七星剣術・6

 ズドドッ



 姐さんの放った斬撃が、緑の衝撃波を発生させると、彼女の前方にいた骸骨スケルトンたちが一斉に吹き飛ばされる。


 すかさず、師匠から技の解説が入った。



「今のが、七星剣術・貪狼ドゥーべ。基本型の一つで、前方に気の衝撃波を放つ中距離技だ。目の前に敵が押し寄せてくる状況や、周囲を取り囲まれた時などの包囲網突破に、使える」




 何体か倒されても、すぐに地面から新たな骸骨兵が蘇ってくる。そういう設定にしてあるのかもしれない。そして、再び全方位を取り囲まれる姐さん。




「七星剣術・二つ星…… 巨門メラク !」



 ドンッ!!



 今度は、彼女が“気”を溜めた剣を、足元の地面に突き刺すと今度は、その突き刺された刃を中心に、円状に衝撃波が拡散され、近くにいた骸骨スケルトンを薙ぎ倒していく。




「七星剣術・巨門メラク 。今度は衝撃波を地中に送って分散させ、近くにいる周囲の敵を一掃する技だ。今ので勘付いたかもしれないが、七星剣術は基本的には“受け”の技が主体となっている」



「“受け”の技……ですか」



「そう。敵の群れに詰めてこられたり、包囲された時に活路を見出す為に使う。そういう意味じゃ、集団戦に特化した技とも言えるな」




 集団戦に特化した“受け”の技か……まさに、俺が求めていた剣術の形だ。ここに来たのは、正解だったかもしれない。




「じゃあ、自分から攻めていくような技は無いんですか?」



「七星剣術は、その名の通り“七つの型”があるが、基本的には“自己防衛型”の技種が多い。ただし、その技を連携させることによって、攻めの技に転じさせたり、大型クリーチャーへのフィニッシュ技にも持っていくことは可能だ。使い手の技量次第だがな」




 ARアプリを終了させて、演舞を終えた姐さんが戻ってくる。




「いわゆる、格ゲーでいう“コンボ”ってやつだね。さっきの貪狼ドゥーべ巨門メラクだって、連携に組み込めば立派なコンボ技になる」



「なるほど!分かりやすいです、その例え」



「私が二刀流にしたのも、連携を強めるため。それだけ、手数が増えるってことだからさ」




 ちゃんと、意味があったんだ。かっこいいから使ってる感じなのかと思った。


 しかし、会話を聞いてた師匠が釘を刺してくる。




「イブキを参考にするのは、やめとけ。二刀流で七星剣術を使いこなすなんて芸当、コイツぐらいしか出来ねぇからな」



「そうですかね。意外と、簡単だと思いますけど……ってか、二人にもやってもらいます?さっきの、トレーニングアプリ」



「ああ、そうだな……今度は基礎の剣技が、どの程度のもんか。見せてもらうとするか」



「りょーかい。んじゃ、二人とも!武器、構えてー……さっきのアプリ、起動させるから」




 姐さんに手招きされて、慌てて互いに武器を持って駆け寄っていく。参ったな、ちゃんと剣術なんて習ったことないぞ?一応、【刀剣】rank90はキープされたままではあるけど……。




「二人で、共闘してOKだ!持ってる技を使って、お前らの今の実力を見せてみろ!!」




 師匠の言葉に、俺たちは覚悟を決めて、それぞれ木刀を構えると、背中合わせに骸骨兵スケルトンたちと対峙した。




「やられても、ダメージは負わないから気楽きらくにやんな〜。それじゃ、ポチっとな」




 俺たちへのエールと共に「START」を押し、擬似クリーチャーたちを戦闘モードへと移行させる姐さん。




「来るぞ!マコト!!」



「うん!」




 繰り出される骸骨兵の攻撃を、全て返しの一太刀で斬り伏せていくのは上泉マコトであった。一匹、一匹を確実に仕留めている。


 その様子を見て、すぐに北斗ユウセイは流派を見破った。




「ほう。“新陰流しんかげりゅう”の十文字か」



「十文字?」



「十文字勝ちと言われてる、“新陰流”の基礎だ。相手の拳の動きを察知して、敵の斬撃より速く、こちらが先に最短の軌道を持って刀を打ち込む。刀剣版のクロスカウンターみたいなもんだ。だから、“十文字勝ち”」




 師範の言う通り、敵の最短の軌道に合わせる『合撃がっし』と、それ以外の軌道に合わせる『十文字』。この二つだけが“新陰流”を学んで、彼が修得することのできた技だった。



 ザンッ




(上泉マコトか。相当、良い“眼”を持ってやがるな。敵のを瞬時に捉えて、反応している。だが……)




「きゃああっ!!」




 敵の圧力が増し、一斉に攻めてこられると、単純に反撃が間に合わなくなり、なくなくマコトは骸骨軍団に取り囲まれて、ゲームオーバーとなってしまった。


 すかさず、姐さんが声をかける。




「あー、惜しい!おつかれー」



(伝統剣術は、基本的に一対一を想定したものが多い。集団相手の練度も低いのだろう……まぁ、仕方がない。逆に言えば、この剣術向きとも言える)



「あと、一人だよ〜!ふぁいとー!!」




 応援してもらえるのは、ありがたいけど、それに応える余裕は無い。マコトも、やられちゃったのか……そりゃそうだ。なんせ、数が多すぎる!


 これを一人でさばいていた姐さんの凄さを、改めて実感した。




「ぐぬっ!」



 マコトのように華麗ではなかったが、泥臭く一体ずつ、囲まれないように立ち回りながら、強引な太刀筋たちすじで敵を仕留めていく植村ユウト。




「これは……」



「どうっすか?ししょー。あの子の方は」



「驚くほどに、素人だ……デタラメすぎる。時代劇の殺陣たてでも、もちっとマシに動くぜ」



「アハハッ!めっちゃ、言うじゃん。でも、しのいでますよ?」



「回避性能が、常軌を逸してる。おそらく、アレが奴のユニークなんだろうよ。全ての攻撃をかわして打ち込んでるから、無茶苦茶でもカウンターとして成立しちまってるんだ」




 そんな天衣無縫の型を見せる植村ユウトは、何とか最後の一匹を打ち倒すことに成功した。




「あぶねー。はぁ……はぁ……」



「よーし、よくやった。お前らの実力は、大体は把握した!」




 あからさまに落ち込んだ様子のマコトを見て、師匠は頭を掻きながら、話を続けた。




「先にリタイアしちまったが、剣才が見られたのはマコトの方だ。相当な修練が、見られた……良い剣だったぜ」



「え……あ、ありがとうございます!」




 マコトが褒められて、良かったけど……恐る恐る、俺は自分の評価を聞いてみた。




「あの〜……俺は?」



「0点!自分テメーのユニークに頼りすぎだ!!」



「がーん」







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