上泉マコト・2

「この野郎、それなら……でも、避けられるか?」



 相手のリーダー格と思われる男は、背中に携えていた刀を抜き取り、構えた。

 いやいや、冗談だろ?真剣だぞ。


 さすがに、まずいと思ったのか手下の一人が止めに入ろうとするが……。



「アニキ!それは、いくらなんでも……」



「うるせぇ!ちゃんと、峰で打つ。殺しゃしねえよ」



 この人、剣術とか以前に、武士道精神ってやつを最初から学んだ方が良いんじゃないのか?まったく。



「むやみやたらに、剣は抜かない方が良いと思うよ?うん。剣の道は、よく分からないけどさ」



「わからねーなら、口出ししてくるんじゃねえ!この、素人が!!」



 ブン!ブン!!



 それでも、彼の剣撃を全て回避していく俺。彼の技能は【鑑定】してないが、そこそこ腕が立つと思われる。明らかに、さっきの素手よりは攻撃がキレている。


 ただし、頭に血がのぼってるせいか、一振り一振りは単調で避けやすかった。平常時なら、おそらく今よりは鋭かったはずだろう。




「多分……一生、当てられないと思うんで。このへんで、やめときません?時間と体力の無駄ですよ」



「う、植村くん。その言葉、火に油を注いじゃってると思う……!」



「ふぇ?」




 上泉くんに指摘された通り、目の前の彼は鬼の形相に変わっていた。穏便になだめたつもりが、ナチュラルに相手の逆鱗に触れてしまっていたらしい。やられたフリでも、するべきだったか?




「はぁ、はぁ……こうなりゃ、当たるまでやってやる……どうせ、テメーは避けることしか能がねぇ、ユニークなんだろうからな」




 さっきの山田くんといい、どうも今日はツイてない。まぁ、これに関しては自分から飛び込んでいった災いなのだけれど。




「はーい!ストップ、ストップ〜!!」



 突然、上から聞こえた言葉に、その場にいた全員が声の方に顔を向けると、校舎の窓からビデオカメラを、こちらに向けた三浦の姿があった。




「お前……何を、やってる!?」



「見て分からんのか?撮影してるんだよ、校内暴力の様子をな」




決闘デュエル”でもないのに、真剣を振り回していた彼の顔は一気に青ざめていく。さすがに、この映像を切り抜かれたら、言い逃れは出来ないだろう。




「その映像……どうするつもりだ?」



「んー、そうだな。学園長に渡して万が一、揉み消されてもしゃくに触るし、このままSNSに拡散させてやろうか」



「なっ!?」



「ただし。今後一切、に関わらないと誓うなら、このデータは流出させないでやってもいいが」



「ぐっ……お前!」



「まぁ、ここで冒険者としての夢を諦めても構わんと言うなら、好きにすればいい。ただ……あれだけ、本気で真剣を振り回してたんだ。退学はまぬがれないとして、それ以上の罰も有り得るかもなぁ?」




 怒りに肩を震わせるリーダーを、子分が必死に説得にかかる。彼らとしても、ここで同罪に問われたくはないのだろう。


 それにしても、月森さんが“光”だとしたら、三浦は見事なまでの“闇”の交渉術で、場を治めてしまった。ある意味では一番、敵に回したくないタイプかもしれない。




「くそっ!覚えてやがれ!!」




 ザ・悪人の捨て台詞ぜりふを残して、彼らは渋々と去って行ってしまった。それを、見送りながら三浦は不満そうに呟く。




「ちっ!関わらないと誓えと言ったのに、人の話を聞いてなかったのか?ホントに、ばら撒いてやろうか。この映像」



「やめときなさい。それより、助かったよ。サンキューな」



「今度から人助けをする時は、いくつか作戦プランを立ててからにしとけ。無策で、飛び込みすぎなんだ。お前は」



「うっ……それに関しては、何も言い返せない。肝に銘じておきます」




 二階の窓から身を乗り出している三浦と話していると、上泉くんが申し訳なさそうに歩み寄って来た。




「あの、二人とも……助けてくれて、ありがとうございました!」



「構わないよ、ケガなかった?」



「うん。それは、平気」



「良かった。あいつらは、知り合い?」




 ここで、ようやく俺たちはさっきの連中、「柳生ムネタカ」について、彼から説明を受けた。


 三浦も、二階から降りてきて、俺たちのいた校舎裏に合流する。




「なるほどな。それで、目のかたきにされてたってわけか。気持ちは分からんでもないが、器の小さい奴であることは確かだな」



「まぁ、何にせよ!これで、しばらくは奴らも上泉くんには、手を出してこないだろ」



「もし、また何かされたら、すぐに連絡してこい。俺のフレンド申請を送っておく」



「あっ!じゃあ、ついでに俺のも!!」




 二人で、上泉くんにフレンド申請を送ると、なぜか涙ぐみ始めてしまう彼。




「ど、どうして……赤の他人の僕に、ここまで優しくしてくれるの?」




 俺は、三浦と目を合わせて、ふっと笑うと、その質問に答える。




「赤の他人って、ショックだなぁ。心の友とまで思ってたのが、馬鹿みたいじゃん。もしかして、俺の一方通行だった?」



「えっ、いや!全然!!むしろ、良いの……?僕みたいなのが、友達なんか名乗っちゃっても」



「もちろんだよ。そのついでといっちゃ、何だけど……今度の実力テスト、俺たちと一緒に小隊クランを組まない?」





 こうして、六人目の小隊クランメンバーが加わったのだった。


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