七星剣術・1

「ここだよな……?」



「う、うん。地図によれば」



 そのままの流れで、俺と上泉くんは予定通り、安東先輩から貰ったチラシを頼りに、七星剣術の師範・北斗ユウセイのもとを訪れていた。


 東の海側の浜辺にポツンと建てられたさびれた小屋は、一種の不気味さすら感じる。しかし、チラシに記されていた地図によれば、ここで間違いなさそうだ。



「上泉くん……ノックしてみて?」



「えっ、やだよ!植村くん、やってよ〜」



「これぐらいのことでビビッてちゃ、一流の冒険者にはなれないぜ?ボーイ」



「そんなこと言って……植村くんも、怖いんでしょ?」



 バレたか。剣術の師範なんて肩書きからして怖そうなのに、こんな町外れの小屋に住んでるなんて、絶対にクセのある人物だもんなぁ……きっと。



「おい。ひとの家の前で、何を騒いでやがる」



「「ぎゃあああああ!!!」」



 いきなり、背後からドスの効いた低音ボイスが響き、まるでお化け屋敷の客が如く、俺と上泉くんは思わず抱き合って悲鳴を上げた。



「俺は、お化けじゃねえぞ?まったく。お前ら、もしかして新入生……入門希望者か!?」



 一見、中東系の人かと間違えてしまうほど濃いめの顔に無精髭ぶしょうひげ、そして2メートル近くある身長の、スラリとしたモデル体型の中年男性……この人が、“北斗ユウセイ”なのだろうか?



「そ、そうです!この、チラシを見て!!」



 俺は慌てて、安東先輩から貰ったチラシを見せた。すると、彼はその紙を乱暴に奪い取って。



「この字体……イブキから、受け取ったのか?」



「は、はい。そうです!灰猫亭で」



「あの野郎、余計なことを……まあ、いい。とりあえず、中に入れ」



 そう言って、彼は鍵を使って古びた扉を開ける。やはり、ここは指紋認証キーなどでは無いようだ。



 一緒に中に入ると、そこは必要最低限のものしか置いておらず、何本かの木刀が立てかけてあるのが印象的な部屋だった。

「座れ」と指示されて俺たちが従うと、先生は持っていた釣竿と魚の入ったバケツを置いた。まさか、ここで自給自足の生活をしているのか?



「初めに、断っておく。俺は、歴史に名を残したような冒険者でもなければ、五大ギルドのような大手に所属していた経験も無い。そこそこの中堅ギルドで、そこそこの成果を挙げてきた一介の剣士に過ぎん。幸いにも、ここにゃレジェンド級の講師陣が他にもワンサカいやがる。それでも、俺に師事したいと思うか?」



 急な問いかけに、俺らは顔を見合わせて困惑するも、素直な気持ちで返答した。



「先生の過去は、関係ありません。ただ、七星剣術というものが、学びたいと思えるものかどうか……そっちの方に、重きを置いています。自分は」



「はっはっは!見習い風情ふぜいが、言うじゃねえか。だが、言ってることは正しい」



 危ない、危ない。逆鱗げきりんに触れてたら、どうしようかと思ってた。今日は、やたらと人を怒らせているからな。



「だが、こっちにも弟子を選ぶ権利ってモンがある。お前らが、七星剣術を教えるにあたいする器かどうか、今からテストをしてやろう」



 その言葉を聞いて、あからさまに上泉くんが不安げな表情に変わる。この人も、素質があるかどうかで弟子を選ぶような師範なのか……。




「それは、優秀な弟子しか育てたくない……と。そういうことでしょうか?」



「そんなんじゃねえ。このテストを通過できないようじゃ、とてもじゃねえが三年間ぽっちで七星剣術はマスターできねーからだ。お前らも、三年間を棒に振りたかないだろ?」



「えっ!?この学園生活の間に、マスターできてしまうような剣術なんですか?」



「できてしまうっつーか、。卒業してからも、面倒みたくねぇし。だからこそ、この剣術に向いてるかどうかを確かめる必要がある」




 そう言って、彼は壁に立て掛けていた木刀を二本、俺と上泉くん、それぞれの前に置いて話を続けた。




「今から、この木刀に“気”を込めてもらう。出来なけりゃ、テストは失格。悪いが、弟子には取れねえ」




 気!?また、それか。つい、さっき光剣クラウ・ソラスの刃が出せなくて、苦労していたばっかりだというのに。


 さすがに、上泉くんも気になったのか質問を返す。




「“気”って、言われましても……具体的には、どうしたらいいんでしょうか?やり方が、分かりません」



「簡単だ。ふんっと気合を込めりゃ、通る。成功したら、何かしらに変色するはずだから、すぐに分かるぜ」




 いやいや!説明、雑かよ!!さっき、気合を込めまくって、結局は何も起きなかったんですけど!?


 一向に理解を示さない俺たちに、もう一言、先生が付け加えてくれた。




「理論的に言っちまえば、刀剣スキルがrank80以上。もしくは、それに相当するユニークを持ってりゃ、コツさえ掴めば必ず出来ると言われてる」




 おいおい、それって……かなり、高いハードルだろ。俺はどうにかなるとしても、上泉くんは大丈夫なのか?




「とりあえず、外に出よう。テストは、どっちからやる?」



「え……あ、はい!じゃあ、俺からやります!!」



 ここは成功例を見せて、何とか上泉くんにコツを掴んで欲しい。まず、自分が成功できるかどうかすら不安ではあるけども。









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