LV2「試験迷宮クノッソス」・14

「レイ!音、お願い!!」



 今がチャンスと走り出す神坂さんの指示を受けて、朝日奈さんが遠隔操作を始めると、彼女ランナーが手に持つドローンから高らかに警報音が鳴り響いた。



 ブーッ!ブーッ!!



 その音に反応した悪魔ブネが神坂さんを視界に捉えると、彼女に向かって降下を開始する。

 その様子に、三浦も思わずガッツポーズを取った。




「かかった!これで、あとは神坂次第だ」



「う……うぅ」




 ギリギリの気力の中、最後の“貪狼ドゥーべ”を放ったマコトは、いよいよ精魂尽き果てた様子で膝をつくと、慌ててリーダーが駆け寄った。




「大丈夫!?上泉くんの一撃があったおかげで、助かったよ。ありがとう」



「どういう状況か、よく分かってないんだけど……役に立てたなら、良かった……はぁ、はぁ……」




 みんな、死力を尽くして戦ってくれている。あとは、俺が決める番だ。



【虚飾】が、【ヒプノーシス】rank100に代わりました



「自己暗示:一撃強化……!」




 俺が必殺の一撃の準備を開始し始めると同時に、すぐ目の前まで悪魔ブネが飛来してくると、今度は三つ首のうち、老人の口から不気味な吐息が地面に向かって吐き出された。




「こおおおおおおおおっ」




 すると、その息は地面を腐らせて地表をボロボロにさせていく。そのまま、腐食のブレスを吐きながら、走り回る神坂さんを追い回し始めた。




「ひぃっ」




 巨大な老人の顔が迫ってくるだけでも恐怖だというのに、不気味な息が周辺を腐らせていく様子を目の当たりにして、神坂さんも小さな悲鳴をあげた。

 正気を失わずに走れてるだけで、物凄い精神力といえるだろう。これが、アスリートの胆力なのか。




「植村くん!早く……このままだと、ナオが!!」




 友人の危機に、すがるようにこちらを見つめてくる月森さん。しかし、こちらもここで集中力を切らすわけにはいかない。




「我が一撃は、竜が如く……全ての雲を、突き破る。我が一撃は、竜が如く……全ての風を、切り払う。我が一撃は、竜が如く……未曾有みぞうの脅威を、焼き尽くす!」




 ザガン戦では理解が追いつかなかったが、今なら分かる。これは“チャクラ”だ。全身のチャクラが右脚に集まっていく感覚……スキルの支援アシストがあるからなのか、剣の修行で俺が操ってる何倍もの“チャクラ”が体内を脈動している気がする。




「何を唱えてるの?呪文……植村くん、何をする気なの!?」



「きゃっ!!」




 俺に注目していた仲間たちは、後ろから聞こえる悲鳴に慌てて振り向くと、神坂さんが転倒しているのが見えた。


 恐怖による焦りと、ハーゲンティ戦が原因で地形が変化していた為に、思わず足を取られてしまったことが原因だった。そこへ、悪魔ブネの腐敗ブレスが接近してくる。




「ナオッ!!」




 月森さんの叫びと同時に、覚悟したようにまぶたを閉じる神坂さん。その時、彼女が手に持っていたドローンが動き出し、近付いてくる悪魔ブネへ突撃していくと……。




「アルファ!フラッシュ・アイ!!」



 ビカッ!!!




 朝日奈さんの号令と共に立体映像ホログラムのキーが押されると、ドローン“アルファ”の瞳から、まばゆい閃光が放たれた。




「オオオオオオオオン!!」




 その光を、真正面から見てしまった悪魔ブネは、おどろおどろしい叫び声を上げて暴れ始める。




「神坂さん!今のうちに、そこから離れて!!」




 俺は、そう言いながら軽く助走をつけると、悶え苦しむ悪魔ブネに向かって、高くジャンプをした。




【虚飾】が、【跳躍】rank100に代わりました




 びょんっ!!




 それは、およそ人間がただの跳躍ジャンプでは到達し得ないような高度だった。全力で【跳躍】を使ってみたのは初めてだったが、これほどとは。


 それは地上にいた仲間たちも同じ気持ちであった。遥か上空に飛んでいった俺の姿を見て、唖然としているようだった。だが、説明するのは後回しだ。今は、やらなければならないことがある。



 神坂さんが、敵から無事に離れていくのを確認して、俺は敵に向かって急降下していく。




一撃必殺ワンショット・ワンキル……」




 落下していくほどに、強度を増していく右脚のエネルギーは、やがて巨大な竜の顎門あぎとかたどった気の奔流へと変化していく。


 そして、その一撃は悪魔ブネの背中に着弾する。




【虚飾】が、【キック】rank100に代わりました




「……降竜脚ドラゴニック・フォール!!!」




 ドゴオオオオオオオオオオオン!!!!!




 地面に叩きつけられた悪魔ブネの背中に、一点集中の大気が、俺の右脚を通じて送り込まれると、まるで存在ごと霧散させるかのように、その巨体を消滅させた。




「はぁ……はぁ……や、やった……」




 しばし、沈黙があった後、真っ先に俺へ駆け寄ってきてくれてのは、月森さんだった。




「う……植村くん、無事なの!?何ともない?」



「うん、大丈夫だよ。何ともない」



「良かった〜。もう!色々と聞きたいことはあるけど。やっぱり、凄いね……植村くんは。驚かされっぱなしだよ」



「えっ……あ、はは」




 こんなに面と向かって褒められることなんて滅多になかった俺は、ただ照れ笑いを浮かべて礼を言うしかなかった。これで、少しはみんなの頑張りが報われると良いのだけれど。




















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