LV2「試験迷宮クノッソス」・8

 全身が顕現された猛牛ミノタウロス……もとい、ハーゲンティはググっと両膝を沈み込ませると次の瞬間、巨体とは思えないほどのジャンプを披露して、空中で斧を構えた。



「敵のファースト・アタックだ!影を見て、着地点から散開しろ!!」



 三浦の叫びに呼応して、それぞれが地面に映る敵影から散り散りに距離を取る。あんな巨体が上空から降ってくるのだ。近くにいるだけで、衝撃に巻き込まれてしまうだろう。



 ズドオオオオオオン!!!



 まるで、隕石のように降ってきたハーゲンティは着地と同時に斧を地面に叩きつけると、十分に距離を取っていた俺たちの足元までグラつかせるほどの地響きを発生させた。


 そんなバランスを崩した俺たちに、敵が取った次の行動は、手持ちの大戦斧を水平に振りかぶる動作モーションだった。




「な……何を、してくるつもりだ!?」




 俺の疑問に、真っ先に勘を働かせて答えてくれたのは頼れるリーダー・月森さんだった。




「ブーメラン……投擲攻撃が、来るよ!みんな、伏せて!!」




 その言葉を信頼して、仲間たちが一斉に身を伏せると、その僅か上空を、まるで円盤のように巨大な斧が旋回していく。彼女の推測通り、奴は斧をブーメランのように投げつけてきたのだ。


 見た目から、パワーでゴリ押してくるタイプのクリーチャーかと思えば、敏捷性や器用なところまで持ち合わせているらしい。


 このまま、受け手に回っていたら、永遠に敵のターンが続きそうだ。こちらからも、攻めに転じなければならない。



 同じことを感じていたルームメイトが、自らの頭上を斧が通り過ぎていくのを確認して、すぐに反撃態勢へと移った。クリーチャー戦では、本当に頼もしい活躍を見せてくれている。




「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ!」



 ゴウッ!




 フロアを半周して戻ってきた斧を、再びキャッチするハーゲンティの隙だらけの胴体へ、マコトの貪狼ドゥーべが直撃する。


 が、しかし……!


 煙の中から現れたのは、まるで無傷の敵の姿であった。そこへ、月森さんも加勢して、ウィンド・バトンの旋風による追撃を命中させた。



 バシュッ



 だが、それもまた目に見えるダメージは与えられてないようだ。何も装甲らしい装備は身につけていないのだが、その筋肉隆々の肉体が衝撃を緩和しているのだろうか?何にせよ、防御力も一級品らしい。



「そんな……」



 唖然としているマコトに、俺は光剣クラウ・ソラスに黒の刃を創り出しながら、発破をかけた。



「まだ、あきらめるな!単発で無理なら、コンボで行くぞ!!」



 そう。本来の七星剣術による大型相手の戦闘は、単発ではなく連携技コンボこそが、最大威力を叩き出せる手段であったはずだ。



「む、無理だよ!僕らは、まだ“気”の充填チャージに時間が掛かりすぎて、コンボまで成功したことないじゃないか!!」



「確かに、まだ一人じゃ無理だ……だから、二人でやる!ついてこい!!」



【虚飾】が、【近接戦闘(刀剣)】rank100に代わりました



 ダダダッ



 悠長に作戦説明している暇は無い。俺たち二人は共に愛剣を構えながら、ボスへと突っ込んでいく。その道中、簡潔に俺がマコトへ伝えた。




「俺が初撃を当てたら、すかさずマコトが次の一撃を当てる!その間に、俺が次の攻撃の充填チャージを終わらせる……これを、繰り返すだけだ!!いいな!?」



「そうか!二人の高速連携で、擬似コンボを発生させるんだね!!」




 しかし、目の前のハーゲンティが斧を今度は背中に振りかぶっている。迎撃しようとしているのか!?


 そこへ、特大の旋風が当たり、ダメージこそ無いまでも、敵の攻撃は阻害された。これで、攻撃できるチャンスが生まれた。




「二人とも……やっちゃって!!」




 その好機を生んでくれた月森リーダーの声に後押しされて、まずは俺から剣技を発動させる。




「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ!」



 ゴウッ!



 敵のダメージを確認せず、すぐさま「マコト!」と合図を出しながら、俺は次の充填チャージを開始しながら、後退する。




「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ!」




 俺が放った赤い衝撃波に重なるようにして、今度はマコトの放った青い衝撃波が敵の胴体へと命中する。これで、2コンボ……あとは、どこまで伸ばせるか?やってみないと、分からない。



貪狼ドゥーべ!」


貪狼ドゥーべ!!」


貪狼ドゥーべ!!!」



 次々と折り重なって、やがて紫色へと変わっていく貪狼ドゥーべの連弾は、ジリジリとハーゲンティの身体を後退させていく。


 いける!このまま、続ければ……!!




「ダメだ、ユウト……もう、“気”が練れないッ!」



「マコト!?」




 剣に“チャクラ”を込めるのも、相応に体力や精神力を疲弊させる。ましてや、マコトは小鬼ゴブリン戦でも何発か撃ってしまっていて、俺よりも消耗が早く来てしまったのだろう。


 俺たちのコンボが止まると、その時を待っていたかのように、けたたましい猛牛の咆哮ほうこうがフロア中を震撼させた。




「ウオオオオオオオオン!!!」


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