決起集会・1

 一日の授業が終わった。


 ロークラスということもあってか、座学は基礎的な冒険者の知識が中心だった。『ヴァルキュリア』や『漆黒の鎌』のメンバーとの交流で、ある程度の予備知識は得ていた俺からすると正直、退屈な時間ではあったが、隣にいる月森さんを目の保養にして、寝落ちしてしまう事態だけは避けることができた。


 実技の時間では、さきほどの剣術や護身術、アスレチックミッションに備えたランニングやパルクールなど、冒険者養成校らしい内容で、新しい学びが多くあった。しかし、なかなか体力的にはハードで、幼少期から鍛錬トレーニングを続けてこなければ、ついていけなかったかもしれない。


 更に午後の自由訓練では、昨日に引き続き北斗師範のもとで、七星剣術の基礎を学ぶ。



 そんな、学園での正式稼働を全て終えて、俺たちが辿り着いたのは……。




「いらっしゃいま……って、イブキちゃんか」




 新規の客だと思って迎えの挨拶をしそうになった「灰猫亭」の店主が、見知った従業員の顔を見て、落ち込んだ。




「一応、お客さんも連れてきてるから。そんな、ガッカリした顔、しないでよ〜」



「お客さん?」




 姐さんのあとについて、中に入った俺とマコト。

 店内には、すでに他の小隊メンバーたちが軽い宴を開いていた。そう、今日は実技テストに向けた決起集会を開く約束をしていたのだった。




「来たか。全員、もう揃ってるぞ?」




 美少女に囲まれてテーブルの一角に座っていた三浦レイジが烏龍茶ウーロンちゃを飲みながら、俺たちに向かって手を挙げた。


 そこへ、揚げたてのフライドポテトを運んでいく中条先輩。姐さんがいないと、接客も彼女一人でやってるらしい。いわゆる、ワンオペってやつだ。




「もう。さっきから、飲み物とか軽食ばっかり。ここ、ファストフード店とかじゃないんだけどなぁ?」




 店長からの直々の苦言に、月森さんが申し訳なさそうに両手を合わせて謝罪する。




「すみません。有名チェーン店とかも、島内にはあるんですけど……値段が、高くて。そしたら、三浦くんたちが、手頃で美味しい穴場の店を知ってるって言うので」



「手頃で、美味しい……ま、まあ別に!どうせ、お客さんも少ないし?全然、いいんだけどね。うん」




 あからさまに、褒めらて浮かれている様子の店長。

 意外と、単純だったりするのかもしれない。


 神坂さんに呼び込まれ、俺ら二人もテーブル席に加わる。一席に六人掛けなので、これで満席だ。




「お疲れ様。うちら部活組より遅いなんて、随分と熱心だね。ナナホシ剣術……だっけ?」




 来たばっかりのポテトをつまみながら、神坂さんが俺たちに尋ねた。微妙に、間違えている。




「一応、七星しちせい剣術ね……まぁ、同じようなもんだけど」



「あ、そうなんだ!ごめん、ごめん。でも、信用できるの?その剣術。最近、できたやつなんだよね……それに、門下生も二人だけなんでしょ」




 今日の剣術授業でのこともあってか、心配そうに聞いてくる彼女。その言葉を否定したのは、厨房で着替えていたメイド服の姐さんだった。




「二人じゃなくて、ね。私も、含めて」



「あ、そうだったんです……ね」




 突然、メイド服で現れた先輩がドヤ顔でアピールしてきて、逆に心配が増す神坂。


 そんな不安を打ち消すかのように、月森が何かにきづいたようで。




「もしかして……安東イブキ先輩ですよね!?」



「ん?そうだけど。私のこと、知ってるんだ」



「はい!『ヴァルキュリア』の誇る最高戦力・九戦姫きゅうせんきの一人“双剣のイブキ”……有名ですから!!」




 えっ!?姐さん、『ヴァルキュリア』所属だったのか?しかも、九戦姫なんか初めて聞いたぞ。もしかしたら、テンやナギとも知り合いだったりするのだろうか。


 それにしても、意外と月森さんってミーハーなんだな。冒険者になりたいって言ってたし、そういう界隈かいわいの情報にも敏感なのかも。


 そんな事実に、神坂さんも驚いたようで。




「そんなに、有名な人だったんだ……この、メイドさん」



「メイド服は、私の趣味ね。ホントは、メイドカフェで働きたかったんだけどさー。無いから、仕方なく友人の店で着ることにしたわけ」




 趣味で着とったんかい。てっきり、店長の趣味なのかと思ってたけど。そう言われれば、俺には何も着させられなかったもんな。


 そんな店長も、ご立腹のようで。




「仕方なく、私の店で着るな!その服のせいで、世界観がバラバラだ〜。とか、よく言われてるんだからね!?」



「まぁまぁ、いいじゃん。従業員のモチベが上がってるんだからさ」




 そんな中、メニュー表とにらめっこしていた朝日奈さんが、流れをぶった斬って注文する。




「はいはーい!メイドさん。あと、唐揚げくださーい!!」



「はい、毎度!てんちょー、唐揚げ一つ入りました〜!!」




「聞こえてるわ!」と重低音で言い残し、店長は厨房に消えていった。今日は、シフトに入ってなくてよかった。





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