落第生・2
「ねぇ、ヒカル」
罰を受けている落第生たちをよそに、次の指導を開始する武井教官。そんな彼の目を盗んで、神坂ナオはルームメイトの月森ヒカルに小声で話しかけた。
「ん、なに?ナオ」
「一応、ヒカルの紹介だから、一緒に組んだけど……本当に、大丈夫なの?彼らで」
グラウンドを走る
「あ〜……でも、ほら!あくまで、剣術だけの指標だし。みんな、得意な分野が違うのかも。それぞれ」
「そうだったらいいけど。私は、ランナーだから戦闘では役に立たないでしょ?ほとんど。男性陣がアテにならなかったら、ヒカル一人に負担がかかるんじゃないかと思って」
「そっか、私の心配をしてくれてたんだ!ありがとね、ナオ。でも、大丈夫……やる時は、やってくれる人たちだって信じてるから」
「そっか。まあ、そこまで言うならいいんだけど。私も、やるからには負けたくないからさ。他のチームに」
そんな二人の会話に、まるで気配を感じさせず近付いてきていた
「なあ、二人とも。あんな奴らとは手を切って、俺の
いきなり出現した彼に、二人ともビクッとなるが、すぐにクラスメイトだと分かり、平静を取り戻す。
神坂は、驚きを隠すかのように質問に返した。
「急に、スカウト?えっと……
「覚えててくれて、嬉しいよ。忍者の末裔らしいんだけどさ、俺は忍術とか
「どうでもいいけど、用件は手短にどうぞ。先生にバレたら、私たちもグラウンドコースだよ?」
神坂が生徒たちの前で熱弁を振るっている武井教官の方を目配せしながら言うと、霧隠シノブも状況を理解したらしく静かに
「お察しの通り、スカウトさ。二人とも、スポーツ推薦で入った組だろ?その優秀な運動神経、あんな奴らと一緒じゃ、生かすことなんて出来ないぜ」
「確かに、スカウトもアリみたいな話は
「揃えてたけど、アイツらはキープ要員さ。他に良い人材がスカウトできたら、すぐにでも交代するつもりだ。そこらへんは、心配しなくていい」
「キープ要員……ね」
黙って隣で聞いていた月森は、あからさまに怒りの表情に変わった。すぐにでも、何かを言ってやりそうな雰囲気を出していたが、それをジッと我慢しているようだった。
「実力を
「せっかくだけど、やめておく。ごめんね」
「どうして!?俺の実力が、分からないからか?少なくとも、あの落第生組よりかは……」
「能力の問題じゃなく、人格の問題。平気で仲間を切り捨てるような人間のチームに、誰が入りたいと思う?私たちより、優秀な人材がスカウトできたら、すぐに交代させられるんでしょ。どうせ」
鋭い視線をぶつけてくる神坂に、思わず
「ちっ、違う!キミたちは、交代なんかさせないって!!約束するッ」
ハァと溜息を吐いて、ついに我慢できなくなったのか、月森も重い口を開いた。
「私たちじゃなくても、イヤなの。仲間が切り捨てられるのを見るのは。あなたは結局、自分のことしか考えてない!そんな人には、
「くっ……誰だって、自分のことしか考えてないだろうがよ!良い子ちゃんぶりやがって。俺を敵に回したこと、絶対に後悔させてやるからな?」
目元まで伸びたおかっぱ頭の前髪の隙間から、睨みつけるような眼光を放って、霧隠は逃げるように、その場を去って行った。
その姿を見送って、神坂がポツリと呟く。
「最後の最後に、本性が出たね。危ない奴」
「……うん。でも、ナオが断ってくれて、ホッとした!もしかしたら、行っちゃうんじゃないかって、ドキドキしてたんだ。内心」
「そんなに、尻軽じゃないって。まぁ、実力は置いといて……チームの雰囲気だけは、良さそうだからねー。ウチは」
二人の視線の先では、罰であるにも関わらず、仲良く談笑しながらグラウンドを走っているチームメイトたちがいた。
先生に見つかったら、追加メニューを増やされそうな行為ではあったが、なぜか憎めない気持ちになる神坂と月森は顔を見合わせると、ふっと笑い合ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます