落第生・1

 午前の部・武器術の授業



「どらあああっ!!」


 ガンッ


「うおっ!?」


 ズザザザザッ



 山田ジュウゾウの重い一太刀を受けて、俺は地面に勢いよく転がされてしまう。




「勝負あり!それまで!!」



 審判を務めていたクラスメイトの男子が、山田くんに向かって手をげた。

 今は、先生の指示で男女に分かれての総当たり戦が行われている。木刀同士で打ち合って、どちらかの体の一部を地面に着けたら“勝ち”となる、なかなかにハードなルールだ。




「へっへっへ。まさか、こんなに早くリベンジできる日が来るとはな。あ〜、スッキリしたぜ!」




 俺のジャージの胸の部分から、星型のピンバッジをもぎ取って満足そうな山田くん。

 勝者は敗者から、そのピンバッジを奪えるのだ。


 あらかじめ全員には、クラスの男子・15名分のバッジが与えられており、最終的に残ったバッジの数で勝敗が分かりやすくなるというものらしい。



 ちょうど今、俺のバッジは残り1となった。つまりは、全敗したということだ。




「ガッハッハ!これで、29個!!あと一個で、完全制覇だぜぇ!!!」




 持ち前のパワー殺法で、全ての生徒を初撃で吹き飛ばしてきた山田くんが勝ち誇る中、もはや犬猿の仲たる綾小路さんがツッコんでいく。




「残り一人は、あなたの分でしょう。それで、終わりよ。全く、そんな簡単な計算も出来ないんですこと?」



「うっ、うるせー!知ってて、わざと言ったんだよ!?あぁ?しめっぞ、コラ」




 よく見ると、綾小路さんのジャージに貼られていたバッジも同じぐらいだった。柔道だけかと思ったら、剣術もたしなんでいたのか。




「よし!終わったようだな。男子で星が少ないのは……植村、三浦、上泉か。そのワースト三人は、今からグラウンド10周!!残りの生徒は、次の訓練に移るぞッ」




 赤いジャージが印象的な、スポーツ刈りの剣術講師・武井たけいゲンキが、持っていた竹刀をガンっと地面に叩きつけて、鬼のような命令を俺たちに飛ばした。


 一周まわって、昭和のスパルタ教師みたいなのが流行りだしてるのか?モラハラ・パワハラのクレームかかってこい!みたいな指導法である。



 とはいえ、逆らう勇気も無し。俺たち三人は、目を見合わせると仕方ないと腹をくくって、グラウンドを走り始める。クスクスとクラスメイトからの笑い声が聞こえて、恥ずかしくなった。




「あの時代錯誤の熱血教師め!なぜ、男子だけなんだ?」




 グラウンド半周ぐらいに差し掛かったあたりで、三浦が愚痴をこぼし始めた。ちゃんと、先生の耳に届かなそうな距離まで我慢したのは偉い。




「そこかよ!他に、いっぱいあるだろ。ツッコミどころ」



「女子と一緒だったら、モチベが変わってくるだろ?まったく、あの講師め……あの感じで、女には甘いのか。虫唾むしずが走るな」



「むちゃくちゃ言うな。【聞き耳】とか【読唇術】スキル持ちだったら、終わりだぞ?お前」




 同じくスローペースで並走していたマコトも、会話に参加してきた。




「ねぇ、ユウト。なんで、回避スキルを使わなかったの?使ってれば、全勝だって出来たんじゃ……」



「ん〜。昨日、師匠に言われてハッとしたんだ。確かに、俺は回避スキルに頼りすぎてたなって。このままだと、本来あるはずの危険察知能力とか低くなりそうな気がしてさ」



「じゃあ……わざと、使わなかったの?」



「ああ。普段は極力、使わないようにした。そっちのが、最終的に成長できると思うんだ」




 今まで【回避】は自動パッシブで発動するようになっていたが、試してみたところ、任意でオンとオフを入れ替えられることが判明した。

 なので、【近接戦闘(格闘)】と同じく、平常時では封印していくことにしたのだ。いずれ先の未来、ユニークを使えなくしてくるような敵が現れたとしても、最低限の戦力は保持しておきたいからな。


 と、いうか。逆に、俺も気になっていた。




「マコトこそだろ。シュミレータとはいえ、昨日は骸骨兵を何体か華麗に倒してたのに、今日は調子が悪かったのか?」



「うぅ……実は、僕ね。対人戦が苦手で。いつも、実力の半分も出せなくなっちゃうんだ」



「対人戦が苦手?」




 そこで、黙って話を聞いていた三浦が再び口を挟んできた。まだ一周目なので、余裕がある。




「上泉は、見るからに闘争本能が低そうだからな。相手を傷つけてしまったらどうしよう?とか、勝ってしまって怒らせたらどうしよう?とか……いらん心配が邪魔をして、集中できないんじゃないか」



「す、すごい!三浦くんの言う通りなんだ。クリーチャー相手だったら、そんなこと考えないでも、何とか戦えるんだけどさ……」




 なるほど、少し気持ちが分かるかもしれない。

 俺も前世では、そんな感じだった。今は、それなりに強くなったせいか感じなくなったけど。

 もしかしたら、マコトも自分の実力に自信がつけば、多少は改善できたりするのだろうか?




「ちなみになんだが、なぜ俺には誰も負けた理由を聞いてこない?」



「え、いや……三浦の場合は、想定内だから」



「おい。お前は、そんな俺にすら負けてるんだからな?」





 そうなのだ。接戦という名の泥試合どろじあいを制されて、俺はクラスで唯一の全敗となる。


 覚悟はしていたものの、ユニークを使わない自分が、これほどまでに弱いとは。結構、いや、かなりのショックな事実だった。








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