LV2「試験迷宮クノッソス」・1

 最奥にある扉の前を陣取った月森小隊。


 朝日奈さんが、ダンジョンの外壁をペタペタと手で触って、感動している。




「すっごー!ホントに、岩の感触!!さっき、出来たばっかりとは思えないぐらい」




 ごつごつとした岩が組み合わさって出来たような壁の構造。確かに、見た目からも年季が感じられるほどだ。




「全組、配置に着いたようなので、これより実力テストを始めたいと思いまーす!私が合図のホイッスルを鳴らしたら、一斉に扉を開けてダンジョン内に入ってくださいね〜!!」




 遠くから、やたらと響くひじり先生の声が響いてくる。拡声器アプリを使って、自らの声のボリュームを上げているのだろう。便利な世の中である。




 ピッピッピー!!




 小気味いいリズムを刻んで鳴らされた先生のホイッスルを聞いて、一斉に扉を開いて、中のダンジョンへと侵入して行くローAの生徒たち。


 足を踏み入れると、内部も岩壁で構成されており、すぐに三又みつまたに道が分かれていた。

 両脇の道は入り組んだ迷路のようになっていたが、なぜか真ん中の道だけは、真っ直ぐと障害物も何も無い道の先に次の扉があるだけだ。




「朝日奈。とりあえず、現在地点の把握はあくを頼む」



「アイアイサー!」




 三浦の冷静な指示に、朝日奈さんはドローンの一つを、彼女の前に浮かんだ立体映像ホログラムのキーボードで操作入力をして、上空に飛行させていく。

 上を見ると、天井は無く吹き抜けになっていたこともあって、グングンと高度を上げていった。


 さすがに気になったリーダーが、試しに聞いてみる。




「えっと……今は、何をしてるところなの?レイちゃん」



「見ての通り、ドローンで上空からの映像を映してもらおうとしてるの!上手くいけば、マップ代わりにもなるよー!」




 すると、無事に撮影が開始されたようで、朝日奈さんの前に投影されている立体映像モニターに、上空から撮られた迷宮内のリアルタイムの様子が映し出され、それを隊員たちも共有して覗いて見てみる。


 そして、神坂さんが朝日奈さんに尋ねた。




「これが、上から見た迷宮の様子?」



「そうだよ〜!円形の迷路に、なってるね。中心部に広めの空間があるから、そこがボス部屋じゃないかな?」



「どの扉からも、距離は同じって言ってたもんね。中心部にボスがいる可能性、十分にあるかも」



「待って!よく見ると、外円と内円で区切られてるみたい。また、五つの扉で」




 その朝日奈さんからの報告を聞いて、俺たちは一斉に目の前の道奥にあった扉へと視線を集中させる。




「扉って、……?」



「うん!外円部は迷路みたいに入り組んでるけど、内円部はそうでもないね。違った障害物が、待ってるのかな?」



「複合型って言ってたから、それはあるかも。んで、どうする……あの扉、調べてみる?」




 みんなに提案してみたものの、次の扉へ直通できるなんて、どう考えても怪しすぎる。それなら、わざわざ外円部を迷路にする必要もないし、そもそも用意する必要すらないかもしれない。


 月森リーダーも、同じく悩んでいるようで。




「明らかに、怪しいけど……一応、調べておきたいよね。逆に、本物の扉っていうような心理トラップかもしれないし」



「よし。なら、俺が先導しよう。お前たちは、後についてこい」



「三浦くん!?トラップ回避できるようなスキルとか、持ってたりする……の?もしかして」



「いいや、持ってない。ただ、この面子メンツの中で、仮にリタイアしたとしても問題なさそうなのは、俺ぐらいだろ。だから、俺が行く」




 そう言って、すぐに扉への道へと進んで行ってしまう三浦。おそらく、優しい月森さんのことだから、引き止められると踏んだのだろう。

 意外と男らしいところがあるんだな。可愛い子の前で、かっこつけたいだけという噂もあるが。



 結局、何もトラップが発動することなく、あっさりと扉の前に到着した一行。何か拍子抜けな感は否めないが、みんなが無事で何よりである。


 チームが安堵していると、神坂さんがに気付いた。




「見て!扉の前に、鍵が吊るされてる!!」



「“入口の先に、次の扉”のあとは、“扉の前に、鍵”か。親切なんだか、ポンコツなんだか、よく分からんダンジョンだな」




 何か不満そうに、三浦が愚痴る。

 もしかしたら、ワンチャン罠にかかってリタイアした方が、自分の株が上がったのに!とか、思っていそうで怖い。


 その勢いで、吊るされていた鍵を取ると、それを目の前の扉の鍵穴へとし込む悪友。




 ガチャガチャガチャ!




「ダメだ、開かないな。やはり、そう簡単な話では無かったか」




 多少は期待していたのか、みんながちょっぴり肩を落としていると、今度はマコトが何かに気付いたようだ。




「ねぇ、その鍵穴……何か、文字が書かれてない?漢字みたいな」




 その言葉に促されて、よく見てみると、確かに漢字で「子」と記されていた。




……子供って、ことか?」














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