決起集会・3

「最後に、霧隠シノブが集めた小隊クランだ。早々に能力の高そうな生徒をピックアップしていただけあって、チームの総合力としては一番の高さと言えるだろう」



「霧隠くん……か」




 ボソッとつぶやいた神坂さんの言葉を、耳ざとく三浦は拾っていて。




「どうした。神坂の知り合いか?」



「知り合いっていうか、スカウトされたんだよね。私とヒカル。今日、霧隠くんに」




 その言葉に、食事していた手が止まるほど、驚く男性陣。そして、もう一人。




「えっ!?私、スカウトされてない!!」



 朝日奈さんが、特殊なリアクションを見せた。

 すかさず、三浦もツッコミに回る。



「そこじゃないだろ!まさか、引き抜き活動までしてるとはな……侮れん奴だ」



 さすがに心配になったのか、大人しいマコトも加わってきた。



「それで……二人は、なんて返事したの?」



 不安そうな彼の表情を見て、二人は顔を見合わせてかすかに笑うと、代表して月森さんが質問に答えてくれた。



「もちろん、断ったよ。安心して?」



「あぁ、そうなんだ……良かった〜。もう、僕らに愛想あいそを尽かしたのかと思った」



「正直……ナオは、少し尽かしそうになってけどねぇ」



 神坂さんの方をチラッと見て、意地悪っぽく笑う月森さん。友人の前では、こういう茶目っ気のある部分も見せたりするんだなぁ。




「ちょ、ヒカル!ちょっと、不安になっただけだってば!!」



「まぁ、仕方ないよ。チームの男性陣が全員、ワースト3に入ってるんだから。俺が神坂さんの立場でも、不安になってたと思うし……はは」



「うん……この際だから、聞いておくけど。にして、良いんだよね?三浦くんはともかく、二人は前衛スイーパーだから、戦えない私達からしたら頼りたいんだけど」



「大丈夫、任せて!本番は、絶対に良い働きをしてみせるから!!」




 同意を求めるように、マコトと視線を合わせると、彼もまた力強くうなずいてくれた。


 これぐらい自信を持って言わないと、みんなも不安なままだろう。実際に、マコトは対人じゃなければ実力は発揮できるだろうし、いざとなれば俺だって封印しているスキルを使えばいいことだ。




「よし!そこまで、言い切ってくれると、こっちも信じられるよ。よろしくね、二人とも」



「うっす!よろしくお願いします!!」




 改めて一致団結したところで、朝日奈さんが唐揚げをハムスターばりに頰に含ませたまま、口を開く。



「とこおで、ひーはーとひーむめいほうふる?」



 何を言ってるか、さっぱりだ。途中、前世で流行ったような芸人のギャグが混ざっていたような気もする。

 みんなが、ポカンとしていると三浦が通訳してくれた。



「ところで、リーダーとチーム名はどうする?……だ、そうだ」



「いや、分かるんかい!凄い読解力だな。てか、合ってるのか?」




 チラッと朝日奈さんを見ると、親指を上げたグッドサインを三浦に送って、満足げだ。合ってたらしい。リーダーとチーム名とかも、決めなくてはいけないのか。




「リーダーかぁ……この中で、相応ふさわしそうな人、誰かいる?」




 何気なく月森さんが問うと、特に示し合わせたわけでもなく、全員が彼女を無言で指差ゆびさした。




「えっ!私!?」



「満場一致で、決定!リーダーは、月森ヒカルで〜す。みんな、拍手!!」




 さっきの仕返しとばかりに、神坂さんが場を盛り上げると、俺たちも拍手を鳴らして、それにこたえた。

 一番、しっかりしてそうだし、月森さんがリーダーなら士気も上がることだろう。




「あんまり、リーダーとかやったことないんだけどなぁ……しょうがないか!」



「その流れで、チーム名も決めちゃってよ。ヒカル」



「えっ!?それは、やだ!せめて、みんな一つずつ何か候補を出してよ。その中から、選ぶから!!」




「え〜」と、面倒くさそうに言いながら、しばし考えて、何か思いついた様子の神坂さん。




「月森ヒカルと愉快な仲間たち!……どう?」



「はい、却下。他には?」




 冷酷に神坂さんの案を取り下げたリーダーが、俺たちに視線を向ける。これは、何か案を出さないと終わらなそうだ。

 ここで、特攻隊長を担ってくれたのは、やはり朝日奈さんだった。




「はい!“唐揚げとポテト”なんか、どうでしょう!?」



「それ、目の前にあるメニューを言っただけだよね……?一応、授業で使う名前だから、少し遊びすぎかな〜」




 意外と真剣に提案していたのか、却下されてシュンとした表情でポテトをつまむ朝日奈さん。なんか、かわいらしい。

 その発言を受けて、第三の刺客・三浦レイジが動き出す。



「なるほど、真面目な感じをご所望しょもうか。ならば、“第01特別機動冒険小隊・吹雪”なんて、どうだ?」



「長っ!?それは、ちょっと堅すぎかなぁ……逆に」




 やばい、これは後になるにつれてハードルが上がるパターンだ。何でもいいから、早く答えなくては!


 しかし、まさかの先に動いたのはマコトであった。




「じゃあ、神坂さんと三浦くんのを合わせて……“月森小隊”とか、は?」



「んー、自分の名前が付くのは恥ずかしいんだけど。それぐらいシンプルなのが、無難で良いかもね!じゃあ、上泉くんの案に決定!!」




 あれ?俺の案は……まあ、いいか。助かった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る