LV2「試験迷宮クノッソス」・5

 チラリと、山田くんのチームメイトたちに目をやると、 両手をあげて無抵抗をアピールしてきた。




「ま、待ってくれ!俺たちに戦う意思は無いんだ。山田が勝手にやったことだから……ほら、通るなら道を開けるぜ!?」




 そう言いながら、面倒くさそうに気絶した山田くんを二人掛かりで抱えながら、彼らは俺たちとすれ違って、どこかへと消えて行ってしまう。

 その様子を見て、哀れんだ表情で三浦が呟く。




「ワンマンチームの悲しき末路だな。こちらとしては、余計な戦闘をしなくて済んだわけだが」



「そうだね……でも、とにかく!これで、先に進める。みんな、準備は良い?」




 推理通り、「寅」と書かれていた扉の鍵穴に、持っていた鍵を差し込み、リーダーが俺たちに問うと、全員が首を縦に振った。



 ガチャリ



 見事に扉は開いた。警戒しながら、次のフロアを見回すも、そこには何もなく、また目の前に扉があるだけだった。

 すっかりマップナビゲーターとなった朝日奈さんが、その扉を指差して言う。




「その先が多分、ボス部屋!中心部の広間だよ!!」




 怖いもの知らずの三浦が、ずかずかと扉の方へ近付いて行く。




「今度の扉には、鍵も鍵穴も見つからんな」




 そう言って、試しに扉の取手を握りしめた、その時だった。




 ブーッ!ブーッ!!




 あからさまに、不快な警報音が鳴り響くと、周囲を取り囲むかのようにして、全身が緑色の小鬼がウジャウジャと地面から湧き出てくる。




「チッ!すまん、トラップを発動させてしまったようだ」




 扉に触れると、クリーチャーが召喚されるトラップか。こんなものまで、あるとは。さすがに、これは三浦を責めることは出来ない。

 すると、すぐに初リーダーとは思えない月森さんの迅速な指示が飛ぶ。




「みんな、戦闘態勢を!前衛スイーパーは、後衛を守りつつ、全方位警戒!!」



「「了解!!」」




 彼女の言葉に、俺とマコトがすぐに武器を構えて、後衛の三人を守るようにして陣形を展開させる。

 それにしても、数が多い。




「ガチャコッコ、お願い!良いのが、出てね!!」




 まるで、神社にお賽銭でも投げ入れるかのように、取り出した百円玉に願掛けをして、手首のニワトリ型アーティファクトに投入する月森さん。

 すると、すぐにニワトリが「コケッコー!」という叫び声と共に銀色の卵を生み出した。




「すご……それが、武器ガチャ?」



「そう。銀色だから、等級は“レア”だね。可もなく、不可もなくって感じだけど……えいっ!」




 俺の質問に答えて、彼女は産み出されたばかりの銀色の卵を床に叩きつける。




 ウィンド・バトン

 等級:レア

 振ることによって風を巻き起こすことが出来るバトン。振る強さによって、発生する風の勢いも変化する




 中から出現した青色の長いバトンを手に取り、表示された武器の説明を確認する月森さん。


 本当に、ソシャゲみたいだな。でも、新体操選手にバトンは“当たり”といって良いのではないだろうか?


 知識豊富な三浦が、後ろから助言を送る。




「奴らは、下級クリーチャーの小鬼ゴブリンだ。見ての通り、多数での集団戦を得意としている。多少の知性も備えているから、用心しろ!」




「ウガアアアアッ!!」




 一斉に飛び掛かってくる小鬼軍団に、後ろの朝日奈さんは「ひいっ」と小さな悲鳴をあげる。

 俺と月森さんが、応戦しようとするより早く、彼の声が響いた。




「七星剣術・二つ星……巨門メラク!!」



 ゴウッ!



「ギャアアアアアア!!」




 マコトが自らの妖刀を地面に突き刺すと、彼の込めた青いチャクラが拡散されて、襲いかかってきた周囲の小鬼ゴブリンたちを一撃で吹き飛ばしてみせる。




「よし!やった!!」




 実戦で初めて成功させて、マコトも嬉しそうだ。たった一週間弱の修練で、俺たちは基本技である“貪狼ドゥーべ”と“巨門メラク”は、完璧とまではいかないまでも一応のマスターはしていた。

 師匠が効率的な性格で良かった。こんな短期間で、使いものになるとは。



 しかし、消滅した小鬼たちを上書きするかのように、次々と地面から新たな小鬼が出現する。




「なに、これ!?永遠に出現してくるの?こんなの、どうしたら……」




 そんな神坂さんの不安を払拭させるかのように、朝日奈さんが何かに気付いたようで。




「あれ、見て!奥にいるゴブリン、一匹だけ赤い帽子をかぶってる!!あれが、リーダーなんじゃない!?」




 その言葉を聞いて、三浦も頭の中のクリーチャー辞典を展開させる。予備知識は相当なものだ。




「赤い帽子……レッドキャップか!そいつは、杖を使って小鬼を召喚するという特性を持っていたはずだ。そいつを、倒せ!!」



「倒せったってな……」




 最後方に陣取っているレッドキャップを倒すには、無数のゴブリンを越えていく必要がある。しかし、奴の召喚スピードは異常なほど早い。倒して、数秒も経たないうちに次の小鬼を生み出してくる。


 一体、どうすればいい!?









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