七星剣術・4

「あの……どうでしょうか!?僕の剣は、“気”を通すことが出来ますか?」



「ふむ。お前、この剣とは普段からコミュニケーションが取れているのか?」



「えっ、まぁ……はい。普通に会話するぐらいなら、いつもしてますけど」




 そんなに喋るものなの!?もはや、人間と同じような存在だな。そこまでくると。




「なら、大丈夫だ。剣と絆が深ければ深いほど、おそらく“気”は増幅されるだろうからな」



「ほ、本当ですか!?」



「本当だ。ただし、逆に信頼関係を損ねることがあれば、全く通らなくもなる。せいぜい、嫌われないように扱ってやることだ」



「は……はい!それは、もちろん」



 慣れた手つきで再び刀袋の紐を締めて、マコトに妖刀を返却する師匠。今度は、俺に目配せをしてきた。お前の得物を出してみろ、ということだろう。


 意を決して、先ほど入手したばかりの秘宝アーティファクトを手渡してみることにする。




「これは……妖刀の次は、無刃剣むじんけんかよ。見習いに渡すような代物じゃねえだろ、どいつもこいつも。まったく」



「あの!それ、さっき手に入れたばかりなんですけど。一向に、刃が出せなくって」



「ふーむ。難度で言えば、木刀に“気”を通す方が高いはずだ。さっきの要領でやりゃ、出来るはずだがなぁ」



「おおっ、本当ですか!?後でまた、チャレンジしてみます!」




 やっぱり、“気”を通すってことと、刃を創り出すってことは、似たようなものなんだな。



「ただ一点、“気”を具現化する前に、注意事項がある。コイツは、ダイレクトに“気”の性質を“刃”に変えてしまう。つまり、使い手の感情が反映されやすくなっているわけだな」



「えっと、それは……さっき言ってた“動”とか“静”みたいな話でしょうか?」



「似てるが、違う。要するに、敵に対して“殺意”を向けるか、“慈悲”の心を向けるかで、出来上がる刃の性質が変わってくるんだよ」



「“殺意”と、“慈悲”……ですか?」




 さすがに、相手に対して“殺意”まで抱いたことは無いかもな。ダンジョンに出てくるクリーチャー相手だったら、感じることもあるかもしれないけど。




「“殺意”を込めれば、全ての物を断ち切ってしまうような殺人剣に。“慈悲”を込めれば、相手をむしばむ呪いや邪心のみを斬り裂く活人剣となる……って、わけよ」



「なるほど。相手によって、使い分ける必要がある、と」



「そうだ。ダンジョン内での戦闘ならば、殺人剣は非常に有効的だろう。ただし、現実世界リアルで使ってしまえば、その名の通り、ただの人殺しになっちまう。特に、対人で使う時には気をつけることだ。日頃から殺意はコントロールできるように、修練を重ねておけ」



「りょ、了解です。きもめいじておきます!」




 やっぱり、色々と扱うには難しい剣だったようだ。だけど、自主練には慣れている方だと思う。これからのメニューには、光剣クラウ・ソラスの操作も加えていこう。


 すると、このタイミングで可愛らしい女性の声が響き渡った。




「おー、キミたち!ホントに、来てくれてたんだ。感心、感心」




 声の方に振り向くと、そこにいたのは俺たちを此処ここへ呼び込んだ張本人・安東イブキ先輩だった。灰猫亭でのメイド服の印象が強すぎて、制服姿の彼女を見ると、謎にドキッとしてしまう。首にヘッドホンを掛けてるのはトレードマークのようで、変わってない。




「おい、イブキ。ちょっと、来い」




 明らかに不満そうに、イブキ先輩を俺たちから離れた場所に連行していく師匠。そういえば、チラシ勧誘のこと、あまり良く思ってなさそうだったもんな。合格取り消しみたいなことに、発展しなきゃいいけど。




「何です?わざわざ」



「何です?じゃ、ねーよ!大体、分かんだろ。あれほど、門下生の勧誘はやめろって言ったよな!?いらん心配は、しなくていい!!」



「はぁ?ししょーの為になんか、やるわけないでしょ。私の為です、私の為!」



「お前の為だとぉ?どういうことだよ!?そんなに、弟弟子おとうとでしが欲しかったのか」



「当たり前でしょ!いつもいつも、オッサンと私のマンツーマンで、島外れで稽古してて……陰で、変な噂が立てられてんの知ってます?まぁ、言ってた奴らはボコボコにしてやりましたけど」




 ボコボコには、しとるんかい。


【読唇術】スキルをrank100で代替だいたいして、二人の会話を盗み見ながら、思わず心の中でツッコミを入れてしまう。




「変な噂って……マジかよ。言われてみりゃ、そうだわな。オッサンが女子高生を捕まえて、マンツーマンで剣のレッスンなんて、犯罪臭がプンプンしとるもんな」



「おわかりいただいたようで、何よりです。だから、早く弟弟子おとうとでしが欲しかったんですけど!文句あります?」



「いっ……いいえ、こざいません!ハイ。ちなみに、を勧誘したのは、知っててのことか?」



「はい!?何を、知ってるんです?」



「……そういや、冒険者のクセに、界隈かいわいの情報には興味が無いんだったか、コイツ。だとしたら、偶然で釣り上げたってことかよ」



「???」




 そう。安東イブキは、彼らがどちらとも有名人の子供だということは、まだ知らなかった。ただ店に来たから、チラシをあげただけなのであったのだ。




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