ダンジョン・メーカー

 それから、徐々に学園生活のサイクルにも慣れてきた俺たちは、いよいよ実力テスト当日を迎えた。



 ひじり先生に先導されて、ローAの生徒一同が連れてこられたのは、体育館の数倍はあろうかという大きさの多目的ホールであった。


 この中に、試験用のダンジョンが造られているのだろうか?




 しかし、先生が大きな扉を開くと、そこには……何も、なかった。ただただ広い空間が存在するのみだった。


 早速、山田くんが不機嫌そうに大声で発言する。



「んだよ。何も、ねーじゃねえか!どういうことだよ!?」



 もしかして、AR技術を利用した立体映像ホログラムを使って、バーチャル・ダンジョンでも出現させる気だったりして。



「ふぉっふぉっふぉ。焦るな、焦るな。すぐに、造ってやるから、待っておれ」



 急に生徒たちの背後から響いた老人の声に、何人かが本気で驚いて振り向くと、そこにいたのは季節外れのアロハシャツを着たファンキーな白髪白髭はくはつしろひげのお爺ちゃんであった。




冒険者養成校ゲーティアの科学技術顧問・本田スエキチ先生です。今回、我々の実力テストの監修をしてくださった方よ」




 ひじり先生の紹介を聞いて、生徒たちが一斉にお爺ちゃんに頭を下げた。何やら大きい鏡のついた杖のようなものを持っている。なかなか、パンチの効いた先生だ。




「この杖は、レベル5の秘宝アーティファクト・ダンジョンメーカーじゃ。本来は龍宝財団のギルドが所有しておる物なのじゃが、好意で我が学園に貸し出された逸品いっぴんである」




 レベル5の秘宝だったのかよ!しかも、ダンジョンメーカーって、まさか……?


 本田先生は、何やら鏡を指でなぞり始めた。

 よく見ると、タッチパネルのように何かを操作しているようだ。魔法の杖のようなものかと思ってたら、機械の杖なのか。秘宝というのは、奥が深い。




「この杖の中には、過去に我々人類が攻略したダンジョン全てのデータが保管されておってな。その中から好きなように組み合わせて、カスタマイズした擬似ダンジョンを実際に生み出せてしまう!と、いう代物しろものなのじゃ」




 自慢げに語るお爺さんの言葉に、ザワつく生徒たち。それも、そうだ。さすが、レベル5だけあって、スケールが違う秘宝のようだ。


 ここでも、ずけずけと質問をぶつけていくのは山田くんだ。ある意味では、頼もしい。




「ダンジョンを造るだと?マジで、言ってんのかよ。ジジイ」



「マジじゃよ、小僧。ただし、いくつか条件はある。まずは、相応の空間スペース。平らで何も無い敷地が無いと、造れるもんも造れんわけじゃな」




 なるほど。だから、この何も無い多目的ホールというわけか。このダンジョンメーカーを見越して、設計したんだろうか?




「そして、造り出したダンジョンは24時間で消失してしまう。つまり、一日限定というわけじゃ」




 次に質問をぶつけたのは綾小路さんだ。やはり、このローA・二大巨頭は先陣を切っていく。




「それは、秘宝アーティファクトまで、再現できるんですの?」



「無理じゃな。コイツが再現できるのは、ダンジョンの構造やトラップ、出現するクリーチャーのみじゃ。完全なる練習用ダンジョンってヤツじゃ。龍宝財団もギルドの訓練施設として、この秘宝を使用しとったらしいからの」



「あら、残念。ですが……それでも、十分に使える秘宝ですわね。さすがは、レベル5」



「今回、おぬしらに挑んでもらうのはレベル2を想定した複合型ダンジョン……名付けて、『試験迷宮クノッソス』じゃ!」




 ゴゴゴゴゴゴ……!!




 操作を終えて、彼が杖を天高くかかげると、何もなかったホール内に、円形の石造りの建物が構築されていく。まるで、前世でいう3Dプリンターかのように。




「す、すごい……」




 大人しいマコトですら、思わず感嘆の声が出てしまうほどに、それは圧巻な光景だった。

 立派な建造物を、瞬く間に創造してしまったのだ。誰でも、そうなってしまうだろう。


 完成したところで、担任のひじり先生も説明を付け加えた。




「この中に、一歩でも足を踏み入れれば、そこは実際のゲートの中と同じです。怪我を負ったり、死に直面してリタイアすることがあっても、完全回復して入口に戻れます。なので、皆さんは勇気を持って、進軍してくださいね!」




 いやいやいや。いくら完全回復するといっても、実際に痛みなんかは感じるわけだし、そう単純に思い切った行動が出来るわけでもないんだよなぁ。


 そんな先生に、質問した三番目の生徒はウチのクラスの学級委員長・明智ハルカさんだった。




「あの、先生!攻略する班の順番とかは、あるんでしょうか?」



「いいえ。このダンジョンには、全小隊が一斉に攻略を開始してもらいます」



「い、一斉に……ですか!?」



「はい、そうです。では、そこら辺を含めて、今回の実力テストの簡単なルールを、説明していきましょうか!」

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