LV2「試験迷宮クノッソス」・11

 傀儡くぐつマコトの最後の一撃で倒れ込んでいたハーゲンティが、ゆっくりと起き上がってくると、その頭上を一機のドローンが旋回していた。




分析スキャン完了……ヒカルちゃん!奴の弱点は、眉間みけんだよ。そこを、狙って!!」




 密かにドローンを飛ばして、敵のデータを解析させていたのか、目の前の立体映像ホログラムキーボードを打ち終えて、朝日奈さんがリーダーに叫ぶ。




「眉間だね……了解!」



 キイイイイイイン



 限界までチャージを終えた矢を、敵の弱点ウィークポイントに向けて照準を合わせる月森さんは、俺がマコトを抱えて射線から移動していくのを確認すると、ついにを放った。



 一筋の閃光と化した、その矢は高速で真っ直ぐハーゲンティの眉間に向かって射出され、敵が防ぐ間も無く命中する。


 そして、当たったと同時に猛牛の全身を黄色い光が包み込んで、その身を焼き焦がせた。




 ゴオオオオオオオオッ




「す……凄い威力だな」




 俺もマコトを抱えて、皆の集まる場所まで合流し、燃え盛るハーゲンティを見つめる。思ったよりも彼の体重は軽く、持ち運ぶのにも苦労はしなかった。


 しばらくして、いよいよ力尽きたのか、敵が片膝をつくと、全身を覆っていた光の気流も薄れていく。


 そこから現れたのは、黒焦げとなった猛牛の姿であった。




「やったの……?」




 神坂さんが、目を凝らして相手の様子を見ると、ギラリと閉じていた瞼が開いて、敵の眼球が輝き出した。




「まだだ!まだ、生きてる!!」




 俺が、そう言って武器を構えると、朝日奈さんが再びドローンからの情報を伝達する。




「でも、敵の体力は残りわずかだよ!あと一撃で、倒せる!!」




 それを聞いて、俺は光剣に刃を創って、駆け出そうとするが……。




 ビリビリビリビリッ!!




「うあああああっ!?」




 突然、全身に電流が走って、動きが取れなくなってしまう。よく見ると、仲間の全員も同じような状態におちいっている。


 これは、敵のスキル……なのか!?




 混乱している俺たちの目の前に、いきなり数名の生徒たちが姿を現した。

 そのうちの一人を見て、月森さんが動けない体で呟く。



「霧隠……くん?」




「言ったよな?後悔させてやるって……俺を敵に回すから、こういうことになるんだよ。お膳立て、ご苦労さん」




 俺たちに向かって不敵な笑みを浮かべながら、霧隠シノブは持っていたボウガンを瀕死のハーゲンティに向けて、とどめの矢を敵の眉間へと射出した。




 ドスッ




「オオオオオオオオオオオオン!!!」




 高らかな断末魔と共に、ハーゲンティの身体が消滅していく。決め手は、彼の放った矢であった。




「ど、どういうことなの!?霧隠くん!」




 あまりに突然の展開に、率直な疑問をぶつけるしかない月森さんに、彼は勝ち誇ったように語り始める。




「先にボス部屋に到達できた俺たちは、ずっと隠れていたのさ。軍用の光学迷彩ステルスアプリを使ってな」



「隠れてた……?」



「仲間の【鑑定】スキルで、ハーゲンティには一度だけ自身の死を耐え忍ぶ能力があることが分かった俺たちは、それが発動する瞬間まで身を潜めていたんだよ。ギリギリまで、お前らに体力を削らせてな」



「なっ!?」



「奴の感知能力が低くて、助かった。俺らがアプリで姿を消すと、すぐにまた地中へと身を潜めてくれた。その間に、トラップも仕掛けることに成功したしな」





 トラップ?まさか、このしびれのことか!?


 同じことを思ったのだろう、三浦も冷静だが怒りを含んだ声で尋ねた。





「これも、貴様の仕業か?」



「俺のユニークスキル【計略】は、一定範囲の地帯に、任意で発動できるトラップを仕掛けることが出来るんだよ。お前らが掛かったのは、“麻痺の円陣”。上手い具合に、固まってくれたおかげで一網打尽にすることが出来たよ。くくく」



「全て、貴様の手のひらの上だった……と、いうことか」



「そういうこと。これも、れっきとしたルールに乗っ取った戦術だ。苦情は一切、受け付けないぜ?」





 すると、頭上からひじり先生の声でアナウンスが響いた。




『おめでとうございます。トップ通過の小隊クランは、霧隠くん率いる『六文銭』に決まりました〜!』




 俺のせいだ。もっと【目星】や【鑑定】を使って、慎重に立ち回っていれば、アプリの光学迷彩ステルスぐらいなら看破できたはずだ。

 あと一歩のところだったんだ、なのに……!




『では、皆さん。お疲れさ……』




 ひじり先生の声を遮るようにして、アナウンスに渋い声が割り込んでくる。きっと、本田スエキチ先生だろう。




『それでは、これよりボーナスチャンスの時間じゃ!これをクリアできたら、追加報酬としてチームに20万ハスタを贈呈しよう。もう一踏ん張り、頑張ってちょーだいな』



『ちょ、本田先生!それはダメだって、あれほど……!』



『堅いことは言いっこなしじゃ、マリアちゃん。こっからが、面白いところなんじゃからの』




 すると、俺たち『月森小隊』の面々だけが、最終エリアの外へと転送されてしまう。


 ボーナスチャンス?一体、何が起きるんだ!?

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