LV2「試験迷宮クノッソス」・13

「どうする?私たちも、リタイアする!?」




 ゆっくりと迫ってくる、巨大な火球を目前にして、月森さんが一筋の汗を頬に伝わせながら、皆に問いかける。

 その言葉に、真っ先に反応したのは朝日奈さんだった。




「やだ!このまま、負けっぱなしなんて悔しいよ!!トップにはなれなくても、コイツを倒せば賞金では上回れるんだよね!?」



「倒せれば、な。それよりも、このままだと全員、焼け死ぬことになるが?どうするつもりだ」



「私が、守る!アルファ、ベータ、ガンマ……デルタ・フォーメーション!!」




 三浦の問いに、朝日奈さんは三体のドローンを三角形の頂点へ、それぞれ配置する。俺らと迫ってくる火球の間に陣取った三機は、次の行動へと移行した。




「バリア・フィールド展開……最大出力!!」




 各機が呼応し、逆三角形の巨大なバリアを発生させると、その光の壁にブネの放った豪火球が着弾した。





 ゴオオオオオオオオッ!!!




 激しい炎が炸裂し、ヒリヒリと熱が伝わってくるが、ドローンが造り出したバリアは見事に俺らを守ってくれた。完全に、攻撃をシャットアウトしている。




「す……凄い」



「でもエネルギーを食いすぎて、二回目は使えない

 の!この間に、奴を倒す方法を考えて!!」




 感心する月森さんに、朝日奈さんが言う。

 しかし、全員が黙りこくってしまった。倒す手立てが見つからないのだ。

 たまらず、神坂さんがリーダーに尋ねた。




「ヒカル、さっきの弓矢は!?」



「ダメ!あれは、一射限定のアイテムだったから……もう一度、ガチャを引くって手もあるけど、確実に良い武器が引けるって保障はない」



「そうか。私と、三浦くんは戦力外だし。レイのドローンもエネルギー切れ。上泉くんは、また気を失っちゃったし……残ってるのは」




 何かにすがるように、俺の顔を見つめてくる神坂さん。確かに、あそこまで頑張って何も報酬が無いのは悲しすぎる。みんなの為にも、ここで力を出し惜しみするわけにはいかない。




「倒せる方法は、ある……けど、時間を稼いで欲しい。1分、いや!30秒ぐらいで構わない!!」



「倒す方法があるって……それ、本気で言ってる!?あの怪物だよ?相手は」




 俺が神坂さんの質問に答えようとすると、朝日奈さんが叫んだ。




「もうすぐ、攻撃が収まるよ!話は、まとまった!?」




 見ると、ドローンの作り出したバリアは見事に炎を耐え切ってみせると、バチバチとショート音を響かせながら消失しようとしていた。

 そこへ、三浦が神坂さんの肩に手を置き、口を開く。




「ここは、植村を信じよう。他に、手立ても見つからんしな。こう見えて、やる時はやる男だ」




 その言葉を受けて、再び俺の方に視線を向ける神坂さんへ、無言で力強く首を縦に振ってみせた。

 方針が決まったと思ったのか、月森さんが声を掛けてくる。




「了解、そのプランで行くとして……肝心の時間稼ぎはどうするの?三浦くん」




 すっかり、軍師ポジションとして認めているのか、自然に三浦へアドバイスを求めるリーダー。まんざらでもなさそうに、悪友もそれに答えた。




「ふむ。クリーチャーは、基本的に冒険者の“熱源”と“音”を感知して襲ってくると言われているんだが……」



「“音”なら、レイのドローンに任せて!高い警報音を流す機能があるから、それを響かせながらおとりにさせるよ」



「いや、機械だけでは“熱源”が足りない」




 三浦と朝日奈さんのやり取りを聞いて、スッと手を挙げたのは神坂さんだった。




「なら、私が音を出したドローンを持って、走り回るよ。それなら、熱源も加わって囮として機能するでしょ?」



「それなら、いける……だが、大丈夫なのか?危険な役だぞ」



「この中で一番、体力が有り余ってるのは私でしょ。多分、足が速いのも。怖いけど……危険なのは、みんな一緒だもん」




 バサッバサッバサッ!




 神坂さんが朝日奈さんからドローンを受け取ると、大きな羽音が上空から響く。それを見て、三浦が珍しく慌てた表情で大きな声を出した。




「いかん!また、大攻撃が来るかもしれん。規則性から考えれば……犬が叫んだら“火球”、鳥が叫んだら“旋風”が飛んでくるはずだ!!どちらにせよ、撃たれたら危険だぞ!?」



「私が、止める!!」




 頭上から響いたのは鳥の鳴き声、旋風が来る合図を受けながら、月森さんは地面に落ちていたウィンド・バトンを拾い上げ、頭上でぐるぐると回し、風を集めていく。




「七星剣術・一つ星……」




 その声に反応して振り向くと、マコトが目を覚まして、妖刀に青の“気”を溜めているところだった。

 気の色から察するに、今度はマコト本人の意識が蘇ったらしい。




「荒れ狂え!ウィンド・バトン!!」



「……貪狼ドゥーべ!」



 ゴウッ!!




 両翼をバッと広げる悪魔ブネに向かって、二人の放った衝撃波が渦となって溶け合いながら、襲いかかっていく。




 ドンッ!!




「ギャアアアアアア!!」





 見事に命中した、その攻撃は大きなダメージを与えられないまでも、バランスを大きく崩して大攻撃をキャンセルすることに成功した。














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