交換条件・1

 昼休み、とある人物と待ち合わせを取り付けた俺は、二階席の端っこのテーブルで今日のおすすめランチセットを注文してポツンと一人、席に座っていた。


 冒険者養成校ゲーティアの食堂は、オシャレな大学なみに品揃えも豊富で、レイアウトも最先端を走っている。吹き抜けで二階席まで用意されており、更に全面の窓ガラスからは近くの海が一望できて、開放感も兼ね備えていた。


 リラックスできるBGMまで薄らと流されていて、ついウトウトしそうになると、周囲に座っていた生徒たちのザワつきで目が覚めた。

 その騒ぎの原因は、こちらへと近づいて来る一人の女生徒・七海アスカだった。


 特に何をしているわけでもなく、ただ歩いているだけ。それでも注目の的となるあたり、入学して早々に噂の人物となっているのが容易に想像できた。


 それは、容姿の面でも、強さの面でも、だ。




「ふふん。気分、良いでしょ?」




 目の前の席に、ヘルシーなAセットのトレイを置いて、どかっと座ると開口一番、彼女から出た言葉はだった。




「え、何が?」



「鈍感か!こんな、学園のマドンナと一緒にランチが食べれるなんて、嬉しいでしょ?ってこと!!」



「あ〜、はいはい。うれしい、うれしい」




 明らかな棒読みで、俺は目の前のランチを口に運びながら返す。ちょこちょこ、通話では話してるだけあって、こうした悪ノリも出来るような関係にはなってきたつもりだ。




「あ。そういう態度を取るんだったら、帰ろっかな〜?私とランチしたい人なんて、いっぱいいるし」



「それは、待って!ごめんなさい!!嬉しいです、めちゃくちゃ嬉しいッス!!!」




 すっかり忘れてたが、呼び出したのは俺だった。ここで帰られては、困るのだ。




「いいでしょう。最初から、素直にそう言っておけばいいのに……んで、急に呼び出して何の用?」



「ああ、うん。えっと、単刀直入に言いますと……保留にしてたギルドの件、やってもいいよ。と、いう話なんですけども」



「えっ、ホント!?一緒に立ち上げてくれる気になったってこと?」



「うん、そう」




 思った以上に、喜んでくれている。そんなに待ち望んでいてくれたのか。そうなると、交換条件が言いにくくなってくるのだが……。




「嬉しい!ずっと、はぐらかされて逃げられるのかと思ってたから。そうと決まったら、ギルド名とか考えなくちゃね!!あ、まだ気が早いか」



「ギルドの設立とかって、何か手順とか必要なの?」



「普通に、IEA……冒険者協会に申請するだけ。それで、審査が通ればギルド設立。その代わり、スタートメンバーが最低10人いないと、そもそも申請できないから、本格的な立ち上げは先になるかもね」



「10人いないと、ダメなんだ?結構、必要なんだね」




 長い髪を耳にかけて、パスタを小さな口に運ぶアスカ。いちいち仕草が可愛らしい。いや、俺が異性に免疫が無さすぎるだけなのかもしれない。結構、慣れてきたつもりなのだが、まだ女子と一対一は照れてしまうものがある。




「2人とか3人でバンバン申請されたら、協会も手が回らないからなんじゃない?お笑い芸人でもないんだから」



「言われてみれば、そうか。じゃあ、他の仲間も探していくの?これから」



「スカウトは、ユウトに一任するよ。私のいるハイクラスは、全員がギルドに所属しちゃってるからさ。その点、ロークラスはギルドに所属してない金の卵ぞろいでしょ?めぼしい人材を見つけたら、どんどん勧誘しちゃってよ」



「ええ……結構、人見知りなんだけどなぁ。やるだけ、やってはみるけど」




 そもそも、学生が一から立ち上げるようなギルドに入ってくれるような心の広い生徒なんて、存在するのだろか?一応、アスカのネームバリューがあれば、多少の引きはありそうだけど。




「……それで、本題は?」



「へっ?」




 突然、持っていたフォークの動きを止めて、彼女がジト目で見つめてきた。まるで、何もかもが見透かされてるようだ。




「いきなり、こんな心変わりするなんて、どう考えてもおかしいでしょ。何か、あるんでしょ?理由が」




 察しが良くて、逆に助かった。どう切り出そうか迷っていたが、おかけで言いやすくなった。




「あ〜……うん、力を貸して欲しいんだ。あるダンジョンを攻略したくて、人手を探してる」



「そんなこったろうと思ったわ。詳しい話を、聞かせて?答えは、それによる」



「えっと、実は……」




 どうやら、彼女に隠し事は無理そうだ。俺は、正直に神坂さんや月森さんのことを話した。

 最初は上の空で聞いていたアスカも、次第に真剣な表情をむけてくれるようになった。




「……と、いうわけなんだ」



「なるほどね。それで、どんな怪我でも治す秘宝が欲しい……と」



「う、うん。やっぱり、まずいかな?こんな私的なことに、秘宝を使うのは」



「別に、いいんじゃない?レベル5や6クラスの大秘宝だったら、問題はあるかもだけど。そのぐらいの秘宝アーティファクトだったら、ね。私が探してるのも、同じような理由だし」


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