。次の日、報告がてら昨日と同じく階段の踊り場で月森さんと話すと、神坂さんのお見舞いに行けたようで……。




「それで、神坂さんはどんな様子だった?」



「それが、思ってた以上に明るかったというか……逆に、感謝までされちゃって。よく、分からないんだよね」



「感謝された!?どういうこと?」




 月森さんが直接的な原因ではないにしろ、両足を骨折して感謝するのは謎すぎる。彼女なりに、心配させないよう振る舞ったのだろうか?




「これで、もう走らなくて済む理由が出来た……って。まるで、ずっと走るのが嫌だったみたいに」



「走るのが、嫌だった……?ずっと、我慢しながら部活動をしてたってこと!?」



「言葉の意味をそのまま受け取るなら、そうなのかもしれない。だけど、私が知る限り、走ってる時のナオは楽しそうだった。でも、知り合って間もないし、それも単なる思い込みだったのかも……」




 何か、色々と予定外の事態が起きてるな。本人が、本当に骨折の事実を喜んでいるのなら、ここで治してあげるのは果たして正しい選択なのか。




「実は、一応……足が治るかもしれない方法が、見つかったんだけど。どうする?」



「本当!?それって、具体的にはどんな方法?」



「えっと……ダンジョンに潜って、治療薬の秘宝を手に入れる。ざっくり言うと、そんな感じ」



「ダンジョン!?なんで、そこに治療できる秘法があるって断言できるの?攻略するまで、そのゲートに何があるかなんて分かる方法は無いはずだけど」




 それが、あるのだ。俺のチート級レベル6の大秘宝アーティファクトを使えば。


 ただ、そのことはアスカから固く口止めされていた。同じギルドに入る人間以外には、その存在を明かさないように、と。なので、三浦や朝日奈さんにも、上手い具合に誤魔化している。




「それは、情報をくれた人との約束で明かすことは出来ない。でも、信用できる情報だと思ってくれていい」



「そう……なんだ。ダンジョンに挑むメンバーは?」



「今のところ、俺も含めて4人は集まってる。三浦や、朝日奈さんも参加してくれることになった」



「あと、一人は?」




 意外と冒険者事情に詳しい月森さんだ。もしかしたら、説明しなくても彼女のことを知っているかもしれない。




「七海アスカ……って、子なんだけど。月森さん、知ってる?」



「七海アスカ!?知ってるも何も、冒険者養成校ゲーティアでは、五本の指に入るぐらいの有名人だよ?逆に、何で誘えたの。そんな凄い人」



「ちょっとした知り合いで、誘ったらOKしてくれた」




 驚いた顔で、まじまじとこちらを見つめてくる月森さん。思った以上に、有名人だったらしい。そういえば、学食でもザワつかれてたもんな。




「ユニークスキルから、人脈まで……植村くんって、底が知れないよね。何者なの、ホントに」



「はは……それで、どうする?一応、ダンジョンが出現する予定は明日から。ご存知の通り、放置しておけば、どこかのギルドが発見して先に攻略されてしまうかもしれない」



「……やろう。もちろん、私も協力させて!」



「それは、ありがたいけど。神坂さんは、大丈夫そうかな?」




 俺の質問に深刻な顔で悩みながら、彼女は出した答えを聞かせてくれた。




「いらないって言われたら、引き取ればいいだけだから。それに……私には、どうしてもナオの言葉が本心だとは思えないんだ」



「それは……ルームメイトとしての、勘?」



「うん。友達としても、ルームメイトとしても、同じ競技者としても……色んな観点から導き出した、私の勘」




“勘”とは言ってるが、その語気は不思議と自信ありげに聞こえた。

 確かに、断られたとしても渡さなければいいこと。手に入れておくに、越したことはないだろう。




「了解。じゃあ、決行の方向でパーティーのみんなには連絡を入れておく。明日、学園が終わったら、一度帰宅してロープウェイ広場に集合で。バトルミッションだから、武器は忘れずに」



「うん!わかった」




 そこへ、担任のひじり先生が通りかかると、優しい声で俺たちに言葉を掛けた。




「あら、二人とも。そろそろ、ホームルームを始めるから、教室に戻ってね。今日は、体育祭の種目決めだよ〜」




 体育祭……そうだった、そんなこと言ってたような気がする。俺たち新一年生が入って、初めての大型行事。色々と変わってる種目もあったが、前世から変わらない定番なものまで、そこまで運動神経に自信がある方ではないが、生まれ変わって初めて迎える高校の体育祭だ。悔いなく、やり切りたい。



 そういえば、もし足が治ったら、神坂さんも体育祭には参加してくれるのだろうか?彼女がいると、いないとでは、ウチのクラスの成績は大きく変わってきそうな気がする。


 まぁ、それには、まず確実にダンジョンを攻略しなければならないのだが……。

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