LV2「試験迷宮クノッソス」・6

「七星剣術・一つ星…… 貪狼ドゥーべ!」



 考えている間も攻め手を途絶えさせない小鬼軍団。

 トラップを発動させた時は、四方を取り囲むように出現したが、今はレッドキャップと呼ばれる召喚士から来る一方向だけになっているのは幸いだった。


 まずは、マコトが妖刀から放たれる衝撃波で蹴散らすと……。




「はっ!」




 まるで新体操の演舞のように月森さんが、くるくると回転させたバトンを敵群に向かって振ると今度は巨大な旋風つむじかぜが小鬼たちを吹き飛ばしていく。


 可もなく不可もなくとは言っていたが、それでもこの威力か。武器ガチャのラインナップは凄そうだ。




「ダメだ!すぐに、新しい敵が召喚されちゃう!!」



 敵を一掃したあと、レッドキャップに近付こうと走り出すマコトだったが、すぐに新たな小鬼たちが生み出されて、その間に立ち塞がった。




「なら、レイのドローンで遠隔攻撃を仕掛けるのは!?」




 朝日奈さんが、さきほど山田くんに仕掛けた攻撃を提案してきた。確かに、空中から攻めれば、小鬼の壁を気にすることはない。

 しかも、彼からのダメージも、しっかりと自己修復が完了しているようだった。秘宝並みに優秀なマシーンである。




「ダメだ。レッドキャップは、小鬼召喚の他に、自己防衛の結界術も有しているんだ。それによって、生半可な遠距離攻撃は全てシャットアウトされてしまう」



「マジ!?てか、レイジ……もしかして、クリーチャーマニア?めっちゃ、詳しいね」



「趣味で、覚えてるんじゃないわい。知識も、ダンジョンでは立派な武器だ。確認されているクリーチャーの情報は、全て頭に叩き込んである」





 すげーな。一番、しっかりと準備を整えてきてたのか。エンジョイ勢かと思ってたけど、意外と真剣に冒険者活動と向き合っているんだな。

 そんな三浦に、焦った表情の神坂さんが詰め寄る。




「じゃあ、どうやったら倒せるの!?そこが、一番に知りたい情報なんだけど」



「奴を倒すには結界内まで踏み込んで、直接攻撃を加えるしかない」



「それが、出来ないから困ってるんでしょ!?」



「いや、よく見ていろ」




 二人が話している間にも、敵の猛攻は続いている。

 その度に何とかマコトや月森さんが大技で凌ぎ、倒し漏れて接近してきた小鬼を、まだ【近接戦闘(格闘)】の効果時間が残っている俺が仕留めていた。


 ただし、これを続けててもらちが明かない。

 いずれ、先に俺たちの体力や気力が尽きてしまうだろう。




「見てるけど、何!?みんな、頑張ってくれてるけど……このままだと!」




 心配そうに前衛の仲間を見守る神坂さんに、三浦が冷静に答えた。




「レッドキャップは、必ず生み出した小鬼たちが、ある程度の数まで減らされた頃に、次の召喚行動に移行している」



「なに?じゃあ、小鬼ゴブリンを倒さないようにするってこと!?」



「それは、無理だろうな。減らしてもらわなくては、奴のもとには辿り着けんし、俺たち後衛の身も危うい」



「だから!時間が無いから、単刀直入にお願い!!どうすれば、いいの!?」



「敵が一掃されて、次の召喚が完了するまでの時間は、およそ3秒。奴がいる距離を、計測アプリを使って測ったところ約25メートルあった。つまり……言いたいことは、分かるな?」



「25メートルを、3秒か。なるほどね……ようやく、私の出番ってわけだ」




 三浦の作戦の意図を理解した神坂さんは、靴紐を硬く結んで、準備を始める。

 その会話を、前衛で聞いていた月森さんが尋ねる。




「何を、始める気!?」



「上泉と月森で、もう一度……同じように小鬼ゴブリンを蹴散らしてもらう。その一撃が放たれた直後、ランナーの神坂がレッドキャップに向かって走り出す」



「走ってって……その後は?どうやって、レッドキャップを倒すの!?」



「奴は術師タイプのクリーチャーだ、耐久値は低いはず。戦いに不慣れな神坂の一撃でも、結界内から当てれば致命傷を取れるだろう。ただ、何か武器は欲しいところだが……」




 その言葉に、俺は持っていた光剣クラウ・ソラスに殺気を込めて、刃を出現させた状態で神坂さんに差し出した。




「神坂さん!これを、使って?この刃なら、触れることさえ出来れば、奴を仕留められると思うから」



「ありがとう。すごい、これ……刀身が無い。光の剣?」



「うん。俺の“気”が刃に変換されてある。見える範囲なら、離れていても効果は持続するから、安心して」



「わかった。さすがに剣を持って走ったことないから、ちょっと不安だけど……頑張ってみる」




 そうか、それによってスピードが落ちる可能性だってあるんだ。25メートルを3秒……つまり、50メートル走を6秒で走るってことだろ?しかも、女子の神坂さんに行けるのだろうか。


 そんな不安そうな表情が伝わったのか、神坂さんは俺の肩をポンと叩いて言った。




「今度は、私が見せてあげるよ。キミに。私のユニークスキル……【韋駄天】の速さを、ね」

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