七星剣術・7

「今日のところは、これで解散とする!明日から、本格的な稽古に入る。場所は、ここ。来れば、いつでも教えてやるが、出欠は自由だ。それが、冒険者養成校ゲーティアのルールだからな」



「「はい!!」」



 午後のカリキュラムは、生徒に一任される……だっけか。色々な講師を見て回りたい気持ちもあるが、しばらくは七星剣術を集中的に頑張ろう。俺も、そんなに器用な方ではないからな。



「お前らは、今日から同じ門下生だ。マコトは、ユウトに基礎的な剣術のイロハを教えておけ。さすがに、最低限のものぐらい身につけといてもらわねぇと、俺が教えるのに困るからな」



「は、はいっ!わかりました!!」




 良い返事!頼りにしてるぜ、マコト先生!!


 あ……いや、俺も頑張らないとだな。とりあえず、剣術家の動画を見漁みあさって、例の如く見稽古みげいこといこう。とりあえず、知識さえ頭に叩き込めば、rank相応の動きが出来るようになるはずだ。



 こうして、俺たちは七星剣術・北斗ユウセイ師匠の門下に入ることが決定した。話してみると、厳しくも優しそうな人で、ひとまずは安心した。




「さて、寮に帰るかぁ」



「ちょい、待ち」



 伸びをして、いざ帰宅!という気持ちにストップを掛けてきたのは、さっき出来たばかりの姉弟子だった。



「はい!?なんでしょう?」



「キミは、これから灰猫亭でバイト研修だから。帰らせないよん」



「は?いや、まだ受けるって言ってませんけど!?あの話!」



「いやいやいや。弟弟子おとうとでしとなってしまった以上、姉弟子あねでしの言うことは絶対!なんでね」




 王様ゲームみたいなノリで言うなし!!


 くっそー。まさか、こんなところに要注意人物がいたとはな。優しい先輩だと、思ってたのに!




「あ、あの……僕も、行った方がよろしいでしょうか?」



 おずおずと聞いてくるマコトに、姐さんは優しい笑顔で答えた。なんか、俺と態度が違うような気がする。




「マコトくんも、誘いたいところなんだけど……残念ながら、そこまで人を雇えるほどもうかってなくてさー。あの店。とりあえず、料理スキル持ってるユウトくんだけで、いいかな。ごめんね〜、働きたかった?」



「あぁ、いえ!大丈夫です、大丈夫です!!」



「ふふん。もし、ウチの店が繁盛して、接客が回らなくなってきたら、マコトくんにもお願いしようと思ってるから!そのつもりで」



「せ、接客……ですか。了解しましたっ」




 めちゃくちゃ、苦手そうだけど。接客とか……マコト、大丈夫か?ま、それ以前に、あの店が繁盛することは無さそうだし平気か。絶対に、口には出せないけど。



「んじゃ、行こっか!ユウトくん。マユには、もう話はつけてあるからさっ」



「マジっすか!?仕事、早いですねぇ……」




 こりゃもう、覚悟を決めるしかなさそうだな。

 どのみち、働こうか悩んでたぐらいだし、まぁいいか。ただ、学園生活初日からハードすぎるだろ。




「えっと……じゃあ、先に帰ってるね!ユウト!!」



「おう!お疲れさまー!!」




 安東イブキに強引に手を引っ張られ、灰猫亭へと連行されていくユウトを、しばらく手を振って見送るマコト。


 すると、沈黙を貫いていたインテリジェンス・ソードが人の気配が無くなったのを感知して、言葉を発した。




『早々に、良き友と巡り会えたようじゃの。マコト』



「うん!ユウトみたいな人がルームメイトで、本当に良かったよ。僕……何とか、やってけそうな気がしてきた!!三年間」



『そうか。それは、何よりじゃ。じゃが、剣の腕を磨くという大事な目的も、忘れてはならんぞ?』



「分かってるってば。“新陰流”は、基礎の技しか修得することは出来なかったけど……今度こそは、必ず!」




 こうして、剣聖の娘・上泉マコトは改めて強くなる意志を固めて、足取り軽く寮へと帰っていった。



 そして、冒険王の息子・植村ユウトは晴れて『灰猫亭』の調理補助としてデビューを果たした。

 現段階では、剣よりも包丁の扱いが上手かったことは、ここだけの話としておこう。



 かくして、彼の長い長い学園生活のデビュー日は終わりを告げたのだった。



 実力テストまで……あと6日。

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