上泉マコト・1

「驚いたぜ。まさか、冒険者養成校ゲーティアに入学していたとはな。おぼっちゃん」



 彼の名は、柳生やぎゅうムネタカ。上泉の父が亡き後、新陰流の道場の跡を継いだ一番弟子の息子に当たる男であった。


“お坊ちゃん”という呼び方に敬意は無く、嘲笑ちょうしょうする意味合いで言っている。




「ひ……久しぶり。みんなも、冒険者を目指してたんだね」




 精一杯、強張こわばった笑顔を見せながら、言葉を返す上泉。とは、ムネタカと後ろにいる三人の男子を含めてのことだ。


 彼らは全て、同じ道場の門下生出身であり、影では上泉に嫌がらせを重ねていた、いわゆる“いじめっ子グループ”という奴らであった。




「当たり前だろ。こんな時代に古臭い剣術を習ってるのも、ダンジョンで一山当ひとやまあてるためだ。だが、お前は確か道場を破門されたはずだよな?




 彼の言葉を聞いて、くすくすと笑う取り巻きたち。彼らは、いわゆる柳生ムネタカの子分的な存在であった。




「う、うん。でも、やっぱり、あきらめきれなくて……お父さんも、冒険者だったから」



「ふん。天国の親父さんも、今頃はなげいてる頃だろうぜ?自分の【剣聖】スキルを、何で才能の無い息子に渡しちまったんだろう……ってな」



「そ、そうかもね……はは」



「けっ、相変わらずイラつく野郎だぜ。言い返すことも、出来ないのかよ!」




 ドンッ!と、上泉の肩を突き飛ばして、校舎裏の壁にぶつけるムネタカ。一番弟子の息子が、その師範の息子に嫉妬心ジェラシーを抱くのは、自然な流れではあった。



「い、痛いよ……」



「わざと、痛がらせてんだよ。馬鹿なのか!?おい、今日から少なくとも三年間は、俺のパシリに決定だからな。また、痛い目に遭いたくないだろ?」



「そ、そんな……」



「何だよ、文句あんのか?」




 凄みを効かせた彼の眼光と、後ろに控えている子分連中の圧に屈して、なくなく上泉が首を縦に振ろうとした、その時だった。



 目標に到着しました。ナビを終了します



「いた!上泉くーん!!」



 呑気な呼び声に、上泉含む全員が声の方に振り向くと、植村ユウトが手を振りながら、こちらへと駆け寄ってくるではないか。


 彼の【ナビゲート】rank100は、捜索対象が人間であっても知り合いであれば、それは効力を発揮する。だからこそ、短時間で上泉が校舎裏ここにいると分かったのだ。



「なんだ、アイツは?お前の、友達か!?」



「ち、違う!ただの、ルームメイトだよ。それだけ!!」




 柳生ムネタカという人物を良く知っていた上泉は、友達と認めてしまえば、彼にも危害が及んでしまうと考えて、心にも無い嘘をついた。




「あの〜……俺、これから彼と約束があるんですけど。話は、終わりました?」



「いや、まだだ。ちなみに、聞くが……お前は、上泉マコトのか?」




 植村が見ると、質問した男の後ろで上泉が必死に首を横に振っている。“否定しろ”というサインなのは、すぐに理解できた。




「うん、友達。なんなら、心の友まである」




 まさかの返答に、困惑する上泉。自分のジェスチャーが伝わらなかったのか?という思いと、素直に嬉しい気持ちとがになって、自然と涙が溢れそうになってしまう。




「ハハッ!お前、空気が読めなさすぎ。さすが、ロークラスは一味違うぜ。なぁ?」




 親分の問いかけに、子分たちも一斉にうなずき笑い出す。一応、ライセンスを取得していた彼らはミドルクラスからのスタートとなっていた。




「はは、ありがとうございます」



「はぁ?褒めてねーし、皮肉も伝わんねぇのかよ。類は友を呼ぶってのは、本当だな。マコトと釣り合うぐらいの馬鹿じゃねーか」



「あの〜。用事が済んでるのなら、上泉くんを借りていきますね?すみません」




 半ば強引に、自分の横を通り過ぎようとする植村に、ついカッとなってしまうムネタカが、彼の背中に肘打ちを叩き込もうとすると……。



 すかっ



 寸前で彼は前に軽くステップして、その一撃を回避した。まるで、背中に目でも付いているかのように。




「ちょっ!急に、何するんですか!?危ないなぁ」



「て、テメー……恥を、かかせやがって。決めたぜ。お前がパシリ第二号に決定だ!三年間、コキ使いまくってやるよ!!」



「背後から不意打ちしてきた上に、避けられておいて、よくそんな大口を叩けますよね……うらやましいほどの自信家だ、うん」



「こ……殺す!お前ら、やっちまうぞ!!」




 事を荒立てることはしたくなかったが、さすがに植村も怒りを抑えていたのか、つい言葉に怒りがこもってしまう。こういうところは、まだまだ彼も精神的には幼いといえるのかもしれない。



 ムネタカの合図を皮切りに、一斉に飛びかかってくる敵軍団の攻撃を、囲まれないように位置取りを変えながら、全てけていく植村ユウト。




「あ、当たらねえ!なんだ、コイツ!?」



「ええい、すばしっこい!スピード系のユニーク持ちか?」




 翻弄される敵たちを他所目よそめに、植村はこの場をどう収めるのが最適解か?ということを、考えいた。




 ちからで、ねじ伏せるのは簡単だ。でも、それじゃ余計に反感を買うだけ。ついさっき、学んだばかりだ。かといって、この人達も血の気が多そうだし、話し合いでは解決しなさそうだ。



 やるしか……ないのか?








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