七星剣術・5

「もう、いい。せっかくだ、こいつらに基本技を使って見せてやってくれ」



「別にいいっすけど。と、いうことは……二人とも、合格したんだ!?入門テスト」



「ああ、まあ。一応な」




 その言葉を聞いて、嬉しそうに二人のもとへと駆け寄っていくイブキ。よほど、待望の弟弟子おとうとでしだったらしい。




「二人とも〜!合格したんだって?おめでとー!お姉さんは、嬉しいよ。うんうん」



「安東先輩、ありがとうございます。これから、よろしくお願いします!」



「ちっちっち。この瞬間から、私はキミたちの姉弟子あねでしだ。敬意を込めて、“あねさん”と呼びなさい。いいかね?」



「えっ?はぁ……分かりました。姐さん」




 俺が答えると、マコトにも耳を傾けて、半ば強引に「姐さん……」という言葉を引き出すと、満足そうに何回かうなずいてみせる安東先輩。


 任侠映画が好き……とか、なのか?まぁ、いいけど。




「んじゃ、今から七星剣術の基本型を二つ、お手本として見せてあげるから。とくと、ご覧あれ?弟くんたち」



「は、はい!いきなりですか!?」




 すると、やれやれとばかりに師匠が俺らの横にスッと戻ってくる。




「見て真似るのが、一番の勉強になるからな。しっかり、観察しておくといい」



「素振りとか、打ち込みとか……そういう稽古から、始まるのかと思ってました」



「そんなんは、自主練でも何でも勝手にやってくれ。言ったろ?こっちは、三年間の期限付きで教えてんだ。俺にしか教えられないことしか、教える気は無い」



「な、なるほど」




 ある意味、効率的というか。さすがは現代剣術の師範だ。伝統ある剣術家の人たちからはクレームが入りそうな教育法だけども。




「かといって……基礎鍛錬が、無駄だとは思わねぇ。やっておいて、損は無いはずだ。そこらへんは、個人の意思に任せるぜ」



「はい!了解しました」




 その間に、何やらアプリを起動させていた姐さん。突然、彼女の周囲に骸骨スケルトン兵士軍団クリーチャーが出現する。




「きゃっ!?く、クリーチャー!?な、なんで……」




 急に、女の子のような悲鳴を上げるマコトの方に、びっくりしつつも、俺にはが偽物だと、何となく理解していた。


 すぐに、姐さんからフォローの言葉が入る。




「あ、ごめん。驚かせちゃった?これはAR……拡張現実だよ。つまり、立体映像ホログラム



「拡張現実……何かのアプリなんですか?」



「そう!大手のゲーム会社が開発した、冒険者用のトレーニングアプリ。これがあれば、一人でも実戦練習がいつでも可能ってわけ。便利っしょ?」




 いかにも、そういうことにうとそうなマコトは純粋に感心しているようだった。


 まさか、俺が自己暗示で生み出していた幻影のようなものが、アプリでも実装されていたとは。性能を比べたいし、あとで教えてもらおうっと。




「イブキ。準備が出来たなら、とっとと始めてくれ」



「はいはい。今、始めますよ……っと」




 姐さんが、自分のウィンドウから「START」のテキストを指で押すと、周りで停止していた骸骨スケルトンたちが一斉に攻撃態勢に入った。


 それと同時に、彼女が背中に担いでいた二本の剣を引き抜くと、まるでダンスを踊るかのように、襲ってきた敵たちを一撃で斬り伏せていく。




「す、凄い!しかも、二刀流……!?」




 しかし、そんな絶好調の姐さんに師匠が物申した。




「おい、二刀流は禁止だ!コイツらの、参考にならねぇ!!」



「あぁ、そっか。りょーかいで〜す」




 戦闘中に、片方の剣を鞘にしまい、それでも無双し続ける姐さん。とても、あの時のメイドさんと同一人物とは思えない。




「しっかし、ド派手な戦い方だなぁ……まるで、アクションゲームの主人公だ」



「よく、分かったな。アイツのユニークスキルは、その名の通り【ゲーマー】だ」



「えっ!そんな簡単に、バラしちゃっていいんですか?」



「本人から、許可は貰ってる。知ったところで、どうこうできるスキルじゃねーからな」




 本当に、世の中には色々なユニークスキル持ちがいるものだ。人のこと、言えないけど。




「ちなみに、どんなスキルなんです?」



「特定した一つのゲームで獲得したアバターの能力を、現実世界リアルでの自分に反映するスキル……それが、【ゲーマー】だ。ちなみにアイツは、とあるVRMMOゲームの世界ランカーだったらしい」



「つまり、その世界で得た技術を、そのまま受け継いでる……って、ことですか!?」



「そうだ。あくまで、実際の人間が再現できる範囲の動きに限られるらしいが、それでもアレだ。無駄の多い魅せプレイ的な動きだが、恐ろしいまでの反応と身体操作。むしろ、それをトリッキーな攻撃にまで昇華させてやがる」




 家で、そのゲームをやり込めばやり込むほど、現実の本人も強くなるのか……究極のインドア修行法だな。しかも、世界ランカーって凄すぎるだろ。




「おい、イブキ!余興は、そのへんにしとけ!!」



「おっと、そうだった。んじゃ、いきますか!」




 姐さんは、剣を上段に構えると、その刃が緑色に変化していく。あれが、彼女の“チャクラ”なのだろうか?

 そして、安東イブキは技名を口にする。




「七星剣術・一つ星…… 貪狼ドゥーべ!!」



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