もうひとつの実力テスト

 ブンッ



 青色のメタリックボディーが眩しいパワードスーツを全身に装着した“一角いっかくツバサ”は、手にしていたレーザーブレードで、悪魔ブネの片翼を斬り裂いた。そのまま足裏のブースターを射出して、飛行しながら落下していくクリーチャーと距離を取ると、下で待ち受けていた仲間たちに指示を飛ばす。



「行ったぞ!あとは、任せる!!」



 その言葉を受けて、落ちてくる悪魔ブネに飛びかかっていったのは緑色の短髪が特徴的なタンクトップの青年・“牛久うしくダイゴ”だ。

 見事に犬首の部分に掴まると、そのまま両腕をパンプアップさせて、その驚異的な腕力かいなぢからによって太いクリーチャーの首を締め上げていく。


 それが、“牛久ダイゴ”のユニークスキル【剛体ごうたい】の能力だった。




 バシュン!!




 その隙に、地上から放たれた一つの弾丸が反対側の鳥首の眉間に命中し、その活動を停止させた。


 その出所でどころに座っていたのは、スナイパーライフルを構えた冒険者・“烏丸からすまクロウ”。すぐに弾丸を込め直して、第二射に備えて狙撃態勢を取る。パーカーのフードに、ドクロのマスクをかぶっていた為、素顔をうかがい知ることは出来ない。



 あっという間に、二つの首を無力化させた小隊クランで、戦闘指揮を担っていた“鳴海なるみソーマ”は青い長髪をなびかせながら、チームのフィニッシャーに最後の指示を与える。




「三つの首にある脳を全て活動停止させれば、全ての機能を失うはずだ。アスカ、あとは頼んだよ」




「シルエット・シックス……“隠者ハーミット”。ドレスアップ」




 鳴海の声を聞き、自らのユニークスキル【七変化】を発動させた“七海アスカ”は、優雅に舞を踊るように、その場で全身を回転させると、大気中の風が彼女のもとへ引き寄せられていく。




「ぬうううううん!!」




 首筋の血管を浮き上がらせて、犬首を絞め落としてみせた牛久が、最後の大トリをエースである彼女に託した。




「お嬢!あとは、頼んだぜ!!」




 ゴウッ!!




 集めた風に方向性を持たせて、残った老人首へと放出した七海は、最後の大技を繰り出す。




八卦風神掌はっけふうじんしょう…… 陰陽転掌・黒風こくふう!」




 八卦風神掌とは、七海アスカが冒険者養成校ゲーティアに来てから師事している老師より体得した、八卦掌に“チャクラ”の要素を掛け合わせることにより、より実戦的に進化した新武術であった。



 ズドドドドドドドッ!!!




 彼女の回転に呼応するようにして、老人首に向かっていった風が、まるで竜巻を作り出すように、その首を切り裂きながら天に向かって渦巻いていく。


 それは、自身の“チャクラ”を自然界のエネルギーに干渉させて、様々な自然現象を発生させるという、“チャクラ”の派生法だった。



 まるでミキサーにでもかけられたかのように、最後の首がつぶされると、全ての脳が破壊された悪魔ブネの身体は消滅した。



 消えていく風を見送りながら、パワードスーツの男が頭部を覆っていた鉄仮面を取りながら、ゆっくりと地上へと降りてくる。

 露わになった顔は、物騒な装備とは裏腹に端正な顔立ちをした金髪の美青年であった。



「やったね、お嬢。しかし、公爵級まで引っ張り出してくるとはね。僕らだったから、何とか倒せたけど……他の人たちには、無理ゲーでしょ。これ」



「去年も、同じ内容のテストだったらしいけど、倒せたのはカケルの班だけだったようだよ。私たちは、晴れて二番目の攻略班となれたわけだ」




 一角ツバサにそう言った鳴海ソーマは、一学年上の天馬カケルとは親友に当たる間柄だった。


 ここにいるメンバーは、七海アスカ以外は全て『龍宝財団・エクスプローラー』に所属している新進気鋭の冒険者たちであった。経験者揃いのハイクラスの中でも、指折りの実力者たちが集まっていた。



 その会話に、この小隊の紅一点・七海アスカが呼吸を整えながら、加わってくる。




「二番目じゃなくて、三番目。残念ながら、昨日も出たみたいだよ。撃破した小隊クラン




 その情報に、人一倍のリアクションを見せた牛久ダイゴは、素っ頓狂な声をあげる。




「昨日って、ローとミドルの実力テスト日だったよな?その中から、公爵級を倒した班が現れたってことか!?」



「うん。先生に確認したから、間違いない」



「一体、どんな奴らが?リーダーは……いや!フィニッシャーは、どんな奴なんだ!?」



「そこまでは、聞いてなーい。でも、予想はつくけどね」




 何故だか嬉しそうに言う彼女に、普段は無口の烏丸クロウも気になったのか、珍しく口を開いた。




「予想はつく?七海の知り合いでも、いるのか」



「おっ、気になるかね?クロちゃん」



「クロちゃんは、やめろ。で、誰なんだ?」



「……植村ユウト。ローAの冒険者見習いくん」




 不敵な笑みを浮かべてアスカが答えると、その瞬間に『試験迷宮クノッソス』が消えていく。


 かくして、七海アスカ率いる小隊クラン『DetonatioN』は、ハーゲンティとブネの連続撃破、完全攻略を達成したのだった。
















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