七星剣術・3

「雑念を振り払い……剣と一つに……」



 植村の呼びかけによって、父の言葉を思い出した上泉マコトが、完全に己の木刀に意識を集中させると、徐々に青い色へと変色していく。



「よっしゃ!先生、あれって……」



 興奮する植村の言葉に、師範も驚きの感情を必死に隠しながら、指示を飛ばした。



「さっきと、同じだ!岩壁を、斬ってみろ!!」



 コクリと静かに首を縦に振ると、スッと岩壁の前に立ち、彼は青く光る木刀を打ち下ろす。


 その一閃は、音もなく壁に鋭い刀痕とうこんを刻んだ。先程の植村が放った一撃はパワーで壁をえぐり取るようなものだったが、彼が放ったのは、まるで彫刻刀で模様を描いたかのようにスパッと綺麗な切り口を残している。



「凄い……俺の時と、全く違う」



 感心する植村ユウトに対して、師範が簡単な説明を口にした。



「優劣は、無い。暖色系に変化したのは“動”のチャクラ、寒色系に変化したのは“静”のチャクラ……性質が、異なるだけだ。大きな威力を叩き出せるのは“動”タイプだが、繊細な精密攻撃が可能なのは“静”タイプみたいに、な」



「へぇ〜……あ!それで、俺たちは合格で良いんですよね!?二人とも」



「ん?あ、ああ……仕方ねえ。そういう約束だからな」




 合格を言い渡された植村は、すぐに友人のもとへと走り出す。




「マコト!俺たち、合格だってよ!!良かったなぁ」



「本当!?良かった……植村くんのおかげだよ。急に、名前で呼ばれた時は驚いたけど」



「あ、ああ!ごめん、つい……全然、俺の言葉が耳に届いてないぐらいに緊張してそうだったから、名前で呼んだら反応してくれるかと思って」



「確かに、あの言葉でリラックスできた……お父さんに、声をかけられたみたいで」




 最後の方が、小声になっていった為に聞き取れなかった植村は、もう一度、彼に聞き直す。




「ん、何だって?」



「ああ、いや!何でもないよ!!せっかくだから、これからも“マコト”でいいよ。植村くんが、イヤじゃなければ……だけど」



「おお!じゃあ、そっちも“植村くん”はナシだろ?“ユウト”で、対等だ」



「あ……うん!ユウト!!」




 親交を深めた二人のもとへ、頭をポリポリと掻きながら師範が近付いてくる。




「んじゃ、正式に自己紹介でもしとくか。俺が、七星剣術の創始者で、師範の北斗ユウセイだ」



「創始者!?師匠が、発明したんですか!?この剣術は」



「そうだ。ダンジョンでの戦闘を想定して考案した冒険者専用の剣術。歴史は浅いが、実用性は折り紙付きだ」




 ダンジョン攻略特化の剣術か……まさに、俺が欲していたような剣術だ。期待が、膨らんできたぞ。




「ぼ、僕は上泉マコトと申します!よろしくお願いします!!」




 深々と頭を下げ、礼を重んじるマコトにならって、俺も自己紹介をする。




「植村ユウトです!よろしくお願いします!!」



「おう、よろしく頼む」




 その二人の名前を聞いて、北斗ユウセイは心の中で、すぐにピンときた。




(“植村”と“上泉”……なるほど、そういうことか。そりゃあ、成功するわけだぜ。イブキの奴め、知っててスカウトしやがったのか?)




「あの……師匠?どうか、しましたか!?」



「何でもねえ。ところで、お前ら“得物えもの”はあるか?」



「え、獲物えもの?ウサギとか、シカ……的な?」



肉食獣そっちの獲物じゃねえ!自分専用の武器はあるかって、聞いてんだ。中には、“気”を通しずらいモンもあるからな。先に、確かめておく必要があるんだよ」




 ああ、そういうことか。専用の武器といえば、さっきの光剣クラウ・ソラスになるのだろうけど、いまだに刃が出せてないんだよな。

 さっきの要領でやれば、今なら出せるのだろうか?


 すると、小屋の中に置いてあった自身の武器を手にして、マコトが戻ってきた。




「あの……一応、僕の武器はコレになります、けど」




 なぜか、師匠に渡すのを躊躇ためらっている様子の彼。何か、渡したくない理由でもあるのかもしれない。




「安心しろ。こう見えて、俺だって剣士の端くれだ。人様の武器を、ぞんざいに扱ったりなんかしねぇよ」




 その言葉と彼の真剣な表情に、信じる気持ちになったのか、マコトは自らの愛刀を手渡した。


 師匠が刀袋の紐をシュルッと解くと、中からは紫色のつかが表れる。




「妖刀……しかも、インテリジェンス・ソードかよ。レベル3〜4クラスの業物だな。良い刀だ」




 つかの部分を見ただけで、そこまで瞬時に分かるものなのか!?剣に対する【鑑定】スキルも、相当に高そうだ。




「す、すごい!当たってます!!お父さんの形見なんです」



「……そうか。さぞ、名高い冒険者だったんだろうな」




 その前に、気になるワードがあったな。聞いてみて、大丈夫だろうか?




「あの〜……ところで、インテリジェンス・ソードとは、何でしょう?」



「知性を持つ剣や刀のことだ。持ち主や、自分が認めた相手には人語じんごも話すといわれている。今は、大人しくしてるようだがな」




 喋る剣って、こと!?もしかして、マコトの部屋から、よく聞こえてくる話し声って、誰かとの通話じゃなくて、このインテリジェンス・ソードと会話してたっていうことなのか?

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