LV2「試験迷宮クノッソス」・3
「あ、やっぱダメだ」
「えっ?」
「なんか……綾小路さんが、同じような宝箱に追いかけられてる」
朝日奈さんからの報告を受け、リーダーも一緒にドローンからの映像を覗き見ると、まるで大きな口を開けたように無数の牙と長い舌を生やした宝箱に、迷宮内を追いかけ回らされている綾小路さんの姿があった。
二人の後ろから同じ映像を見ていた三浦が、ボソッと一言。
「人喰いミミックか。宝箱に擬態したクリーチャーだな。典型的なトラップだ」
「あぶなー!開けなくて、良かったぁ〜」
ほっと胸を撫で下ろす朝日奈さんの耳に、すぐに誰のものかと分かる悲鳴が響き渡る。
「いやあああああ!こんなの、聞いてませんわ〜!!」
綾小路さん、開けちゃったのか〜。あんまり、慎重そうな性格では無かったもんな。
そんなこともありつつ、俺がナビに従って入り組んだ道を先導していくと、まずは入口の扉が目に飛び込んでくる。つまり、その先にあるのが“寅”の扉であるはずだ。
そんな期待を胸に秘めて、角を曲がると、そこにな何やら扉の周りにたむろして、開くか開かないかの格闘を繰り広げている
すぐに身を隠そうとしたものの、野生の勘なのか急にこちらを向いてきたその班のリーダー“山田ジュウゾウ”と目が合ってしまう。
「よう、植村!どこかの班が来てくれるとは思っていたが、まさかお前の班とはな」
ここまで来たら、もう引き返すことは出来ない。どのみち、彼らがどこかに行ってくれないと、“寅”の扉を開くことは出来ないのだから。
「や、やあ!山田くん。どうしちゃったの?こんなところで」
苦笑いを浮かべて近付いて行くと、俺の後ろから月森さんたちも恐る恐るついてくる。
「実は、さっぱりと謎解きが分かんなくてよぉ。苦戦してたんだが……ようやく、助けが来てくれてホッとしてたところなんだよ」
「えっと、その助けって……もしかして、俺たちのことだったりする?」
「おうよ。ここで張ってりゃ、いずれ現れると思ってな。この扉を開けてくれる“どっかの班”が。下手に頭を使ったり、動き回ったりするより、そっちの方が手っ取り早いと思ってよぉ」
とてもダンジョン攻略に適した武器とは思えない金属バットを肩に掛けながら、不敵な笑みを浮かべて近寄ってくるリーゼントの悪魔。
「つまり、どういうことですかね?はは」
「単刀直入に聞く。お前ら、ここの扉を開く鍵を持っているか?」
「持ってない……と、言ったら?」
「ま、どのみち潰すわ。持ってりゃ、鍵を奪うし。持ってなけりゃ、ライバルチームを減らせるわけだしな」
じゃあ、聞くなよ!どっちにしろ、やる気満々なんじゃねーか!!
まさか、いきなりクラスNo. 1の好戦的生徒と鉢合わせることになるとはな。だが、どうする?
見たところ、山田くん以外のメンバーは戦う気は無いようで、遠くから見守っているだけだ。対して、こちらの戦闘員は俺を含めた三人。全員でかかれば、何とか出来そうだが……。
チラッと後ろの二人を見ると、どちらも不安そうにしている。
マコトは対人戦が苦手と言っていたし、しかも相手は山田ジュウゾウだ。ここは、戦わせない方が良いだろう。
月森さんの実力は未知数だが、単純に山田くんに殴られる彼女の姿は見たくない。と、なると……。
「みんな、下がってて。ここは、俺が何とかするから」
俺が戦うしかない。どうせ使わない予定だった【近接戦闘(格闘)】を、ここで使ってしまおう。彼の一撃は致命傷になりかねないので、“自動回避”もオンにしておく。これで、準備は万全だ。
しかし、まだ信用してなさそうな神坂さんに声を掛けられる。
「何とかするって……大丈夫なの?植村くん」
「大丈夫……おそらく」
「えぇ……不安だなぁ」
そんな二人の間をすり抜けて、何かの飛行物体が山田くんの方へと向かって行く。
今のは……朝日奈さんのドローン!?
「ベータ!“パラライズ・ニードル”射出!!」
「あん?なんだ、このオモチャは。ナメてんのか!?」
特にダメージの無さそうな山田くんが、刺さった小さな針を抜こうとした、その瞬間……!
バチバチバチバチバチッ!!
「あががががががが!?」
目に見えるほどの電流が、彼の全身を駆け巡る。
漫画だったら、彼の骸骨が透けて見えてたほどの激しさだ。あの針は、それ自体に威力があるわけではなく、刺さると強力な電気を流す物だったらしい。
「ふふん!象でも気絶させられるぐらいの電流だよん。これで、しばらくは起き上がってこれないでしょ」
勝ち誇ったように言う朝日奈さん。
さらっと言ったけど、その威力を人間に当てて大丈夫なのか?最悪、ここはダンジョンと同じ仕様なので、元に戻るから良いんだけど。
しかし、偵察から戦闘までこなすとは、便利なドローンである。
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