LV2「試験迷宮クノッソス」・10

 ハーゲンティの猛攻を躱しながら、チラッと後方に目をやると、月森さんが綺麗な射型で派手な弓矢を構えてるのが視界に入る。


 何だ?新しい武器を、ガチャで引いたのか!?




「植村くん、ごめん!もう少しだけ、時間を稼いでほしい!!」




“アルテミスの弓矢”は、チャージする時間が長ければ長いほど威力が増加する。確実に敵を仕留めるためにも、時間稼ぎは必須であった。




「わかった!やるだけ、やってみる!!」




 よく分からないが、月森さんの矢は次第に輝きを増してるように見えた。おそらくは、パワーを充填してる状態なのかもしれない。

 俺は、それまでの時間を稼ぐ必要があるわけか。




 ドゴオッ!!




 鼻息荒く、振り下ろされた猛牛の斧が、俺の真横の地面をえぐり取る。奴の一撃自体は動作も大きく、それほど避けるのは困難ではない。

 しかし、こうして地形を崩されていくのは、単純に動きが阻害されてしまうので厄介だった。


 回避し続けるのにも、体力は消耗する。そうなれば、自動回避が発動しても、身体が反応しなくなるだろう。持ち堪えることが出来るのか?




 それを後方から見守っていた、悪友もボソッと呟く。




「ヤバいな、動きが鈍ってきている……このままだと、やられるぞ」




 その言葉に反応したのは、意外な人物だった。




「やれやれ……仕方ないのう。少し、手を貸してやるとするかの」



「か、上泉くん!?大丈夫なの?」




 突然、目を覚ましてユラリと立ち上がった上泉に、驚きを隠せない神坂。何やらまとった雰囲気も、口調も変わってるように感じる。




「……縮地しゅくち




 弓を構える月森の横を一陣の風が吹き抜ける。次の瞬間、上泉はハーゲンティを目と鼻の先に捉えるまで接近していた。




「上泉くん?ナオ、何が起こったの!?」



「分からない!ただ、いきなり目を覚まして……まるで、人格が変わったみたいだった!!」



「人格が……?」




 神坂の言葉は、ある意味では正解だった。

 今の上泉マコトは『妖刀エペタム』によって、精神が支配された状態。“傀儡くぐつ状態”に入っていた。

 持ち主が意識を無くした時のみ、妖刀エペタムが代わりに身体を乗っ取って、安全を確保することが出来るのだ。


 信頼関係が培われてないと、ここで裏切られて妖刀によって完全に人格が支配されてしまうこともあるという。しかし、マコトとエペタムの関係は良好だったようだ。




「……貪狼ドゥーべ



 スパッ



「オオオオオオン!!」




 突如、再起してきたマコトが放った、その“貪狼ドゥーべ”は、いつもの彼が放つとは全く違う異質なモノだった。


 敵の肉に刃が当たる、その一瞬だけ紫色のチャクラが火花のように散る。更に驚いたのは、その一撃を続け様に何度も放ち、ハーゲンティの身体を切り刻んでいくことだ。

 気の放出を最小限に抑えることで、最速充填で単独コンボを実現させていた。本来ならば中距離用の技を、近距離用にアレンジしてみせたのだ。


 しかも、与えた斬り傷はブクブクと腐食されてるように変容し、いつまでも再生される様子がない。一体、何が起きているんだ?




「ウオオオオオオオオン!!」




 たまらず、ハーゲンティが妖しい瞳を輝かせて、マコトに向かって睨みを効かせようとする。




「ダメだ、マコト!そいつの眼を、見ちゃいけない!!」




 俺の助言も虚しく、猛牛と目を合わせてしまうマコト。しかし、その動きは止まることなく続いていく。




「安心せい、植村ユウト。ワシに、呪いのたぐいは通用せん。なぜなら、ワシ自体が“呪いのようなもの”なのじゃからな」




 呪いのようなもの?まさか……マコトのインテリジェンス・ソードが、人格を乗っ取ってるのか!?




「あんた……マコトの妖刀か!?」



「ふん。本来、持ち主のため以外に“傀儡”は使わんのじゃが、お主はマコトの友人らしいからの……特別措置じゃ。感謝せいよ?」



「マジかよ……」



「とはいえ、この身体はマコトのもの。ワシもマコトが使える技しか使えんのが不便じゃが、面白いものを見せてやろう……“巨門メラク”!」




 そう言って、マコト……いや、妖刀が繰り出したのは、地面に突き刺して使うはずの“巨門メラク”を突き技として直接、敵の腹部に突き刺す応用技であった。




 バンッ!!



「オオオオオオン!!」




 弾け飛ぶ気の衝撃で、巨体のハーゲンティが勢いよく吹き飛ばされていく。こんな使い方もあるのか。




「……固定観念に囚われるな。自由な発想こそが、新たな力を生む鍵じゃ。覚えておくがよい」




 にこっと微笑むと、彼は眠るようにして、再びフラッと崩れ落ちた。傀儡の効果が、切れたのだろうか?俺が慌てて駆け寄ると、月森さんからの声が届く。




「植村くん……上泉くんを連れて、そこを離れて!そろそろ、準備が出来そうだよ!!」




 見ると彼女の弓矢は、まるでレーザー砲の射出直前のように強烈な輝きを放っていた。



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