贖罪
「おはよ〜」
日課となっているマコトとの朝稽古を済ませて、ローAの教室に入ると、俺の顔を見るなり月森さんが深刻な表情を浮かべながら近付いてきた。
「植村くん……ちょっと、聞いてもらいたい話があって。いいかな?」
「話……全然、いいけど。場所は、変えた方が良い?」
「うん。できれば、そのほうが」
「了解。じゃあ、行こうか」
俺は一緒に登校していたマコトに目配せすると、彼女と共に教室を出た。彼も、すぐに状況を察してくれたのか、無言で送り出してくれる。
あまり離れてもホームルームに間に合わないので、
「ど、どうしたの!?何か、あった?」
「ナオが……ナオが……!」
途中途中で息が詰まりそうになる彼女をリラックスさせながら、ゆっくり話を聞くと、神坂さんが交通事故に遭い大怪我を負ってしまったことが分かった。
「そんな……それで、神坂さんの今の容態は!?」
「命には別状が無かったんだけど……両足を、骨折しちゃってて。歩けるようになったとしても、もう走ることは絶望的だ……って」
「そう……なんだ」
命が助かったのは喜ぶべきなのだろうが、よりにもよって“足”の怪我とは。ランナーの彼女にとっては、第二の命のようなものだろう。俺は、かける言葉すら見つけることが出来なかった。
「私のせいなの!私があの時、変に追いかけたりなんかしなければ、あんなことにはならなかった!!どうしよう……全部、私のせいだ」
「自分を責めるのは、やめよう?気持ちは分かるけど、負の感情は悪い連鎖を生むだけだよ」
「わかってる!わかってるけど……自分に、何が出来るか分からないの!!どうすれば、いい?」
「とりあえず、やれるのは……お見舞いに行って、素直な気持ちを伝えることしか。もしかしたら、怒られるかもしれない。ひどい言葉を浴びせられるかも。それでも、今の月森さんの状態なら、そうすることで少しは納得できるんじゃないかな」
彼女は、少し
「そう、だね……そうしてみる。言葉で伝えなくちゃ、気持ちなんて届かないもんね……ありがとう、植村くん」
「いや、単なる俺の意見だから必ずしも良い結果を生むかどうかは分からないけど。なぜだか確信があるんだよね、二人の仲なら大丈夫だって」
「植村くん……」
「あと、もしかしたら……神坂さんの骨折、治せる方法があるかもしれない。今日、ちょっと調べておくよ」
俺の記憶が確かならば、今週出現する予定のダンジョンの中にあったはずだ。“どんな怪我でも治してしまう
一応、毎日のように脳内にある『ダンジョン・サーチ』はチェックしていた。欲しい
友達の怪我を治すために、
ただの怪我だったらまだしも、神坂さんの夢すら打ち砕いてしまうような足の障害ならば、何とかして取り除いてあげたい。
「治せる方法って……ホントに!?本当に、そんな方法があるの?」
「うん。心当たりは、ある!明日中には、結果を報告できると思うから。それまでは、待っててほしい」
「わかった。私に出来ることがあったら、何でも言ってね?絶対、協力させてほしいから!」
「うん。その時は、お願いする」
確か、例の
俺一人でも行けなくはないが、この攻略に失敗は許されない。確実にクリアする為には、他に強い戦力が必要だ。あの人に、頼ってみよう。
「ありがとう。植村くんと話せて、少し頭が整理できたかもしれない……事故があった時から、ずっと混乱してて。でも、誰にも相談できなかったの」
「こちらこそ、話してくれてありがとう。また何かあったら、いつでも声を掛けてよ。同じ
「……うん!」
まだ彼女の瞳は潤んでいたが、久しぶりに笑顔が見れた。素直に俺を頼りにしてくれたのは、嬉しい。
少しは、信用してもらってると思って良いのだろうか?
月森さんも、神坂さんも短い間だったかもしれないが、共に戦った仲間だ。どちらも助けてあげたい。
俺は、彼女と一緒に教室に帰る道すがら、例の人物にメッセージを送ったのだった。
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