LV2「試験迷宮クノッソス」・4

「ふぅ、ビビらせやがって。気絶するかと思ったぜ」




 着ている制服が、ところどころ破れて黒く焦げてるほどの状態で、何事も無かったかのように立ち上がってくる山田ジュウゾウ。




「ウソ、マジ!?ぞうさん以上の頑丈さ?」




 さすがの朝日奈さんも驚いて、唖然あぜんとしていると、その隙を見て停止していたドローンを山田くんが手にしている金属バットで打ち飛ばした。



 ガキンッ!




「おー、いちち。つまんねぇ真似しやがって。だが、俺のユニークスキル【ド根性】に耐えられねぇ痛みは無え!がっはっはっ!!」




 朝日奈さんの足下に転がってきたドローンは、ショートしながら、表面がボコッとへこんでいる。




『自己修復ヲ、開始。復旧マデ、10分間ヲ要シマス』



「あぁ〜!ベータが!!」




 まるで愛しいペットでも抱きかかえるように、自らのドローンを拾い上げる彼女。


 それにしても、恐るべきは山田くんの頑丈タフさだ。【ド根性】とか言っていたが、まさか根性で痛みに耐えたということなのだろうか?

 意味のわからないユニークほど、怖いものはない。




 ぺっとつばを吐き出して、金属バットの先端をズルズルと道に引きずらせながら、不気味な存在感を放つ山田くんが襲いかかってくる。





「次は、どいつだオラッ!まとめて、ボッコボコにしてやんぜ!?」




【虚飾】が、【近接戦闘(格闘)】rank90に代わりました



「俺が、相手だ!」




 朝日奈さんを飛び越えて、俺も彼のもとへと駆け出していく。この人なら、男女構わずバットで殴り飛ばしそうだ。早めに、止めなければ。




「来たな、植村ァ!テメーとは、まだ一勝一敗だ。ここで、完全決着をつけてやらぁ!!」




 まるで、メジャーのホームランバッターかのごとく、思いっきりバットを振りかぶる山田くん。確かに、当たれば頭を粉砕されそうな勢いだが、それだけ予備動作が大きければ、回避もしやすい。




 ブンッ




 フルスイングされる金属バットをスライディング気味にかわすと、そのままカウンターのボディブローを彼の腹部に命中させる。



 手応えあった!どうだ!?




 ググッ




 しかし、その一撃で倒すことは出来ず、逆にバットを捨てた彼の両手によって、がっしりと手首をつかまれてしまった。




「成長してねーな、植村ァ。あの頃と、同じ攻撃とはな……今でも、ボクシングは習ってんのか?」




 ボクシング?そういえば、そんなハッタリをかましてたような気もする。もしかして、ずっと信じてたのか。いや、そんなことより、この状況は危険だ!




「だがよぉ……これだけ、密着しちまえば、威力のあるパンチは打てねぇんじゃねーのか?」




 彼のかいなのパワーは凄まじく、なかなか手を引き抜くことが出来ない。単純な人間性能だけでいえば、黒岩ムサシにも匹敵するかもしれない!




「くっ……!」



「最後に聞く。テメー、ここの扉の鍵は持ってるのか?」



「……持ってるよ。欲しけりゃ、力ずくで奪ってみるんだな」



「ハッ!言われなくても、そのつもりだっ……つーの!!」




 ぐるんっと背を向けて、強引に俺の腕を引っ張り上げる山田くん。間違いない、これは一本背負いの体勢だ。柔道の華麗な投げというよりかは、圧倒的なパワーによる喧嘩殺法。この勢いで、地面に叩きつけられたら致命傷はまぬがれない。




【虚飾】が、【組み付き】rank100に代わりました




 投げ飛ばされる直前で、俺は自らの腰に相手を乗せ、返しの裏投げを敢行した。

 山田くんは、なかなかの巨体で重かったが、【組み付き】では一瞬の筋力も向上される。




「うおっ!?」



 ズシャアアア!!




 逆に、彼を肩から地面に叩き落とすことに成功するが、これではまだ不十分だ。彼には、未知数の耐久スキルがある。


 俺は、後ろ回りをして流れるように彼のマウントを取ると、肩固めをめた。

 相手の腕を頸動脈に上手く押し込み、絞め落とす。地味だが、効果的な寝技である。




「は……なせ……うぐ……っ」




 ストンと、彼の抵抗する力が抜けたのを確認して、俺は拘束を解いた。ここなら、万が一のことがあっても大丈夫だ。なので、ついつい力一杯に絞め落としてしまった。ここまですれば、さすがに根性では復活できないだろう。




「ふぅ……何とか、いけたか」




 ふと仲間たちに目をやると、しばし呆然とした様子をした後で、パチパチと拍手をしてくれた。




「す、すごいよ!ユウトって、剣術じゃなくて、体術が主武器メインだったの!?」



「あ〜……まぁ、ね。クリーチャー相手だと、あんまり効果が無いから、剣術を学ぶことにしたんだ」



「そうだったんだ。でも、今の動きなら、一対一ならクリーチャーにも通用しそうだったけど」




 マコトも、なかなかに鋭いな。確かに、一対一で敵が人型なら通用しなくもない。と、いうか……それで、王級のクリーチャーを倒してはいるのだが。




「やるじゃん、植村くん。有言実行だね」




 神坂さんがニコッと突き出してきた拳に、俺もコツッと拳を当てて、勝利を分かち合う。ようやく、彼女にも認められたようだ。











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