祝勝会

 その日の放課後、各自の予定を合わせて、俺たち『月森小隊』は、お馴染みの灰猫亭に集結して、実力テストの祝勝会を開いていた。

 正確に言えば勝ったわけではないが、朝日奈さんいわく“金額では勝っている”そうなので、祝勝会というで開かれる運びとなったわけだ。



「「「かんぱーい!!!」」」



 各々の選んだソフトドリンクが注がれたグラスを天に掲げて、乾杯を交わす。あくまで未成年なのでノンアルコールだが、どのみち前世でも下戸げこだったので問題ナシだ。


 一口、烏龍茶を飲んで、三浦が呆れ顔で言う。




「しかし、報酬が出たというのに、なぜに“この店”なんだ?もうちょっと、贅沢ぜいたくできただろう」



「カウンターで、店長が鬼の形相してるけど大丈夫そ?」




 神坂さんに指摘を受け、チラリとカウンターに視線を移すと、すぐさま三浦は意見を変えた。




「やっぱり、居心地が良いなぁ!この店は!!やはり、ここを選んで正解だったな。うんうん」




 そんな、お調子者の悪友に、メイド姿のウェイトレスさんがツッコミを入れながら、焼き鳥セットを持ってきた。ホントに、居酒屋みたいになってきた。




「もう、おせーよ。てか、あのエクストラボスを倒したんだって?やるじゃん、キミたち」




 俺たちの会話を聞いていたのか、姐さんからお褒めの言葉を頂いた。そういえば、先輩たちも一年の頃は同じ実力テストを受けたんだったな。




「姐さんも戦ったんですか?あの三つ首の、気持ち悪い竜みたいなクリーチャーと」



「うん。今年も、あのゲテモノだったんだ?かわいそ〜……去年は全体で私たちの班だけだったらしいよ。そいつを撃破できたの」



「えっ、すご!姐さんの班だけですか!?」



「そうそう。まぁ、メンバーにも恵まれてたってのもあるけど。天馬カケルが、いたからねぇ」





 出た。また、天馬カケルか。しかし、ちゃんと結果も残してるということは、噂だけじゃなくて本当の実力者なのだろう。強い姐さんが言うんだから、間違いない。


 すると、オレンジジュースをぐいっと飲んで、朝日奈さんが割り込んでくる。




「でもでもでもでも!こっちにも、植村ユウトがいますから!!実質、一人で倒しちゃってますんで。あの怪物を」



「いやいやいや!みんなの助力があって、撃てた一撃だから。俺だけの手柄じゃないよ」



「え〜。めっちゃ、すごかったけどなぁ。あのスーパーマンみたいなキック!ねぇ、みんな!?」




 なぜか、自分のことのように興奮している朝日奈さん。悪い気はしないけど、なんか気恥ずかしいものがある。


 横でちびちびとアイスコーヒーをストローで飲んでいたマコトも、彼女に同意を示す。




「うん、凄かった!ユウトは、僕と同じ迎撃手インターセプター型だと思ってたけど、フィニッシャーだったんだね。しかも、格闘術で」



「うんうん。そういえば、途中でさらっと使ってた【ナビゲート】も高度だったし、植村くんのユニークって何なの?前衛スイーパーってより、万能バーサトルっぽいけど」




 神坂さんの質問に、俺が正直に答えようか迷っていると、悪友が焼き鳥を手にフォローを入れてくれた。




「それが、コイツ。自分のユニークだけは、かたくなに教えてくれようとしないんだ。秘密主義すぎて、バレてはいけない誓約でもあるんだと思うようにしている。最近は」



「アハハッ!なに、それ。でも、それだけ強力なスキルだとしたら、あまり手の内は見せない方が賢い判断かもしんないね。聞かないで、おくか」




 色々と察してくれたようで、神坂さんの追及はすぐに終わってくれた。話しても良いかと思ってたけど、こうなると逆に打ち明けづらいので黙っておくとするか。




「でも、かっこよかった!ほんとに」




 アイスミルクを飲みながら、ボソッと呟いてくれた月森さんの一言を俺は聞き逃さなかった。何気なく言ってくれたのが、嬉しい。

 そんな彼女を見て、神坂さんがニヤニヤしながら、攻勢に出た。




「ずっと、言ってたもんね〜?ヒカル。植村くんは、凄いんだって」



「ちょ、まっ!?ナオ?」




「どういうことでしょうか?」とばかりに身を乗り出した俺の反応を受けて、待ってましたとばかりに神坂さんは話を続けた。




「寮の部屋でね?私が、植村くんたち本当に大丈夫かな〜って心配してたら、ヒカルが目を輝かせながら小学校の時のキミの武勇伝を語り始めてさぁ。山田くんを追い払ってくれた時に、まるで王子さ……んんーっ!?」




 意気揚々と話し始めたルームメイトの口を思いっきり手で塞いだ月森さんは、俺に向かって顔を真っ赤にしながら言った。




「ホント、何でもないから!気にしないで!!」



「はいっ!わ、わかりました。でも、ちょっと苦しそうなんで、少しだけ緩めてあげてほしいかも……なんて。はは」



「はっ!ごめん!!ナオ、大丈夫!?」




 無酸素状態から解放された神坂さんは、「い、意外とちからあるんだね……ヒカル」と苦笑いを浮かべながら、呼吸を整えたのだった。

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