LV2「試験迷宮クノッソス」・7

「七星剣術・一つ星……貪狼ドゥーべ!」


「吹きすさべ……ウィンド・バトン!!」



 ゴウッ!!



 マコトの剣撃と、月森さんの旋風が交差して、唸りを生む二つの衝撃波がレッドキャップへの道を切り開く。



「よーい……ドン!」



 小声で掛け声を呟いて、綺麗なクラウチングスタートから徐々に上体を起こしつつ、目標へと疾走していく神坂さん。片手に剣を携えているため、やや走りづらそうではあるが、それでも速い。



「あれが……【韋駄天】」



 目前までレッドキャップが迫ってきた時、その間に最初の二体が運悪く召喚されてしまう。



「……っ!?」



 やむを得ず、スピードを落として応戦しようとする彼女に、後方から叫び声が響いた。




「足を止めるな!露払いは、俺たちが請け負うぞ!!」



 バシュッ!



 だいぶ遅れて、一緒に走ってきていた三浦は、手にしていたテーザーガンを命中させて、まず右側の一体を麻痺させることに成功する。


 それと同時に、左側の小鬼ゴブリンは飛来したドローンから射出された“パラライズ・ニードル”によって、同じく動きを止められた。




「ナオちゃん、いっけー!!」



「はあああああっ!!」




 ズバアアッ!!



 朝日奈さんの声援を背に、最後の加速をした神坂さんは目標を囲んでいた赤い透明の障壁の中に飛び込むと、すれ違いざまに持っていた光剣クラウ・ソラスの薄黒い刃で、レッドキャップの胴体を斬り裂いた。


 十分な殺気は込められなかったものの、それでも装甲の薄い敵を倒すには、有り余るほどの威力だったようだ。




 致命傷を受け、レッドキャップの身体が消滅していくと、召喚されかけていた小鬼軍団たちも、同じように天へと召されていく。どうやら、作戦は成功したらしい。


 大役を全うしたランナーのもとに、リーダーが駆けつける。



「ナオ!ナイスラン!!」



「ふぅ……少しは、役に立てたかな?私も」



「役に立ったどころじゃないよ〜。ナオがいなかったら、全滅してた!ありがとう、本当に」



「私だけじゃなくて、ここにいる誰か一人でも欠けてたら、成功しなかったよ。そう考えたら、良いチームなのかも?私たちって、結構」




 ルームメイトの二人が笑い合っていると、さっきの扉から「ガチャリ」と解錠音が聞こえる。


 その扉を、真っ先に確認しにいくのは、やはり怖いもの知らずの三浦であった。




「どうやら、今のはトラップではなく、扉を開ける為の試練だったようだな。次のフロアへ進めるようになってる」



「この先って……確か、ボス部屋だよね?」



「ああ、そうだ。各自、休息が必要なら、今のうちに済ませておけよ」




 マコトからの質問に答えて、三浦が全員の気を引き締める。何をリーダー気取りしとるんだ!と、言いたいところだったが、ちゃんと活躍しているので、ここは気持ち良くさせといてやろう。




「植村くん、これ。ありがと」




 神坂さんが、預けていた光剣クラウ・ソラスを俺に手渡す。短い距離とはいえ、あの速さで走って、全く息を切らしてないのは流石さすがといったところである。




「凄かったよ、さっきの走り」



「どーも。初めて、クリーチャーを倒したけどさ……結構、気持ちいいね。私も、前衛に転向しよっかなぁ」



「ま、マジ!?まぁ、神坂さんの運動神経があれば、いけそうではあるけど」



「うそうそ、冗談だってば。でも、ランナーも多少の戦闘は出来た方が、幅広くは活躍できそうだよね〜」




 ランナーやアンサーのような専門職は活躍の場が限られるからな。確かに、ランナーが戦闘補助を、アンサーが戦場指揮なんかを兼任できるようになると、ぐっと汎用性が広がりそうだ。


 体感で2〜3分ばかり小休止をして、改めてリーダーが皆に声をかけた。




「他チームの動向も気になるし、休息はこの辺にしとこう。次は多分、ボス戦になるけど……みんな、準備は出来てる?」




 全員が力強くうなずくのを確認すると、いよいよ月森さんが扉の取手に手を掛けた。




「よし。じゃあ、行こう……最後のフロアへ!」




 ギイイイイイ……




 全員が扉をくぐると、そこはドローンの監視映像通りに何もない円形の空間が広がっているだけだった。


 他のチームの姿は、見当たらない。俺たちが一番乗りなのだろうか?それとも、もうのかもしれない。




 ゴゴゴゴゴゴ……!!




 その時、激しい地揺れが起こると、円の中心部の地面から巨大なが、生成されていく。


 それは、牛の頭部を持った二足歩行の大型クリーチャー。手には大戦斧だいせんぷを携えていた。


 その敵の姿を見て、三浦がボソッと呟く。




「ミノタウロスの迷宮ラビリンス……だから、クノッソスというわけか」




 ゲームなどでお馴染みのミノタウロス型のクリーチャーに、簡単なテキストが表示された。




 ハーゲンティ

 獣人型・総裁級クリーチャー


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